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2024.07.28

ポルシェ911がハイブリッドに! 電動化して失ったものと得たもの【試乗リポート】

2024年5月28日、ポルシェ911初のハイブリッドモデルが世界初公開された。今回の新型モデルは2018年にデビューした現行モデル(タイプ992)の後期型にあたるもので、通称992.2と呼ばれる。その国際試乗会が7月初頭スペイン・マラガで開催された。

ハイパフォーマンスバージョンの「GTS」をハイブリッド化

ポルシェはいまラインアップの電動化を着々と進めている。2020年には初のBEV(電気自動車)「タイカン」を発売。2024年1月にはBEV第2弾となる新型SUVの「マカン」を発表した。また人気のSUV「カイエン」やスポーツサルーンの「パナメーラ」ではすでにラインアップの半数をPHEV(プラグインハイブリッド)にしている。そして、2030年には新車販売の8割をBEVにするという目標を掲げている。

では残りの2割に含まれるBEVにはならないモデルとは何なのか。それはポルシェの魂ともいえるスポーツカーの「911」だ。ただし、スポーツカーとて年々厳しくなる排ガス規制とは無縁ではいられない。一足飛びにBEVにはできないとしても、電動化(ハイブリッド化)しながら、規制をクリアしていくプロセスが求められることになる。

2024年5月、911はマイナーチェンジを機にハイブリッドモデルの導入を発表した。ただしすべての911モデルをハイブリッド化したわけではない。いまのところ新型がお披露目されているのはスタンダードな「カレラ」とハイパフォーマンスバージョンの「GTS」の2モデルであり、前者は従来と同様の3リッター水平対向6気筒エンジンを搭載する内燃エンジン車であるのに対して、後者のみがハイブリッド仕様になった。

ポルシェ911といえば、まずベースの「カレラ」や「カレラS」が発表され、順を追って「GTS」や「ターボ」、「GT3」といったハイパフォーマンスバージョンが追加されるのが通例だった。しかし、今回はベースのカレラとGTSを同時にという異例の発表となった。

カブリオレは、「カレラカブリオレ」、「カレラGTSカブリオレ」、「カレラ4GTSカブリオレ」の3種類がある。ソフトトップの色はブラック、ブラウン、レッド、ブルーの4色と、ブラックにグレーのストライプ入りも選択可能。

それはGTSが記念すべきハイブリッド911の第一弾であるからだ。開発チームによると、911にハイブリッドシステムを搭載するにあたり、最大の課題はやはり重量だったという。一般的に同型の内燃エンジン車とPHEVを比べると+200〜300kgなんてモデルも珍しくない。SUVやサルーンならまだそれも許されるが、スポーツカー、ましてや911ではそうはいかない。1600kgを切ることを開発目標とし、さまざまな工夫がこらされている。その結果、従来モデルに対しての重量増は約50kgに抑えられた。新型カレラGTSクーペのカタログ値の空車重量(DIN)は1595kgとなっている。

ポルシェはこのハイブリッドシステムの名称を「t-hybrid」としている。「t」とはターボの意というから、エコであることよりパワーを付加するものという位置づけにある。大前提として環境性能を高めつつも、カレラに対するGTSのパワーアップ分をハイブリッドでまかなうという狙いがあるようだ。

「t-hybrid」システムの構成図。容量1.9kWhのリチウムイオンバッテリーをフロントに搭載。これによりトランスミッション(PDK)内のモーターや、エンジンに付随する電動ターボチャージャー、さらにスタビライザーをコントロールしロールを抑制するポルシェダイナミックシャシーコントロール(PDCC)などを駆動する。

このハイブリッドシステムは、電動走行はしない。いわゆるマイルドハイブリッドシステム。その中心となるのは、わざわざこのために新開発したという3.6リッター水平対向6気筒エンジン。単体で最高出力485PS、最大トルク570Nmを発生する。これは高電圧システムの採用により、エアコンをベルト駆動ではなく電動駆動にすることでコンパクト化に成功。

そして先代のツインターボからシングルターボ化することで軽量化を実現。さらにタービンの軸部分に電気モーターが組み込まれた電動ターボチャージャーを採用しており、瞬時にブースト圧を高めることが可能となっている。この電気モーターはジェネレーターとしても機能し最大11kW(15PS)のパワーを発生する。

ハイブリッド駆動のメインとなるのは、8速PDKのトランスミッションケースに組み込まれた永久磁石同期モーターで、アイドル回転数から最大トルク150Nmを発揮し、エンジンをアシストする。400Vの電圧で作動し、最大1.9kWhの電力を蓄える駆動用のリチウムイオンバッテリーをフロントトランク内に配置。システムの合計出力は541PS、合計トルクは610Nmとなり、先代比で61PSのアップしている。

テールまわりではリアグリルのフィンの数が片側9枚から5枚へと変更されている。

言われなければ、まるで自然吸気エンジンのようなスムーズさ

試乗のスタート地点であるホテルに用意されたGTSのエクステリアをじっくりと眺めてみる。フロントバンパーの左右に5本ずつ配された縦長のフラップが新型の特徴だ。これは高速巡航時など必要なパワーが最小限の場合は、フラップを閉めてエアロダイナミクスを最適化。サーキット走行など冷却効果を高める必要があるシーンではフラップを開きラジエーターに空気を送り込むなど、走行状況に応じて自動的に作動する。

インテリアは基本的には従来モデルを踏襲する。大きく変わったのは、ドライバーの眼前に最後まで残されていた中央のアナログメーターがなくなり、12.6インチの曲面フルデジタルディスプレイになったこと。アナログ派には寂しいところだが、視認性は明らかに高まった。レブカウンターを中央に配した伝統的なポルシェの5連メーターにインスパイアされたディスプレイなど、最大7種類の表示が可能となっている。

もう1つは、911は伝統的に鍵をひねってエンジンを始動するという儀式が受け継がれてきた(キーレスになった先代でもノブをひねる仕様になっていた)が、いまや一般的なエンジンスタート/ストップボタン式になった。デジタルへの転換期ということのようだ。

まずは公道でオープントップの「タルガ4GTS」に試乗した。アクセルペダルをゆっくりと踏みこむと低速域から瞬時に加速する。さり気なく、でもしっかりとモーターがアシストしてくれる。4000回転を超えたあたりから力強い、いかにもポルシェの水平対向6気筒らしい音がする。ハイブリッドとも、ターボとも言われなければわからないかもしれない。それくらいシームレスでスムーズだ。

ポルシェのスポーツカーの試乗会にはサーキットは不可欠。舞台は会員制サーキットとして名高いアスカリレースリゾート。全長約5.5kmの本格コースだ。サーキットでは、クーペボディでRR(2WD)の「カレラGTS」と、4WDの「カレラ4GTS」を比較する。

GTSには、車高を10mm下げたスポーツサスペンションと可変ダンパーシステム(PASM)、そしてこの新型から4輪操舵システムのリアアクスルステアが標準装備になっている。さらにオプションのアンチロールスタビリティシステムであるポルシェダイナミックシャシーコントロール(PDCC)も備えていた。

スペイン・マラガ郊外にある会員制サーキットとして世界的に名高い、アスカリレースリゾート。全長5.5km、26のコーナーで構成されている。昨年、コーンズ・アンド・カンパニー・リミテッドが、千葉県に「ザ・マガリガワ・クラブ」をオープンしたが、ここにインスパイアされ、アジア初の会員制ドライビングクラブの開業にいたったという。

GTSの本領はサーキットでこそ発揮される。ステアリングに備わるダイヤルで、スポーツプラスモードを選びアクセルを全開にすると、一切のラグタイムがなく加速し、7000回転あたりまで淀みなく吹け上がる。電動化の恩恵はアクセルレスポンスにあらわれており、ペダル操作に瞬時に反応してくれる。

そして回頭性は極めて高く、わずかにステアリングを切り込むだけで向きが変わるPDCCをオンにしておけばロールも少なく、何事もないようにコーナーを曲がっていく。2WDと4WDとの挙動の違いは想像していた以上にわずかで、ニュートラルに旋回する。

ポルシェの本社広報によると、ハイブリッド化に関して顧客やファンから懸念する声が多く寄せられていたという。しかし、どうやら杞憂に終わったようだ。事前にハイブリッドだと言われなければ、パワーのある自然吸気エンジンだと思う人もいるはず。それほどにナチュラルな出来栄えだった。さすがはポルシェの仕事である。

TEXT=藤野太一

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