静と動、芸術と工業製品、アートとクルマーー相反するふたつを融合させたアジアを代表する気鋭アーティスト、ロナルド・ヴェンチューラ氏の個展『Grey Avenue』が2024年2月17日まで開催されている。
クルマをキャンバスに見立てたアート作品といえば、1979年にアンディ・ウォーホルが手掛けたBMW M1のアートカーや、最近では2022年にジェフ・クーンズがデザインした99台限定のBMW M850iグランクーペ特別仕様車などが有名だろうか。
このたび2024年2月17日まで、ホワイトストーンギャラリー銀座新館にて現代美術作家ロナルド・ヴェンチューラの個展が開催されている。初日のオープニング・レセプションでは、日本を代表するクラシックポルシェチューナー「RWB/RAUH-Welt BEGRIFF(ラウヴェルト・ベグリフ)」が手掛けたポルシェに、ロナルド・ヴェンチューラがオリジナルペイントを施した「Ronald Ventura Version」が特別公開された。
レーシング界のみならず世界中のカーコレクターを魅了してきたアートカーともいうべきRWB/RAUH-Welt BEGRIFF。スペシャルなポルシェをさらにロナルド・ヴェンチューラがキャンバスに見立て、全面に独自のアートワークを吹き込んだ。
ロナルド・ヴェンチューラは1973年フィリピンのマニラ生まれのアーティストで、同世代のなかでは東南アジア全域でもっとも高い評価を受けている現代美術作家のひとり。その作品はイメージとスタイルの複雑なレイヤーが特徴で、作品の領域はハイパーリアリズムから漫画、グラフィティに至るまで多岐にわたる。
今回の「Ronald Ventura Version」は、独創的なクラシック・ポルシェスタイルを表現。レーシング界のみならず世界中のカーコレクターを魅了してきたRWB/RAUH-Welt BEGRIFFの中井啓氏が製作したスペシャルなポルシェをロナルド・ヴェンチューラがキャンバスに見立て、その全面に独自のアートワークを施した。
ロナルド・ヴェンチューラいわく「アートとは、応接間に飾られたり、壁の上で制限されるだけではなく、自由で、束縛も制限もないことを約束する何かであるはずだ」。そのうえで「Ronald Ventura Version」についてこう語った。
「パンデミック下のマニラでは、人々は公道に出ることができず、スポーツカーはストリートから離れ、プライベート空間にとどまるようになっていました。スーパーカーのオーナーたちは、自宅やガレージにクルマを停めるだけ。そこで私は“ストリートススタイル”をテーマとする作品をスポーツカーに描き、それをギャラリーで展示する発想を得たのです。そして今回は初のコラボーレーションとして、私がリスペクトしているRWBのレジェンド、中井さんと念願の初共演を果たせたのです。そこに、私が普段から立体作品で用いているのと同じ手法を使ってペイントとデカール装着を行いました」
自身も2台のポルシェを所有しているというロナルド・ヴェンチューラは、RWB/Rauh-Welt BEGRIFFの中井啓氏に対しても賛辞を送る。
「私はRWBの中井さんがつくるクルマを本当にリスペクトしています。低く、野性味たっぷりな中井さんのポルシェはまさにBadass! (超カッコいい! という意味のスラング)。たった1人の熱狂により、ストリートカルチャーから“アート”を作り上げたという点においても最高にクリエティブな人物です」
そしてロナルド・ヴェンチューラからのリスペクトを受ける中井啓氏も、次のように語る。
「彼とのコラボレーションはとても楽しく、本当に素晴らしいものでした。そしてアートワークはカッコいいし、僕は大好きですね。彼との関係はパーフェクトだったと思っています。なぜかというと、それは彼自身が大のクルマ好きだから! それが今回のクリエイティブの神髄だったし、ロナルドが本当にクルマ好きな人だからこそ、コラボがバシッと決まったのだと思います」
現代アートと、ポルシェチューニングというアート。ロナルド・ヴェンチューラと中井啓氏が日頃から行っている領域は、表層においては「異ジャンル」と言えるのかもしれない。しかし深層領域においては、今回特別展示された作品は「アートとアートが普通に、自然に共鳴した結果、生まれたサムシング」としか言いようがない。