役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介する連載「映画独り語り座76」。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者のそして映画のプロたちの仕事はある! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!
代わり映えしない退屈な毎日を面白くするのは自分しだい
この俳優が出ているなら観ようかなとか、この作品、話題になっているなとか、観る映画を決める時の選択肢っていろいろありますよね。今回は完全にポスターです。カラフルな見た目、陽気そうな出演者。この大変な世の中、せめて観る映画くらい明るいものを選択したいと、とりあえず手を伸ばした『パーム・スプリングス』。これが、なんと当たりだったんです! よい映画を発見して、なんだか嬉しいっす! 若い頃、CDをジャケ買いして、カッコいいミュージシャンを見つけた時のあの優越感。フフフ。
この作品は、ロサンゼルス郊外のリゾート地、パーム・スプリングスでの結婚式を描いた物語。ロックバンドのフレデリックに『リリリピート』というループをテーマにした曲がありますが、今作も延々と結婚式の日に戻ってしまうタイムループが主題です。この不思議な現象に突如巻きこまれ混乱するヒロイン・サラに対し、主人公・ナイルズはもう何十年も結婚式の一日を繰り返しているようで、いろいろと達観モード。他人の家のプールで遊んだり、いろんな人と恋仲になったり……。置かれた状況をどう生きるかで、人生は大きく変わる気が。諦めて楽しもうとする人間とその状況を何とか打破して抜けだそうとする人間。どちらが良い悪いではなく、すべては自分しだい。自分で選択できる。まさに今の世の中と同じだと感じます。昨年の緊急事態宣言中の自粛期間。同じ日常の繰り返し。この先、どうなってしまうのかという極度のストレスのなか、普段気づくことのなかった小さな幸せをいくつも発見しました。
結婚式という1シチュエーションを使い回ししているし、CGがチープなのも最高! そんなとこにわざわざお金をかけなくともアイデアが秀逸であれば、逆にチープなCGが光ってくる。台詞に隠された伏線も面白いので、家族や友人と観て、あとで、あそこはああだこうだと、どんちゃん騒ぎしながら何度も観て確認したくなる映画。さぁ、ここで問題です。この映画のなかで何人がループしているでしょうか?
滝藤賢一がお薦めする1本
『パーム・スプリングス』
昨年、コロナ禍で映画館が閉鎖されたアメリカ映画界において、サンダンス映画祭で評判となり、ドライブインシアターでの限定公開も話題となったラブコメディ。LA郊外のパーム・スプリングスでのある結婚式の一日に永遠に閉じこめられたカップルの脱出劇が、下ネタ+ブラックユーモアで描かれる。
2020/アメリカ・香港
監督:マックス・バーバコウ
出演:アンディ・サムバーグ、クリスティン・ミリオティほか
配給:プレシディオ
4月9日より新宿ピカデリーほか全国公開
Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。4/9に映画『バイプレイヤーズ~もしも100人の名脇役が映画を作ったら~』、4/29に『くれなずめ』、8/20に『孤狼の血 LEVEL2』が公開予定。