2024年6月14日から18日までの5日間で開催された2025年春夏ミラノメンズファッションウィーク。今季は、イタリア文化の本質といえるテクネ(ギリシャ語で「職人の技巧と芸術の融合」の意)を通して各ブランドのクリエイティヴィティを表現し、男の個性を輝かせた。
それぞれの信念をクラフツマンシップで表現
特に“編み”の使い方にはこれまでに築きあげたイタリアの文化や歴史だけではなく、色気やキャラクターが明快に表れ、ラグジュアリーウエアとしての神髄を存分に味わうことができる。
また、ランウェイの会場は各々のデザイナーの価値観やブランドの世界観が具現化されたものだった。美術館(グッチ)や、ミラノ特有の美しい庭園(ダンヒル)、金属の葉が生い茂る廃工場(ゼニア)がショー会場に選ばれるなど、いずれも「どのような場所にどのような人が存在するのか」という考えが明確で、服と世界観が共存した空間に没入できる臨場感があった。
マーケット志向、つまり日常のニーズに適したアイテムが増えている昨今であるが、ミラノコレクションではそれぞれの個性がフォーカスされることで、メンズファッションの切れ味を改めて感じられた。
1.グッチ|ブランドの本質とリアリティが美術館と共鳴した
「incontri」(出会いの意)をテーマに、都市と海辺、そして人生に愛情を持つ人々が出会う瞬間やそれに対する喜びを描写。それは心地よさであり、自由を感じる瞬間でもある。決して宝飾的ではなく、華美でもない。心地よさ、快適さも多面的なラグジュアリーの意味のひとつである。
美しいイタリアン サルトリアーレをベースとした構築的なシルエット。フリンジやジャカードなどグッチが持つ職人技術。そしてパステルカラーといった鮮やかな色彩。それらにクリエイティブ・ディレクター、サバト・デ・サルノは人々が自由に行き交う美術館というスペースに共鳴するかのようにコレクションを開催した。
2.ドルチェ&ガッバーナ|衝撃的なラフィアのトップスに具現化されたイタリアの美と個性
テーラーリングと向き合うデザイナーデュオの感覚はドルチェ&ガッバーナの本質。そのシンプルでストイックな一面は本能的でもある。彼らの経験、例えば手仕事における大胆さと緻密さを掛け合わせ、磨き続けてきた。テーマである「イタリアン ビューティ」と対峙しながら、美と個性を描いた。
特に、テーラードと組み合わされたクロシェ編みで仕立てたラフィア(ラフィア椰子の葉から採れる天然繊維)のトップスは、職人の手の感覚が見る者の心を魅了し、美を探求しながらも軽やかさを捨てず、イタリアのリゾートに存在する男を思い起こさせる。異国から見た視点も加えられることにより、土着的に留まることなく、世界中にその感覚を共有した。
3.プラダ|騙し絵というたったひとつの軸から得る自由とエネルギー
ミウッチャ・プラダとラフ・シモンズの’25SSは若さに潜在するエネルギーと自由な日常着を主軸としている。メインモチーフとなっているのは現実と非現実の境界を曖昧にさせるトロンプロイユ(騙し絵)の技法と錯覚を生じさせるグラフィック。
例えば、ノスタルジックなブーツカットパンツはツイードのように見えて実はウールギャバジン。’24AWもウエストラインとベルトの配置に仕かけを施していたが、このコレクションはそこにペイントされた騙し絵のベルトで彩ることで、擦った痕跡が残っているように見える。普段から着なれているテクスチャーを浮き彫りにさせることで、作為的ではない洋服の自由なスピリットが体現された。
4.ダンヒル|古典的な仕事着ではなく謳歌するための人生着
英国的なクラシックと現代的なリラックスのバランスを組み替えながら、洗練されたメンズウエアを展開する新生・ダンヒルの2シーズン目。クラシックへの視線を感じさせながらも、解放感を漂わせた。会場となった庭園は、英国式のガーデンパーティーさながらにテーブルやパラソルを配置。
創業当時から脈々と継承されているブラウンのドライビングウエアは真っ白なタイドアップの着こなしとスエード素材のシューズでスタイリングされ、絶妙な配色と素材感によって繊細な按配に。また、バーリーブルーやコーラルレッドといったカラーパレットやドライビンググローブやステッキ、傘などを巧みに取り入れ、「紳士たるや」を現代的に示した。
5.ディースクエアード|奇抜な演出にも力負けしない、グラマラスとカジュアルの共存
ショー会場は老舗劇場、テアトロ・リリコ・インテルナツィオナーレ。ダンサーたちの派手なパフォーマンスによって気持ちを高揚とさせながらも品格が見え隠れする。コレクションもそれを体現するかのように、グラマラスとカジュアルが共存。活気溢れる演出は、洋服を着た際の力強さを表しているかのよう。
特に際立ったのが、ワークジャケットやトレンチコートに使用されたラテックス素材。透け感と重厚感を重ね合わせたレイヤード感がディースクエアードらしい。ウルトラタイトなスキニーパンツやボンテージハーネス、ワンショルダーなどを合わせるが、ベースにはカジュアルとトラッドの両方がある。どれもがウエアラブルだ。
6.ゼニア|モチーフ、文化、そして男性像。シンプルながらも一貫した姿勢
広大な砂山に生い茂る金属の葉は、リネンの原料であるフラックス。そのリネンの生地使いで、サルトリアルとワークウエアを交差させ、メンズウエアをアップデートさせた。ハードではなくソフトなシルエットにニットやオープンカラーシャツ、トラウザーを合わせることによって、エレガンスな日常着を体現。シルクのシャツジャケットにはフラックスのモチーフが描かれ、遊び心も忘れていない。
また、フィッティングからプロモデルだけではなく、一般の顧客に着つけをすることでリアルなウエアを考え抜いているなか、フィナーレでは2023年よりグローバルアンバサダーに就任したマッツ・ミケルセンが登場。マッツがゼニアの魅力を最大限に引きだした。
7.ジョルジオ アルマーニ|ノスタルジックに自然の豊かさのなかで生きる男たちの佇まい
ジョルジオ アルマーニは、リラックス感のあるテーラーリングにワークウエアのディテールを取り入れながら、大地や植物のありのままの姿を感じさせた。
イタリアンローカルのノスタルジックなムードを思い描いているかのようなコレクションでは、首元がゆったりとしたシャツにノーカラージャケット、光沢感のあるパンツなど、どれもが風を感じながら練り歩く男の佇まいを表現している。上品なグレーを中心に自然を想起させるベージュやカーキ、多彩なブルーなど、繊細な設計に対して色彩でアクセントをつけた。
自然の豊かさとそこに存在する者の仕草を優雅につくりだすアルマーニの流儀は、もはや歴史であり文化でもある。
8.エンポリオ アルマーニ|豊かな大地と穏やかな景観を
思い起こさせる優美な男の服
都会に慣れ親しんだ男が馬に乗って丘を越え、壮大なラベンダーや小麦畑に行き着く……。そこで感じる自由な心の再発見までの物語を洋服で描写した。砂や干し草、チョークといった自然界の色彩が太陽に当たることで、色褪せていく生々しくも穏やかな様子が繊細に表現。
シルクを織り交ぜたウール、ショルダーに絶妙な落ち感のあるアウターが風をはらんだように軽快なスタイルが生みだされた。また、シアーな素材感と流れるようなシルエットのジャケット、トップスは、心踊る夏を待ち侘びるかのようであり、咲き誇る花々や力強く根を張る木々や草々に寄り添うようにも見える。この奥行きある世界観こそ、エンポリオ アルマーニの神髄である。