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2023.04.30

「つまらない」とは言わせない! 神経科学者が提唱する“幸せを掴む”教育とは

応用神経科学者の青砥瑞人氏に、日本が直面するこれからの教育の問題点を問う短期連載の2回目。変化と刺激に満ち溢れた現代社会で、子供の幸せを実現するためには、どのような子育てが求められるのか。脳の観点から教えてもらった。#1

青砥瑞人インタビュー

Unsplash/Kelly Sikkema

自分で幸せを作り出せる子供に育てる

親なら誰でも、子供の幸せを願っています。それを叶えるために必要なのが、「アクティブ・ハピネス(能動的な幸せ)」を育む教育だと僕は思っています。

若かりし頃の美智子上皇后は、ご自身の子育てに関してのコメントで、「『幸せな子』を育てるのではなく、どんな境遇におかれても『幸せになれる子』を育てたい」とおっしゃっています。※出典:「歩み―皇后陛下お言葉集」海竜社; 改訂版 (2010/2/1)

すなわち、能動的に幸せをつくり、それを自分自身で育むことができる力を身につけさせてあげたいということ。それは教育の本質であり、これを僕はアクティブ・ハピネスと呼んでいるのです。

反対に、パッシブ・ハピネスは受動的で、幸せがどこか外側にあると認識している状態のこと。太宰治さんの『斜陽』には「幸福の足音が、廊下に聞こえるのを今か今かと胸のつぶれる思いで待って、からっぽ。」という一節があります。詩的で情景が浮かぶようなとても美しい表現ですが、物悲しげに響きます。

幸せがどこからかやって来るのをただ待つのではなく、我が子にはとびきり幸せになってほしいし、大切な人を幸せにしてほしいと思うのが親心。自分で幸せを作り出せる力を持つ人こそ、その幸せを他人にも提供できるのです。

では、どのようにアクティブ・ハピネスを育んでいくとよいでしょうか。私たちの脳は、出来事とその時の感情をセットで記憶しています。過去を振り返った時、嫌な記憶を思い出すとその時感じたネガティブな感情にまた支配されてしまうし、幸せな記憶を思い起こすと当時のハッピーな感情を再度味わうことができるのです。

たとえば、野球好きなら、目を閉じて2023年WBCの日本の準決勝、決勝の場面を思い浮かべるだけで、幸せな気分に浸れることでしょう。これも、立派なアクティブ・ハピネス。大きな出来事でなくとも、「ごはんが美味しかった」「大好きなお友達と遊んだ」といった、日常のささやかなハッピーを認識し、その記憶をまた味わうことで、いくらでもアクティブ・ハピネスを実践することができます。

僕は娘を叱ることは基本的にありませんが、唯一強めに注意するのは、彼女が「つまらない」という言葉を発したとき。紙1枚、ペン1本あれば、お話を自由に作れるし、好きな絵だって描ける。自分が楽しんだりハッピーに過ごすきっかけは、どんな環境でも、いくらでも探せるのです。「『つまらない』とは言わせない」というのが、僕の子育て哲学の一つです(笑)。

慣れ親しんだ環境からでも、新しい発見ができる感受性を大切に

前回の記事で、ドーパミン性のモチベーションには、大きくわけて二つのタイプがあることをお話ししました。一つは未知のものに向かうSEEKの感情、もう一つは既知のものに向かうWANTの感情です。

五感に訴えるリアルな体験をしてもらうために、我が家では休日できるだけ子供を連れて車で出かけるようにしています。その際、ドーパミン性のモチベーションの特性を踏まえ、あえて異なる2つのベクトルで目的地を設定しています。

一つ目は、SEEKの感情を促す、まだ一度も行ったことのない新たな目的地。もう一つは、WANTの感情を促す、何度か通ってよく知っている目的地です。

前者のSEEKの感情、つまり好奇心を掻き立てる新規の体験も極めて重要ですが、脳の学習意欲を引き出すには、後者のように慣れ親しんだ文脈から何かを見出す体験も大切です。大好きなブランコに乗り続けているからこそ、大きく漕げるようになった、今度は立ち漕ぎに挑戦できるかも、と能動的に学習し成長していけるでしょう。それはアクティブ・ハピネスの育成につながります。

改めて考えてみると、坐禅や茶道といった日本古来の伝統的な文化は、慣れ親しんだ文脈に新たな発見をすることを重視しています。毎回まったく同じことをしているようでも、日々気候は変わりますし、自分自身も昨日と今日では変わっていますから、毎回新しい体験ができます。そこに小さな楽しみを発見できる能力はかけがえのないもの。ノーベル賞につながるような画期的な発見や発明だって、実は日々の継続や実験の繰り返しから生まれる場合も少なくないのです。

強い刺激だけではなく、弱い刺激にもワクワクできる脳を育てる

AIなどの新しいテクノロジーと触れ合う機会を子供から奪うことについては僕は反対の立場ですが、スマホなどを通じて刺激の強い情報に常にさらされている状況は、アクティブ・ハピネスを育む観点から回避した方がいいと思っています。

情報に触れる際に留意しておきたいのは、①脳は強い刺激の情報ほど反応しやすく ②弱い刺激の情報は意識しないと拾えない、という脳の特性です。

①については、きっとみなさん感覚的に感じているのではないでしょうか。インターネットやゲームといった強い刺激は、日常にあふれ私たちのアテンション(注意)を容易に惹きつけます。プロによってデザインされたゲームや動画などは、大人も子供も夢中になりやすく、その際、脳内では快楽物質が分泌されています。こうしたメディアに触れることは決して悪いことではありませんが、度を過ぎれば、いずれ脳がアディクト(依存)するようになります。適度に楽しみましょう。

また強い刺激の情報の中には、ネガティブなニュースなどがあります。僕はニュースサイトなどをできるだけ見ないようにしています。次々と流れてくる痛ましいニュースは、よりよいアクションにつながるきっかけにもなり得るという意味では大切ですが、ただただ気分が落ち込むようなものに関しては、意識してシャットダウンすることで、ネガティブな感情に支配されないようにすることも重要です。

そしてもう一つの留意点。②弱い刺激の情報は意識しないと拾えない。先に挙げたように、私たちはネガティブな情報に注意を奪われやすい「ネガティビティバイアス」という脳の仕組みを持っています。つまり、半自動的にネガティブな情報を受け取ってしまうため、その反対のポジティブで、さらに刺激の弱い情報は、強く意識して注意を向けない限りなかなか拾うことができないのです。「道端に花が咲いてキレイだった」「今日は早起きできた」、そういった些細なハッピーの感情に意識的に注意を向けることが大切です。

まずは親子で、心からトキメクようなリアルな体験をしたり──例えば沖縄の海の生き物との出合いの場をつくってあげたり(前回記事参照)、慣れ親しんだものから一緒に何かを発見してみてください。いつもの散歩道で、新しい何かを発見する宝探しをするのも楽しそう。

何気ない日常生活にささやかなハッピーを見つけたりワクワクできるような脳を育み、能動的に『幸せになれる子』を育てていきたいですね。

※第1回は関連記事からご覧いただけます

青砥瑞人

青砥瑞人/Mizuto Aoto
DAncing Einstein CEO、応用神経科学者。日本の高校を中退後、脳の不思議さに惹かれてアメリカのUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)に入学し、神経科学学部を飛び級卒業。ドーパミン(DA)が溢れるワクワクが止まらない新しい学び体験と教育・共育をデザインすべく、2014年にDAncing Einsteinを創設。脳の知見を医学だけではなく人の成長に応用し、AI技術も活用するNeuroEdTech®とNeuroHRTech®という新しい分野を開拓。同分野において、いくつもの特許を取得した脳神経発明家としての顔も持つ。

COMPOSITION=井上健二

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