ラインナップすべてがスポーツカーだと謳うポルシェにおいて、イメージリーダーが911だとすれば、今やブランドを支える稼ぎ頭がSUVのカイエンである。2023年4月にマイナーチェンジ版が発表された最新カイエンをジャーナリストの藤野太一がスペインからリポート。
ポルシェ史上最大級のアップグレード版カイエン
2022年のポルシェのグローバル販売台数は約31万台。そのうちカイエンが9万5604台で1位、マカンが8万6724台で2位に続く。要は半数以上をSUVが占め、その稼ぎ頭がカイエンなのだ。
新型はいわゆるマイナーチェンジ版であるものの“ポルシェ史上、最大級のアップグレード”と謳うだけあって、その変更点は多岐にわたる。
まずヘッドライトの形状が変更された。目頭のあたりに注目すると先代では丸みがあるが、キュッと尖ったエッジの効いたデザインになっていることがわかる。だが、エクステリアをあえて大幅にデザイン変更しないのは、ポルシェモデルに共通する流儀だ。
ヘッドライトの変更にあわせてボンネットのデザインもより立体的に、バンパーの開口部もより大きくスクエアな印象になった。リア部分では、先代では横一文字のリアコンビネーションランプの中央部分がくぼんでいたが、新型では1本の力強いラインに見えるようなデザインになっている。カイエンオーナーじゃなければ見逃してしまうような数々の細やかな変更が加えられている。
インテリアは全面刷新といえるほど大幅に変更された。全面的に電気自動車「タイカン」の要素を取り入れたもので、メータパネルは、完全にデジタル化されたフリースタンディングデザインの12.6インチ曲面ディスプレイを採用。センターディスプレイのほかオプションで助手席専用のディスプレイも用意された。
オートマチックギアセレクターを、ステアリングホイールの隣に移設した点も見逃せない。これによりセンターコンソールにスペースが生まれ、ブラックパネルデザインの大型エアコンディショナーコントローラーを配置するなどしている。
豊富なモデルバリエーションもポルシェ流儀
もうひとつポルシェの流儀として、モデルバリエーションの豊富さがある。まず、3ℓV6のベースモデルとなる「カイエン」があり、それをベースとしたPHEV(プラグインハイブリッド)の「カイエン E-ハイブリッド」、そして、4ℓV8ツインターボエンジンを搭載する「カイエンS」が導入された。ちなみにボディタイプもSUV(標準)とクーペの2種類がある。
そして、今回スペイン・バルセロナで行われた国際試乗会に用意されたのは、「カイエン SE-ハイブリッド」とフラッグシップの「カイエン ターボE-ハイブリッド」の2種類のPHEVだった。ポルシェでは先の「カイエンE-ハイブリッド」とあわせて3種類のPHEVモデルを設定したことになる。それらを総称して「カイエンE-Performance」と呼んでいた。
試乗会のメインディッシュとして用意されていたのが「カイエンターボE-ハイブリッド」だ。“ターボ”とあるようにフラッグシップモデルという位置づけとなる。
パワーユニットの合計出力は“カイエン史上最高”の739ps、最大トルクは950Nm。0→100km/h加速3.7秒、最高速度は295km/hに達した。さらにバッテリー容量を先代の17.9kWhから25.9kWhに増大したことで、電気のみによる航続距離は最長82km(WLTPモード)を実現する。
出発地点のホテルでカイエン ターボE-ハイブリッドに乗り込み、電動走行モード“E-POWER”で走りだす。カイエン史上最高のハイパワーターボモデルだけれど、排気音も排気ガスも出さないというのは、早朝のホテルでも後ろめたさがなくていい。フル充電状態ではなかったため、出発時のメーター内には電動走行可能距離は66kmと表示されていた。
バルセロナ市街地の朝の大渋滞をくぐり抜けて、高速道路に入る。スペインの高速道路は片道2車線または3車線で、制限速度は大半が100 km/h 、速い区間でも120km/hと日本とよく似た設定になっている。 ターボE-ハイブリッドは約130k/hまでは電動走行可能なためエンジンが始動することはない。
しばらく高速道路を走行したのちナビゲーションにしたがって山間のワインディングロードに入った。車重を感じさせない軽快なハンドリングでタイトなコーナーをクリアしながら、スタート後59kmを走行した時点でようやくエンジンが始動した。
これくらい走ってくれれば、通勤や買物など日常生活を電気自動車としてカバーすることも可能だろう。エンジンの動力を使ってバッテリーを充電するE-CHARGEモードもあるので帰路は高速走行中に充電をして、市街地では電動走行するといった使い方もできる。
ナビゲーションの目的地は、バルセロナ郊外にあるサーキット、パルクモートル・カステリョリだった。全長4140m、11コーナーがあり高低差は約50mもあるテクニカルなコースだ。
ここではターボ E-ハイブリッドクーペにのみ設定される「GTパッケージ」を試す。これは先代の「ターボGT」の代替となるトップパフォーマンスモデル。実は新型にもターボGTは存在するのだが、日本の排ガス規制に適合せず、主に北米、中国で販売されるという。欧州、日本、香港、台湾、シンガポールなどでは、ターボGTにかわるものとしてこのGTパッケージが設定された。
911ターボを先導車にコースインする。走行モードをスポーツプラスモードに切り替えると、チタンマフラー内のフラップが開き、野太いV8サウンドが車内に響く。カイエンの開発マネージャーが今回注力したポイントの1つに新開発のシャシーをあげていたが、サスペンションの伸側と縮側を別々に調整してくれる2チャンバー、2バルブ技術を採用したアダプティブエアサスペンションは、ピッチやロールをしっかりと抑制しながら実にしなやかに動いている。
裏のストレートでは速度は200km/hを超える。そこからハードブレーキで下りのコーナーへと侵入していくのだが、PCCB(ポルシェセラミックコンポジットブレーキ)を装着しているだけあって強くブレーキペダルを踏み込めばきっちりと速度を抑え込んでくれる。車重が2.5トンもあるSUVにも関わらず、これほど起伏の激しいサーキットで試乗させることに正直驚いた。SUVであってもポルシェがつくる以上はスポーツカーなのだ、という自信のあらわれなのだと感じた。
その後、山中のワインディングロードでテストする機会も与えられた。滑らかな動き出し、適度な重さでわずかな指の力に呼応するステアリングフィール、22インチであることなど微塵も感じさせないコンフォート性能とスポーツプラスまでのダイナミック性能、さまざまなシーンを走りこむほどに大きく重いクルマであることを忘れて楽しくなってしまった。
「カイエンSE-ハイブリッド」にもわずかな時間だけ試乗することができたが、明らかな違いはその軽さ。クーペボディのSE-ハイブリッドとターボ E-ハイブリッドを比べた場合、車両重量には155kgの差がある。もちろんターボにはそれを補ってあまりあるパワーがあるのだが、ワインディングロードで乗り比べてみると前者のほうがやはり軽快だ。最高速度やハイパワーを求めないのであれば、こちらもありだ。
2025年には、カイエンの電気自動車も!?
ポルシェはいま2030年までに80%超の市販車を内燃機関から電気自動車へとスイッチしていく目標を掲げる。タイカンに続く電気自動車の第二弾は、来年の発表が噂される次期マカン。2025年にはこのカイエンも電気自動車が発表される予定だ。
そしてこれら「カイエンE-Performance」は、それまでの橋渡しを担う存在であり、市街地でのゼロエミッションから、最高速300km/hの世界までその振り幅の広さこそが魅力なのだと思う。