役者・滝藤賢一が毎月、心震えた映画を紹介。超メジャー大作から知られざる名作まで、見逃してしまいそうなシーンにも、役者のそして映画のプロたちの仕事はある! 役者の目線で観れば、映画はもっと楽しい!!
知らぬが仏か、知って受け入れるのか、それとも……
さて本年一発目は、『羊の木』。考えさせられました。どんな事情があれ、人を殺めたことのある人間と普通に向き合うことができるでしょうか……。殺人犯だと知らなければ平気なのか、昔から親友なら気にならないのか……。よくドキュメンタリーやニュースで「いやぁ、そんな人だなんてまったく気づきませんでした」なんてありますが、自分の周りにもそういう方が居て、それを知った時に今までと同じように付き合っていけるのか……。
錦戸 亮さん演じる主人公、月末 一(つきすえ はじめ)はある地方都市の公務員。上司から、政府が秘密裏に進める事業の担当者に任命されます。過疎化が進む市の施策として、市民には黙って、仮釈放された元受刑者を受け入れることにしたというのです。元受刑者だと後から知らされる月末は6人の男女をそれぞれ迎えに行く。ご陽気に「いい町ですよ、魚も旨いし」と紋切り型に説明するんですが、何だか皆さん様子がおかしい。このチグハグ感がおかしくてクスクス笑える。小さな町で起こったハートフルな再生物語か? と思いきや、前半と後半はまったく違うテイストの映画。それが唐突にではなく、いつの間にか引きずりこまれて、こっちはアリ地獄に落ちた状態。
今回も冴え渡る吉田監督の演出。6人の猛者たちを相手に受けの芝居に徹した錦戸さんの存在感。それぞれのキャラクターのなかにある欲を互いに刺激しあってあぶりだしてくる。皆さん魅力的でしたが、気になったのは理髪師役の水澤紳吾さんと元受刑者を受け入れるクリーニング店の安藤玉恵さん。このおふたり、私、同い年の41歳なんです。昭和51年組に刺激を受けた作品でもありました。
『羊の木』
2018年/日本
監督:吉田大八
出演:錦戸 亮、木村文乃、北村一輝、優香、市川実日子、水澤紳吾、田中 泯、松田龍平ほか
配給:アスミック・エース
2月3日より全国公開