俳優・滝藤賢一による本誌連載「滝藤賢一の映画独り語り座」。約6年にわたり続いている人気コラムにて、これまで紹介した映画の数々を編集部がテーマごとにピックアップ。この年末年始に、あなたの人生と共鳴する一本をご提案! 今回は、人間関係に悩める全ての人に贈る邦画編
『茜色に焼かれる』
何かを演じなければ耐えられないほど生きにくい世の中
あいつとの関係は戦友というべきだろうか。俺はまったくの無名俳優。あいつはカンヌ女優とは言え、日本での知名度はまだそこまでだった時。互いに原田眞人監督の『クライマーズ・ハイ』に抜擢され、可愛がられた仲。その後のあいつの活躍は言うまでもない。以来、尾野真千子を観ると「元気にやってんなあ」という安心する気持ちと、負けたくないという悔しい気持ちが入り混じる。
そういう同期的な存在は、なかなかいない。稀有(けう)な人物だ。まぁ、あいつは俺のことなんかなんとも思ってないだろうが……。むしろ、真千子より真千子の母親のほうが俺のことを気にかけてくれている。このままだと真千子と俺の思い出話で終わりそうだから本題に入ろう――。
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『葛城事件』
“家”にとらわれた男。でもそれ、本当に他人事ですか?
どこにでもあるような静かな住宅地の一戸建ての”家”。三浦友和さん演じる主人公の葛城清は、この作品において諸悪の根源のように映るかもしれないけど、家族を守り、子供を立派に育て社会に送り出し、奥様と余生を過ごす。そんな普通の夢を抱き、無理をして、この”家”を購入したはず。ところが、幸せで満たされるはずの家が、しだいに家族の自由を奪う刑務所のようになっていきます。「俺がこの城の主なんだ」という清のプライドは凄まじい。家さえ持てば人生すべてうまくいくと思っている様が、滑稽(こっけい)で痛々しく、なんとも悲しくさせる。家そのものにとらわれてしまったことが、狂気の始まりのように感じました――。
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『羊の木』
知らぬが仏か、知って受け入れるのか、それとも……
考えさせられました。どんな事情があれ、人を殺めたことのある人間と普通に向き合うことができるでしょうか……。殺人犯だと知らなければ平気なのか、昔から親友なら気にならないのか……。よくドキュメンタリーやニュースで「いやぁ、そんな人だなんてまったく気づきませんでした」なんてありますが、自分の周りにもそういう方が居て、それを知った時に今までと同じように付き合っていけるのか――。
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『あのこは貴族』
東京に潜む、見えない壁にぶつかりながらも奮闘する女性たち
今月はこの作品で、と決めた時、担当編集者から「意外です。接点がないですよね?」と言われてしまいました。ヒロインの華子は20代後半の良家のご息女。実家は美容整形の医院を経営し、都心の一等地・松濤で生まれ育ち、小学校から大学まではエスカレーター式。そんな主人公が結婚相手を探すお話。うんうん、確かに無縁だな……っておーい! 失礼だろ! 名古屋市の端っこで生まれ育ったからって貴族と接点がないと思うなよ! ないけどね!
この華子を演じるのは大河ドラマ『麒麟がくる』で、私が演じた足利義昭の想い人、駒を演じた門脇麦さん。去年一番現場をともにし、お話しさせていただいた女優さんです。とてもご縁のある方で、過去に何回も共演しています。普段は自由奔放でとても明るい方ですが、華子は、親の敷いたレールから外れたことがない、おっとりした女性。まるでイメージの違う人物を見事に体現されていて、門脇麦という女優の無限の可能性を見せつけられました――。
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Kenichi Takitoh
1976年愛知県生まれ。初のスタイルブック『服と賢一 滝藤賢一の「私服」着こなし218』(主婦と生活社刊)が発売中。滝藤さんが植物愛を語る『趣味の園芸』(NHK Eテレ)も放送中。