ENTERTAINMENT

2023.05.26

新興宗教、介護etc. 日本の社会問題をブラックユーモアたっぷりに描く映画『波紋』

今回は2023年5月26日公開の『波紋』を取り上げる。連載「滝藤賢一の映画独り語り座」とは……

映画『波紋』

©2022 映画「波紋」フィルムパートナーズ

モヤモヤするのに痛快。荻上ワールド炸裂っす!

荻上直子監督の映画『波紋』。物語の始まりは東日本大震災が起きた直後。世の中が騒然とし、家族が一致団結して乗り切るべき状況下で、筒井真理子さん演じる主人公・依子の夫・修(光石研)が突然行方不明に。それから十数年後。依子はスーパーのレジ打ちの仕事をしながら、心の平静を新興宗教への活動で保つ日々。自宅は薦められて購入した水で埋め尽くされ、リビングには大きな祭壇が鎮座しています。

実にギリギリだ……。現代の日本の社会問題に切りこんでくる攻めの姿勢に、観ているこちらがドキドキしてしまいそうだが、まったくそう感じさせないのが、やはり荻上ワールド。人間がいかに滑稽で愛おしい生物かを映画のなかでたっぷりと観せてくれる。

誰だって、何かに帰依しながら生きているところがあるかと思います。私の場合は植物と最近は美術品。近頃言われる推し活も、見方によれば、この忙しすぎな日本のなかで自分自身のバランスを保つひとつの方法と取れるかもしれない。

荻上監督とは2021年のドラマ『珈琲いかがでしょう』でご一緒させていただきましたが、俳優をその気にさせてくれるというか、ノらせてくれる。ご自分の欲しい画に対してのこだわりもすごいが、俳優へのケアもすごい。信頼できる素敵な監督。

あ、そうそう。この映画において、この男を語らずにはおれません。強者揃いのキャスト陣のなか、飄々と我が道を行く男、光石研。観る映画観る映画、光石研。CMもドラマも光石研。こんな言い方は失礼かもしれないが言わせてください。もうね、光石研時代ですよ。

十数年ぶりにふらっと戻ってきた時の風体。怒りを腹に抱える依子の感情を知ってか知らずか、何事もなかったかのような厚かましい態度の数々。夫婦の心理的バトルが静かに始まる。もう、おかしくておかしくて。本当なら腹わた煮えくり返りそうだがゲラゲラ笑える。滝藤が敬愛するアスガー・ファルハディの作品と共通するものを感じる、素晴らしい日本映画の誕生っす。

『波紋』
2023/日本
監督:荻上直子
出演:筒井真理子、光石研ほか
配給:ショウゲート
2023年5月26日よりTOHO シネマズ 日比谷ほか全国公開
荻上直子監督が、自身の歴代最高の脚本と自負する絶望エンタテインメント。東日本大震災、介護、新興宗教といった、現代社会のさまざまな問題と直面する主人公・須藤依子の心理的葛藤をブラックユーモアで斬り、爽快な域まで持っていく。

滝藤賢一/Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。現在は『帰ってきたぞよ! コタローは1人暮らし』(EX系)に出演中。2023年6月24日からは『やさしい猫』(NHK)の放送がスタートする。

過去連載記事

■連載「滝藤賢一の映画独り語り座」とは……
役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者の、そして、映画のプロたちの魂が詰まっている! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!

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COMPOSITION=金原由佳

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