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2023.04.23

会社を潰す2代目と飛躍させる2代目。その差は幼少期にあった!

日常の何気ないシーンに現れる成功者の思考法を気鋭の脳科学者・西剛志が解説。「会社を潰す2代目と飛躍させる2代目」について、両者が育ってきた背景に潜む“差”について考察するシリーズの第1回。連載「何気ない勝者の思考」とは……

西剛志連載「勝者の思考」

Unsplash/Road Trip with Raj

優秀(金持ち)な親が陥る子育ての“大誤解”

私はうまくいく人とそうでない人の違いをこれまで15年ほど研究してきましたが、成功した経営者の2代目と会ったとき、驚くことがあります。

それは、生き生きと事業を広げていく2代目がいる一方で、成果が出せず苦しんでいる人もいることです。

昔から何世代にも渡って繁栄してきた企業の経営者には必ず「帝王学」が存在すると言われてきましたが、具体的にそれはどのようなものなのか。

今回は実際にうまくいく人のリサーチや最新研究から、現代の帝王学とも言える“勝者の思考”を紐解いていきたいと思います。まずはこんなことを考えてみてください。

【勝者の思考1】あなたにたくさんのお金が入ってきました。子供のために何か買ってあげるとしたら、あなたはどうしますか?

A. とにかく欲しいものを全部買ってあげる
B. 物でなはく体験をプレゼントする

どちらを選ぶか悩ましいところですが、子育てで失敗する人ほど【A:とにかく子どもが欲しいものを買ってあげる】を選択する傾向があります。

富裕層はお金があるため、とにかく、できる限り子供の環境を整えたい! という一心で、欲しいものをとにかくいろいろと買い与えるケースがあります。

しかし、研究でわかってきたことは、このような行為は、子供には危険な行為であるという事実です。

米国のタフツ大学では、36名の幼児に「おもちゃが16個ある部屋」と「おもちゃが4個ある部屋」で遊ばせる実験を行いました。

すると、「おもちゃの数が16個」よりも「おもちゃの数が4個」を与えられた幼児のほうが、1つのおもちゃで遊ぶ時間が2倍になり(集中力が高く)、遊び方もレパートリーが増え、創造性が溢れるようになったのです (*1)。

数多くのおもちゃがあると、子供は目移りしてしまい、1つのことに集中する力が育まれません。次々におもちゃを変えて遊び、飽きたら次というような感じで、発想力まで使わなくてすむ状態になってしまいます。

一方で、おもちゃが少ないとどうでしょうか。例えば、目の前に積み木しかなかったら、子供はその1つの積み木だけで、どのようにして遊ぼうかと集中して想像を膨らませます。そして、積み木をクルマにしてみたり、空を飛ぶ飛行機にしたり、積み木で駅のホームを作って電車で遊んだりと、創造性を発揮します。
子供の集中力と創造性を育むには、おもちゃの数が少ない環境のほうが適しているのです。

クリスマスや誕生日に複数のプレゼントを与える親がいますが、これは子供にとって好ましくない、危険な行為だと言えます。

体験への投資が自信につながる

また、子育てがうまい成功者ほど、物にたくさんのお金をかけないという傾向があります。

現在、日本の美容業界トップとなった湘南美容外科クリニック(SBCメディカルグループ)の代表・相川佳之氏は、もともと薬局チェーンを営む父親のもとで育ったそうです。あるインタビューで「父親は物は買ってくれませんでした。でも体験にはたくさん投資してくれました。物は人を成長させないが、体験は人を成長させる」と話しています。

私自身も数々の事業を成功させている経営者にインタビューしてきましたが、子供の頃、親にあまりおもちゃを買ってもらえなかった人がほとんどでした。その代わり、旅行やアウトドア、芸術やスポーツなど新しい体験には投資してもらえる環境で育った人が多いように思います。

実際に、研究でも、物よりも体験にお金をかけるほうが、幸福度や自己肯定感が高まり、本来の才能が発揮されやすくなることがわかっています(*2)。欲しいものを手に入れたとき、その瞬間は幸せに感じるかもしれませんが、その幸せは長続きしません。

しかし、旅行に行ったり、美味しい食事をしたり、コンサートやスポーツ観戦で盛り上がったというような体験の記憶は、いつになっても幸せな気持ちを再現させ、私たちの心の深いところで大きな柱のように自己を支える礎(自信)になっていきます。

この体験への投資が、会社を経営する自信そのものにつながっていくのです。

実際に幸福度が高い人は仕事の生産性が31%高く、創造性も300%高かったそうです(*3)。逆に幸福度が低いと自己中心的な思考になりやすいことも報告されています(*4)

現代は、人工知能AIの台頭によって既存の仕事が消滅し、戦争や銀行倒産、天変地異が起きたりと、何が起こるか分からない世の中です。そんな時代だからこそ、物ではなく体験から生まれる揺るぎない自信と利他の心、創造性がこれまで以上に大切になっていくでしょう。

ファーストリテイリングの柳生正氏も経営者の2代目、星野リゾートの星野佳路氏は4代目です。いずれも周囲の反対にめげない強い自信と、社会貢献の想い、そして業態を大きく変える発想力を発揮することで世界に進出する大企業へと発展させました。

物が豊富で、かつネットを通してすぐに買える時代。私たちはつい物を買ってしまいがちですが“何にお金を使うか”が子供の能力に影響します。物を買ってはいけない訳ではありませんが、購入する前に、もう一度ゆっくり考えてみてください。

脳科学者・西剛志「勝者の思考」

西剛志/Takeyuki Nishi
脳科学者(工学博士)、分子生物学者。武蔵野学院大学スペシャルアカデミックフェロー。T&Rセルフイメージデザイン代表取締役。東京工業大学大学院生命情報専攻修了。2002年に博士号を取得後、特許庁を経て、2008年にうまくいく人とそうでない人の違いを研究する会社を設立。子育てからビジネス、スポーツまで世界的に成功している人たちの脳科学的なノウハウや、大人から子供まで才能を引き出す方法を提供するサービスを展開し、企業から教育者、高齢者、主婦など含めて1万人以上に講演会を提供。メディア出演も多数。著書に『世界一やさしい 自分を変える方法』『なぜ、あなたの思っていることはなかなか相手に伝わらないのか?』『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』など累計26万部突破。

過去連載記事

<参考文献>
(*1) Dauch C., et.al. “The influence of the number of toys in the environment on toddlers' play”, Infant Behav. Dev. 2018, Vol.50, p.78-87
(*2) Van Boven, L. & Gilovich, T. “To Do or to Have? That Is the Question”, Journal of Personality and Social Psychology, 2003, Vol.85(6), p.1193–1202
(*3) Lyubomirsky S. et.al., “The benefits of frequent positive affect: does happiness lead to success?” Psychol. Bull., 2005, Vol.131(6), p.803-55
(*4) Chaplin, L.N., & John, D.R. “Growing up in a material world: Age differences in materialism in children and adolescents”, Journal of Consumer Research, 2007, Vol.34(4), p.480–493

■連載「何気ない勝者の思考」とは……
日常の何気ないシーンでの思考や行動にこそ、ビジネスパーソンが成功するためのエッセンスが現れる。会議、接待、夫婦やパートナーとの関係や子育てなど、日常生活のひとコマで試される成功者の思考法を気鋭の脳科学者・西剛志が解説する。

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TEXT=西剛志

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