ブランドとして初の電気自動車(BEV)「ジープアベンジャー」が日本に上陸した。これはステランティスグループの電動化車輌用プラットフォーム「eCMP2」を採用するもので、ほぼ時を同じくして発売された「フィアット600e」とは姉妹車という位置づけになる。ジープとフィアットというアイコニックなブランドが手掛けたBEVの仕上がりや、その違いを検証する。

そもそもステランティスとは
アメリカのジープとイタリアのフィアットが姉妹車? と訝しがる方に少しだけご説明を。
「ステランティス」とは2021年に創設された米仏伊の多国籍自動車メーカーグループのこと。そもそもは2014年にフィアットとクライスラーが合併し、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)が誕生する。
自動車業界では、CASE(C:相互通信、A:自動運転、S:シェアリング、E:電動化)への対応が急務となり大きな投資が必要となるなかで提携や経営統合による技術やプラットフォームなどの共有化、効率化が求められるようになった。FCAはさらなる規模の拡大、シナジー効果を求めてフランスのプジョーS.A.(PSA)と合併して生まれたのがステランティスだ。
その傘下には、ジープやフィアットをはじめ、アルファロメオ、アバルト、マセラティ、プジョー、シトロエン、DSなどなど、日本には導入されていないものも数えれば実に14ものブランドが存在している。
そうしたなか、電動化車輌用プラットフォーム「eCMP2」を使って開発されたのが、「ジープアベンジャー」と「フィアット600e」だ。
ジープ「アベンジャー」の特徴は
パワートレインは両モデル共通のもので、床下に配置されるリチウムイオンバッテリーの容量は54kWh、フロントに搭載するモーターは最高出力156PS、最大トルクは270Nmを発揮する。一充電航続距離(WLTCモード)はアベンジャーが486km、600eが493kmとほぼ変わらない。普通充電および急速充電(CHAdeMO)に対応する。
BEVのメリットのひとつに内燃エンジン車に比べて、デザインの融通がきくことがある。そのため共通のプラットフォームを用いながら、かたやアベンジャーはジープらしくスクエアで力強さを、600eはフィアット500や600に通じる曲線によって愛らしさを、ある意味で対照的なフォルムを実現している。
アベンジャーはジープ初のBEVであり、またジープ史上もっともコンパクトなSUVでもある。ボディサイズは全長4105×全幅1775×全高1595mmと、取り回しのしやすいサイズ。トヨタのヤリスクロスとほぼ同寸といえばイメージしやすいだろうか。
エクステリアデザインは、ジープ伝統の7スロットグリルや大きく膨らんだフェンダー、リアのジェリー缶のデザインをモチーフにした「X」のシグネチャーライトを装備するなど、ジープファミリーの一員であるとひとめでわかる。
600eとの差別化はもちろんデザインだけではなく、ジープブランドのモデルらしくオフロード性能に注力している点だ。4WDではなく前輪駆動車ではあるが、モーター駆動ゆえの精緻なトラクション制御によるオフロード走行モード機能の「Selec-Terrain(セレクテレイン)」と、急な下り坂でも一定速度で走行できる「ヒルディセントコントロール」を標準装備。走行モードは600eが「ノーマル」「エコ」「スポーツ」の3つなのに対して、アベンジャーはジープファミリーらしく、「スノー」「マッド」「サンド」という3つの悪路走行モードを備えているのが大きな特徴だ。
姉妹車、フィアット「600e」の特徴
一方のフィアット600eは、500eに続く、フィアットブランドのBEV第2弾となる。内燃エンジン仕様の500Xの役割を受け継ぐコンパクトSUVだ。ボディサイズは全長4200mm、全幅1780mm、ほんのわずかだがアベンジャーより大きい。全高は1595mmと惜しくも1550mm制限の立体駐車場には収まらないけれど、そのぶん室内空間にはゆとりがある。ラゲッジルームの容量は360リッターと、Bセグメントモデル最大級を確保している
シートポジションは高すぎず、低すぎずとても乗降性がいい。運転席からの見切りもよく、とてもとり回ししやすい。アクセルレスポンスもBEV にありがちな過激なものではなく、スムーズに発進することができる。市街地を走行するような場面ではノーマルモードで何ら不足を感じることはなかった。
シフトセレクターのDをもう一度押せばBモードに切り替わり回生レベルが高まる。いわゆるワンペダルフィーリングほどの強さではないが、アクセルペダルをリリースすればはっきりと強めに減速Gが立ち上がるので、慣れるとストップ&ゴーの多い市街地ではこちらのほうが運転しやすいかもしれない。
これはアベンジャーにも600eにも共通する運転感覚だが、コンパクトなボディゆえブレーキやコーナリング時に上屋の揺れを感じることもなく、いい意味で乗用車ライクなもの。また最新モデルらしくSTOP & GO機能付のアダプティブクルーズコントロールや、ドライバーが任意に設定した車線内の位置を維持して走行できるレーンポジショニングアシストなど、ADAS(運転支援機能)もしっかりと備わっている。
日本の道によくあうサイズで、電気自動車であることをまったく意識させずまるで普通のコンパクトカーのように気持ちよく走る。一度600eで往復約300kmのドライブを試したが、実際も満充電で400km前後の走行が可能なため問題なくクリアできた。自宅に普通充電器が設定できるのであれば、日常の足として使用するには十分だろう。
アベンジャーか600eかは、デザインの好みで選んでいいと思う。今後ますます電気自動車は動力性能よりもデザインやインフォテインメントシステムで差別化を図る時代になっていくだろう。そんなとき、ジープやフィアットのようなヘリテイジのあるブランドにとってデザインは大きな強みとなるはずだ。