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2023.05.28

フェイスブック創設者の父も実践した、子供のやる気を引き出す“心得”って?

日常の何気ないシーンに現れる成功者の思考法を気鋭の脳科学者・西剛志が解説。「会社を潰す2代目と飛躍させる2代目」について、両者が育ってきた背景に潜む“差”について考察するシリーズの第3回。連載「何気ない勝者の思考」とは……

脳科学者・西剛志「勝者の思考」

Unsplash/Nathan Dumlao

昔から何世代にも渡って繁栄してきた企業の経営者には必ず「帝王学」が存在すると言われてきました。

前回は「ほめる」VS「ほめない」をテーマに述べましたが、今回も現代の帝王学とも言える“勝者の思考”を科学的なリサーチから紐解いていきたいと思います。

ご褒美を与えられた子供がとった驚くべき行動

ご褒美をあげてやる気を高めようとするビジネスパーソンや経営者を見ることがあります。

しかし、このご褒美をあげる行為は、子供の能力を著しく奪ってしまうことをご存知でしょうか。

これは米国のデシ博士による「やる気」の研究です (*1)。

研究チームは、1970年代に流行った面白い立体パズルを子供たちに30分やってもらい、休憩を入れる実験を行いました。

すると、多くの子供たちはパズルにはまり、休憩中も夢中になってパズルを解き続けました。つまり、パズルへの「やる気」がかなり高い状態です。

そこで、研究者たちは子供のやる気をもっと高めようと、このように伝えました。

『パズルが解けたら、報酬を1ドル与えるよ!』

そして子供にパズルをやってもらい、休憩時間になりました。すると、不思議なことが起きたのです。

他の本を読み始めたり、隣の子と話し始める子がいたり……、あれだけパズルに夢中になっていた子供たちが、パズルに見向きもしなくなりました。報酬によって逆にやる気が下がってしまったのです。

私たちの脳は、報酬を与えられると線条体が発火して、報酬そのものが快感になります。つまり、パズルを解くプロセスの快感が、報酬の快感に入れ替わってしまったのです。報酬を与えるとやる気が下がるこの現象を「アンダーマイニング効果」と言います(*2)。

「これができたら欲しいものを買ってあげる」「〇〇したらお小遣いをあげる」「〇点とったらゲームができる」。私たちはニンジンをぶらさげて、子供のやる気を引き出そうとすることがあります。しかし、報酬は麻薬のようなもので、目の前の報酬ばかりに目がいってしまうと、最も大切なプロセスを楽しむ力や成長していく喜びが失われてしまいます。

「何不自由ない環境で育てているのに、なんでやる気がないんだろう?」という人がいますが、それはもしかすると、ご褒美を与えるという環境がやる気を失わせてしまったのかもしれません。

子供のためにとご褒美をあげていた人にはショックかもしれませんが、これが真実です。

ただし、一方で朗報もあります。

それは、成果ではなく努力に対して報酬を与えると逆にやる気が高まることが報告されていることです(*3)。スタンフォード大学の研究では、サプライズでご褒美をあげると、やる気が失われないことも分かってきています(*4)。つまり、努力や成長したいという子供の姿勢に対して、サプライズでプレゼントをすると、子供のやる気を高める効果が期待できるのです。

マーク・ザッカーバーグの父親が実践していた子育て

時価総額70兆円を超えるフェイスブック社(現メタ社)を弱冠20代にして作り上げたマーク・ザッカーバーグの父親は歯科医をやっていましたが、面白いエピソードがあります。

小学生の頃、マークが父親に「バスケットボールを買ってほしい」と頼みました。すると父親から「なぜ、それをやりたいんだ?」と聞かれたので、「みんなやってるんだ、だから買ってほしい」と答えたそうです。すると、父親は即答で「みんながやっているから!? それならダメだ!」と拒絶しました。

そして、マークがフェンシングの試合を見ているときに父親に「フェンシングをやってみたい」と切り出しました。そのとき再び父親から「なぜ、やりたいんだ?」と聞かれたそうです。そのときマークは「みんながやってるからじゃないよ、自分はもっと強くなりたいんだ!」と答えたところ、「そうか!」と返事が返ってきました。

そして、ある日、気づいたら自宅にフェンシング道具の一式がドンと置かれていたそうです。

子供にすぐに物を買ってあげることは、自制心を失わせることがわかっています。サルの実験でも、すぐに抱っこされる子ザルよりも、時間を置いて抱っこされた子ザルのほうが、セルフコントロール力が高く、ストレスにうまく対処できることがわかっています。

また米国の研究でも、1000人の子供を30年にわたって追跡リサーチした結果、セルフコントロール力が高い子供ほど、大人になって高い社会的地位と所得を得ているという相関関係があることもわかってきました (*5)。

脳科学者・西剛志「勝者の思考」

すぐに子供を喜ばせるのではなく、子供にきちんとした目的があって、成長に関わることには投資する。こういった親としての姿勢が、子供のセルフコントロール力を育み、将来、素晴らしい能力を発揮していく土台となっていきます。

そして、事前にプレゼントを予告すると、プレゼントがゴールになってしまいますが、サプライズでプレゼントされると内発的動機が失われることもありません。

「物よりも体験を多く与え、物を与えるときはサプライズ」。現代の帝王学の中心的な考え方の1つです。社員教育にもつながることですので、是非覚えておいてください。

過去連載記事

脳科学者・西剛志「勝者の思考」

西剛志/Takeyuki Nishi
脳科学者(工学博士)、分子生物学者。武蔵野学院大学スペシャルアカデミックフェロー。T&Rセルフイメージデザイン代表取締役。東京工業大学大学院生命情報専攻修了。2002年に博士号を取得後、特許庁を経て、2008年にうまくいく人とそうでない人の違いを研究する会社を設立。子育てからビジネス、スポーツまで世界的に成功している人たちの脳科学的なノウハウや、大人から子供まで才能を引き出す方法を提供するサービスを展開し、企業から教育者、高齢者、主婦など含めて1万人以上に講演会を提供。メディア出演も多数。著書に『世界一やさしい 自分を変える方法』『なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?』『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』など累計26万部突破。

<参考文献>
(*1) Deci EL. “Effects of externally mediated rewards on intrinsic motivation”, J. Pers. Soc. Psychol., 1971, Vol.18, p.105–115
(*2) Murayama, K., et.al, “Neural basis of the undermining effect of monetary reward on intrinsic motivation” Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 2010, Vol.107(49), p.20911-6
(*3) Roland, G. & Fryer, Jr. “Financial Incentives and Student Achievement: Evidence from Randomized Trials”, The Quarterly Journal of Economics, 2011,
Vol.126(4), p. 1755–1798
(*4) Lepper, M.R. et.al. “Undermining children's intrinsic interest with extrinsic reward: A test of the "overjustification" hypothesis”, Journal of Personality and Social Psychology, 1973, Vol.28(1), p.129–137
(*5) Terrie E. Moffitt, et.al.“A gradient of childhood self-control predicts health, wealth, and public safety” PNAS, 2011, Vol.108 (7), p.2693-2698

■連載「何気ない勝者の思考」とは……
日常の何気ないシーンでの思考や行動にこそ、ビジネスパーソンが成功するためのエッセンスが現れる。会議、接待、夫婦やパートナーとの関係や子育てなど、日常生活のひとコマで試される成功者の思考法を気鋭の脳科学者・西剛志が解説する。

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TEXT=西剛志

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