俳優・滝藤賢一による連載「滝藤賢一の映画独り語り座」の中から、2023年に紹介した映画5本を編集部がピックアップ! ※2023年1月〜11月掲載記事を再編。
1.『SISU/シス 不死身の男』|中年オヤジがアツくなる!
食欲の秋、スポーツの秋、芸術の秋、映画の秋。ということで今回は3本ご紹介します。
まずは2022年の東京国際映画祭(TIFF)で最優秀作品賞ほか3冠に輝いた『理想郷』(2023年11月3日公開)から。田舎でセカンドライフを送るために帰郷した中年夫婦が、山間部に建設予定の風力発電に反対したら、村人からすさまじい仲間外れにされる物語。絶句です。誰の身にも十分起こり得るシチュエーション。お隣さんとここまで揉めちゃったら、悲惨ですよ。必見です!
そして2023年のTIFFでコンペ部門に選出された『正欲』(2023年11月10日公開)。『あゝ、荒野』の監督・撮影の岸・夏海コンビ。もうね、いいに決まっている。俳優陣も文句なし。完璧でございます。必見です!
さらに滝藤が見終わった瞬間、年甲斐もなく滾(たぎ)ったのがフィンランド映画の『SISU/シス 不死身の男』。物語の舞台は第二次世界大戦末期、荒涼としたフィンランドです。
主人公がヤバすぎる。「もうダメだろう……、もうさすがに生き抜けないだろう」という致命的な攻撃を受けても絶対に諦めない。まさに不死身の男。彼を執拗に追いかけるナチスの軍人が逆に可哀想に思えてくる。
2.『ほかげ』|人生って大変だけど素晴らしいじゃないか! と、思いたい
カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞した『PERFECT DAYS』(2023年12月22日公開)のヴィム・ヴェンダース×役所広司。公共トイレをひたすら掃除しまくる。もちろんそれだけではないが、10分の9は掃除してた印象です(笑)。生きていくのに必要なものって、そんなに多くはないのかもしれないと思わせてくれる映画でした。
人生に無駄なことはないと、何でも興味を持って生きてきた滝藤も、もう47歳。人生の分岐点をとっくに折り返している。これからの人生をよりシンプルにするため、まずはトイレ掃除から始めようと思います。
そして、もう1本「うお、すげえな」と思わず唸ってしまった作品。塚本晋也監督の『ほかげ』。なにを隠そう、私、滝藤賢一のデビュー作品は塚本監督の『BULLET BALLET』。当時19歳。あの時、あのタイミングで塚本さんに出会うことがなかったら、今私は何をやっているのやら。
主演は現在、NHK連続テレビ小説『ブギウギ』のヒロイン役で今や国民的女優となられた趣里さん。屈託ない笑顔にパワーをもらっている視聴者は多いと思います。が、『ほかげ』ではスズ子とは思えない顔を見せます。
3.『せかいのおきく』|ウンコで社会の見方が変わる
滝藤は観葉植物に時間と愛を長年注いできました。ただ最近は、集める・育てる・観賞するだけでは飽き足らず、この滝藤植物園で食物連鎖を起こすことはできないだろうか、地球に恩返しできないだろうか、と考えるようになりました。育った庭の果実が鳥や虫の餌となる。彼らがどこかにウンコをし、それが肥料となる。小さな行動ですけど、生態系の循環に小さく寄与していると信じたい。最近では、自宅でディスポーザーを利用して肥料を作ってみようと試行錯誤しております。
そんな社会の見方を変えるキッカケにもなる映画が阪本順治監督の『せかいのおきく』。舞台となるのは幕末。井伊直弼(なおすけ)のもと、安政の大獄が起きた激動の時代。といっても主人公は武士でなく、江戸市中から出たウンコを買って、千葉の農家に売る下肥(しもごえ)買いの若者です。
こんな職業があったとは! 聞けば、大奥のウンコは貴重ということで市中の長屋のものより高く売られていたとか。ウンコにまで身分の差があるなんて面白すぎる。何を食べてようが、出てくるものは変わらないと思いますが、身分が高い人のウンコは栄養価が高いんですかね。想像しちゃうので、この辺でやめときましょう。
4.『ひみつのなっちゃん。』|滝藤賢一がドラァグクイーンに!? 初主演映画
この作品のビジュアルが世に公開された日、「美しすぎる……」と日本が少しだけザワザワしたのを皆様ご存知でしょうか? あの美しすぎると言われた人、オレです!
今回ご紹介する作品は滝藤の初主演映画! ドラァグクイーンのロードムービーです! バージン! モリリン! ズブ子! 3人のクイーンが! な、な、なんと! 仲間のなっちゃんの訃報を受け、岐阜の郡上八幡で行われるお葬式に参列することに! いやー! これだけでも面白そう!!! っていかーん! 【!】ばかりじゃないか! ついつい力が入ってしまいました(笑)。
郡上八幡……素晴らしい町です。自然も美しく、何を食べても美味しい。温泉もあるし、なにより人が温かい。あのコロナ禍で大変な時期に東京から上陸した我々撮影チームを快く迎え入れていただきました。感謝です! そして、思い出深いのはお祭りのシーン! お祭りを再現するため、とても多くの方が来てくださりました! 撮影が終わったあとも、お囃子(はやし)は止まることなく、踊り続ける郡上八幡の皆様! 私たちも踊りを教えてもらいながら、汗だくで踊りまくりました!! 楽しかったあ!!! あ! また【!】連発! 気をつけます!
5.『リバイバル69 ~伝説のロックフェス~』|驚愕の舞台裏を描くドキュメンタリー
2023年、多くの音楽フェスが戻ってきましたね! ただ、明日急遽休みになった! 行きたい! と言っても、チケットは勿論、交通手段や宿泊先を事前に確保しておかないと参加はできない(涙)。だから、このドキュメンタリー『リバイバル69 〜伝説のロックフェス〜』を観て、何ものにも縛られない彼らのパッションに感激しました。
1969年9月13日、カナダ、トロントで開催された「トロント・ロックンロール・リバイバル」。同じ年の夏、NYでは伝説のウッドストック・フェスティバルが。ジミ・ヘンドリックス目当てに約40万人が押し寄せたそうですが、こっちは主催者の若者ふたりが1950年代のロックスターを呼ぶフェスをトロント大学の会場で企画。
ところが、音楽シーンはビートルズやヒッピーブームに乗るフォークの時代へと移っていたからチケットが売れない。このままでは大赤字。あらゆる手段で集客を目指すもまったく伸びず、焦っていると誰かが「ジョン・レノンを呼ぼう」と提案します。