役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。今回は、2026年9月11日より公開の『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』。

死ぬまで消えない。ベトナム戦争の海兵隊員の心に刻まれた傷
数年に1度、我々の元に届く塚本晋也監督による戦争映画を通しての痛烈なメッセージ。「戦争のリアルな姿」に、真正面からぶつかり、肉薄しようとする塚本監督の姿勢に、滝藤、尊敬の念が尽きません。
大岡昇平のフィリピン・レイテ島での凄惨な体験を基にした『野火』(2015年)から、幕末の侍たちの暴力性を描く『斬、』(2018年)、終戦直後の孤児を描いた『ほかげ』(2023年)ときて、今年はベトナム戦争に派遣された黒人兵を扱った『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』。
もはや国籍をこえて、戦争の最前線で人間が体験するすべてを追求するわけですが、今回も容赦ない塚本節。視界不良のジャングルを行進するなか、どこからともわからず銃弾が飛んでくる。疑心暗鬼となり、老人、女性、子供、全員皆殺し。行く先々の村の人々を殲滅(せんめつ)する。
戦地から戻っても彼の戦争は終わりじゃない。そこからも地獄は続いていく。ちょっとした音がきっかけでフラッシュバックし、家族をねじ伏せてしまう衝動性。周囲に理解されない孤独……。残酷な現実だけれども、心に刻まれた傷は死ぬまで消えないのだと観ているこちらも絶望してしまいます。
そしてそして、うお! マジか! と思わず唸ってしまったのは、オスカー俳優のジェフリー・ラッシュが精神科医を演じていること。日本を代表するインディーズ映画のカリスマ塚本晋也監督の映画に『シャイン』『英国王のスピーチ』の名優ジェフリー・ラッシュが! これは熱い! 痺れます。もちろん文句なしの存在感に、引きこまれるお芝居。完璧なキャスティング。「Why did you kill people?」と静かに淡々と何度も問い続けるジェフリー・ラッシュ。その答えを聞くことは恐ろしかったが、逃げていたら何も始まらない。自分のなかに蓋をしてしまった真実と、向き合うことの大切さを学びました。全世界が観るべき映画です。
心の傷が悲惨な出来事を起こす恐ろしさは、自分が出演した映画『八つ墓村』(9月18日公開)でも感じました。ぜひ、皆さん、こちらもご覧ください。
『ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?』
戦争映画を撮り続ける塚本晋也監督の最新作。日本で1200回以上、「ほんとうの戦争」について講演を続けた元米兵、アレン・ネルソン氏の実体験を基に描くヒューマンドラマ。2026年8月に開催されるヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門に選出された。
2026/日本
監督:塚本晋也
出演:ロドニー・ヒックス、ジェフリー・ラッシュほか
配給:キノフィルムズ
2026年9月11日よりkino cinéma 新宿ほか公開
https://nelsonsan.jp/
滝藤賢一/Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。2026年8月28日に映画『私はあなたを知らない、』、9月18日に『八つ墓村』、10月9日に『遥かな町へ』、11月28日に『戦場のボヘミアン カメラマン 石川文洋』など出演作が続々公開!

