日常の何気ないシーンに現れる成功者の思考法を気鋭の脳科学者・西剛志が解説。「会社を潰す2代目と飛躍させる2代目」について、両者が育ってきた背景に潜む“差”について考察するシリーズの第2回。連載「何気ない勝者の思考」とは……
昔から何世代にも渡って繁栄してきた企業の経営者には必ず「帝王学」が存在すると言われてきました。
前回は「物に投資する」VS「体験に投資する」がテーマでしたが、今回も現代の帝王学とも言える“勝者の思考”を現場の研究から紐解いていきたいと思います。まずはこんなことを考えてみてください。
【勝者の思考2】我が子がよい成果を出しました。あなたはどう反応しますか?
A.天才だ!と両手をあげてほめる
B.ほめない
C.ご褒美をあげる
結論は『どれもよくない結果を生み出す』です。
まず、この3つの行為それぞれが、子供にどのような影響を与えるのか? について見ていきたいと思います。
褒めすぎる親の元で育った子の末路
最近、子供を大げさにほめる親が増えたと言われます。もちろん、ほめることはメリットもありますが、マイナスな側面も持っていることを理解することが必要です。
これを理解するために、スタンフォード大学をはじめとする「子育てスタイル」の研究からわかってきた親の4つのタイプを紹介します(*1-3)。おおよそ親はこの4つのタイプに分けられます(表現は研究者によって異なることもあります)。
<親の4つのタイプ>
1.支援型(ほめる+しかる)
2.迎合型(ほめるだけ)
3.厳格型(しかるだけ)
4.放任型(関心をもたない)
先述の「A.天才だ!と両手をあげてほめる」という親は、2番の『迎合型』に相当します。「B.ほめない」という親は、3番の『厳格型』か4番の『放任型』のいずれかに当てはまります。
日本人1万人を対象とした研究では、どんな親に育てられたかで、年収に違いが見られることが分かってきました。あくまでも統計学ですので、例外もありますが、全体の傾向としては、ほめるだけの迎合型は男女ともに年収が低くなっている様子がわかります(*4)。
なぜ、こんなことが起きるのでしょうか?
そのヒントはスタンフォード大学で行われたある有名な実験にあります(*5)。
研究者は子供に問題を解かせて、成績をほめたグループとほめないグループに分けました。すると、驚いたことに、ほめられた子どもは、その後、難しいことにチャレンジしようとしなくなってしまったのです。
子供は「頭がいい」と能力をほめられると、「頭がいい=問題ができる」という状態を維持するために、確実にできる簡単な問題ばかりに取り組むようになります。その結果、難しい問題にチャレンジしなくなってしまったのです(逆にほめないほうが、能力をほめるグループよりも難しい問題にチャレンジするようになったそうです)。
ただしこの実験において、ほめ方を工夫したところ、圧倒的に難しい問題を選択するグループが発見されました。
それが『努力をほめられたグループ』だったのです。
この現象は動物も同じで、曲芸をするイルカに、ショーが終わったときに「あなたはすごい!」とエサを与えるよりも、イルカが大きくジャンプするたびに「すごいね!」とプロセスに反応してあげると、イルカはもっとジャンプしようとします。
ほめられると、脳の報酬系(線条体)が活性化して、ドーパミンを分泌します(*6)。努力をほめられると、人や動物はもっと努力したくなってしまう生き物なのです。
「能力をほめるのではなく、努力をほめる」、「下手にほめるよりは、ほめないほうがよい」。このことを覚えておくと、子供はどんどん難しい問題にチャレンジして、大人になってからも新しいことに挑戦し、あらゆる困難を乗り越えていける人になっていくでしょう。
また厳しい言葉ばかり浴びせて、自分に服従させるような関係も子供にとってはマイナスです。実際にルクセンブルク大学の研究グループは、3000人の小学生を対象に40年にも渡る長期研究を行なった結果、「ルールを守りすぎる子供は、大人になって卓越した成果を出しにくい」ということを発表しました(*7)。
また、コーネル大学の研究では『協調性が高すぎる男性は、収入が低い』ということも明らかになっています (*8)。協調性のある男性は、協調性のない男性よりも約7,000ドル(約90万円ほど)低い傾向にあったそうです(女性では、不思議と協調性の有無による収入差はそれほど見られませんでした)。
経営者や医師、弁護士など、「子供を自分と同じ職種に就かせて跡を継がせたい」と親の考えを押しつけ、従わせるような環境で育てると、子供は親の言うことばかりを聞くようになって、自分の意見を持ちにくい状況になってしまいます。すると、周りに合わせてしまう大人になってしまい、当然、2代目としてうまくいかないケースも多くなるでしょう。
子供の能力を引き出す現代の帝王学は、ほめる+しかるの2つの要素を同時に持った「支援型」の育て方にあることが数々の研究からわかってきています。
次回は「報酬をあげることの真実」について、続きをお伝えしたいと思います。
<参考文献>
(*1) Baumrind, D., “Child care practices antecedeng three patterns of preschool behaveor”Genetic Psychology Monographs, 1967, Vol.75(1), p.43-88
(*2) Baumrind, D., “Authoritarian vs. authoritative parental control”, Adolescence, 1968, Vol.3, p.255-272
(*3) Maccoby,E.E. & Martin, J.A., “Socialization in the context of the family: Parent-child interaction” In P. Museen(Ed.) Handbook of Child Psychology, Vol.4, New York: Wiley, 1983
(*4) 西村和雄、八木匡、「子育てのあり方と倫理観、幸福感、所得形成 –日本における実証研究-」独立法人経済産業研究所『RIETI Discussion Paper Series 16-J-048』, 2016
(*5) Mueller, C.M., & Dweck, C.S.,“Praise for Intelligence Can Undermine Children's Motivation and Performance”, Journal of Personality and Social Psychology, 1998, Vol.75, p.33
(*6) Izuma K. et.al.,“Processing of social and monetary rewards in the human striatum”, Neuron, 2008, Vol.58(2), p.284-94
(*7) Marion Spengler, et. al., "Student Characteristics and Beh
aviors at Age 12 Predict Occupational Success 40 Years Later Over and Above Childhood IQ and Parental Socioeconomic Status" Developmental Psychology, 2015
(*8) T.A. Judge,et.al.,“Do nice guys--and gals--really finish last? The joint effects of sex and agreeableness on income.” J. Pers. Soc. Psychol., 2012, Vol.102(2), p.390-407
■連載「何気ない勝者の思考」とは……
日常の何気ないシーンでの思考や行動にこそ、ビジネスパーソンが成功するためのエッセンスが現れる。会議、接待、夫婦やパートナーとの関係や子育てなど、日常生活のひとコマで試される成功者の思考法を気鋭の脳科学者・西剛志が解説する。