今回は2023年3月17日公開の『コンペティション』を取り上げる。連載「滝藤賢一の映画独り語り座」とは……
滑稽で愛おしさを感じさせる、ふたりの名俳優の競演
今年も「アカデミー賞ノミネート作!」というコピーを見る時期になりました。去年は濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』が受賞。唸りましたよ。
でもね、映画賞って意識しても獲れるものじゃない。ご褒美みたいなものなんですよ。作品、役と真摯に向き合う。そして、より多くのお客様に素敵な作品を届けたい。その一心ですよ。賞ってその先にあるもんじゃないですか。そうでしょう?あ、賞と“しょう”でシャレじゃないっすよ。
まあでも、こんな偉そうなこと言ってますけどね、私、獲ったことないんですよ、賞……。別にね、賞のために芝居してるわけじゃないですから。いいんですよ。もらったことなくても。でもね、19歳からこの世界に入ってもう46歳ですよ。そろそろね、そんな時が来てもいいのかなって思うじゃないですか。だって結構出てますから私。あ、やべ、愚痴で終わってしまいそうなんで、この辺でやめときます。
映画『コンペティション』の始まりは、世間の評判が散々な製薬会社の会長が、イメージアップをかけ、映画製作に乗りだすところから。白羽の矢が立ったのが、世界中の映画賞をかっさらう、カリスマ映画監督(ペネロペ・クルス)。彼女の新作に起用された俳優ふたりのコンペティション、すなわち「激突」を題材にしたものです。
アルゼンチン出身の名優、オスカル・マルティネス演じる一流舞台俳優は「賞などいらない」「感情過多の演技は必要ない」と実にストイック。対して、アントニオ・バンデラスが演じる国際派スターは賞も欲しいし、稼ぎたいし、何より名声が欲しい!
そんな対照的な男優ふたりを手玉に取るペネロペ。相克関係にある兄弟という設定のドラマ性を高めるために、ある時は、クレーンで大岩を吊るした真下でリハーサルをさせたり(写真)、ふたりをラップでぐるぐる巻きにして離れられない関係性を体感させたり。信じられないかもしれませんが、俳優ってこれに似たようなことをやったりするんですよ(笑)。これが仕事なんだから面白いんだよなぁ。やめられないっす。
『コンペティション』
2021/スペイン、アルゼンチン
監督:ガストン・ドゥプラット、マリアノ・コーン
出演:ペネロペ・クルス、アントニオ・バンデラス、オスカル・マルティネスほか
配給:ショウゲート
2023年3月17日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国公開
アルゼンチン出身のコンビ、ガストン・ドゥプラット&マリアノ・コーンが手がけるシニカルコメディ。金儲け第一主義の製薬会社会長の名声回復を担って、新作に取り組むカリスマ監督と、正反対の俳優ふたりの真剣で、狂気に満ちたリハーサルの風景を描く。第78回ベネチア国際映画祭出品作。
滝藤賢一/Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。2023年3月19日22時からドラマ『グレースの履歴』(NHK BS プレミアム)全8回がスタート。尾野真千子さんと夫婦役で共演する。
■連載「滝藤賢一の映画独り語り座」とは……
役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者の、そして、映画のプロたちの魂が詰まっている! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!