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2024.06.01

電気自動車になったマカンは、ポルシェらしさを失ってないか【試乗レポート】

初代のデビューは2013年、およそ11年間フルモデルチェンジすることなく販売されてきたポルシェマカン。2代目はブランド初の電気自動車(BEV)、タイカンに続く第2弾としてBEV専用モデルへと生まれ変わった。果たしてBEVになっても、ポルシェらしさは失われていないのか。新型のポイントをジャーナリストの藤野太一がフランスからリポート。

マカン正面

2030年までに新車販売の80%をBEVへ

2024年4月下旬、フランス・ニースから少し南下したリゾート地、アンティーブで新型マカンの国際試乗会が行われた。実はフランスでは新車販売におけるBEVの割合が15%超、PHEV(プラグインハイブリッド)を足し合わせるとおよそ21%と5台に1台を占めるまでに増加している。街を走るクルマを見ても、フィアット500eやルノーゾエ、テスラモデル3などコンパクトBEVを多く見かける。ちなみに日本の新車販売におけるBEV比率は約2%、PHEVをあわせてもまだ3%といったところだ。

マカンといえば、ポルシェのベストセラーのひとつ。インドネシア語で「虎」を意味するまさに虎の子モデルである。2023年の世界販売台数でも1位がカイエン、ほぼ同数でマカンが続く。初代マカンはデビューから約11年が経過したライフサイクルの終盤にあって、PHEVなどの電動化モデルの設定もないが、新車販売台数はいまなお好調に推移する。

黄色のポルシェ

なぜマカンをBEVにしたのか、マカンのプロジェクトマネジャーに尋ねてみた。

「まず、マカンの顧客がどのように使っているのかをリサーチしました。日常的なユースケースではBEVであっても満足いただける充電性能や航続距離などを実現しています。2つ目の理由としては、(メイン市場である)米国での排ガス規制を満たすためには販売台数のボリュームが必要です。そのためにスポーツカーではなく、SUVモデルを選びました。

3つ目の理由としては、私たちはアウディとの共同プロジェクトで、新しいBEV専用プラットフォーム(PPE)を開発しました。このプラットフォームはちょうどマカンが該当するセグメントのニーズを満たしています。BEVへの転換をはかるために、これは良いチャンスだったのです」

ポルシェはいま2030年までに新車販売の80%をBEVにするという経営戦略を打ち出している。そのためにあえて人気のモデルをBEVにするというチャレンジに出たというわけだ。

今回の試乗車は日本でもすでに発表済みの「マカン4」と「マカンターボ」の2種類。ポルシェの慣例としてこれから「S」や「GTS」といったモデルが追加されることになるはずだ。

ボディサイズは全長4784mm、全幅1938mm、全高1622mm(初代は4726/1922/1621)で、ホイールベースは2979mmと先代モデルより86mm延伸。バッテリーを床下に低く敷き詰め、前後シートの着座位置を初代より低くしたことで、クーペのようなスタイリングから想像していたよりも室内空間にはゆとりがある。

インテリアは、タイカンにはじまる最新のデザイントレンドに則ったもの。メーターまわりには湾曲した12.6インチの自立型メーター、センターには10.9インチのディスプレイ、そしてオプションで助手席用の10.9インチディスプレイを採用する。新型のインテリアはBEVだからとすべてをタッチパネル化するのではなく、スタート/ストップボタンをはじめ、エアコンのスイッチ類、オーディオのボリュームなど、アナログのコントロールスイッチを残しているのがポルシェらしいところ。

新開発のプレミアムプラットフォームエレクトリック
800Vアーキテクチャーを備えた新開発のプレミアムプラットフォームエレクトリック(PPE)。アンダーボディに総容量100kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載。前後アクスルにPSM電気モーターを配置し4輪を駆動する。DC充電出力は最大270kWで、急速充電ステーションで約21分以内に10%から80%まで充電することが可能。家庭用充電器では最大11kWのAC充電に対応。
ターボモデル
ターボモデルでは、ヘッドライト下の横桟がボディ同色に、マカン4はブラックアウトされている。ここでいうメインのヘッドライトは、バンパーの中央の位置にある四角いもの。実は一般的なヘッドライトの位置にある特徴的な4本のLEDライトは、デイタイムランニングライトのみの機能で、ヘッドライトは2つのパーツに分けてデザインされている。
インストゥルメントパネル
インストゥルメントパネルは、一体化したブラックパネルによって、911(タイプ930)を彷彿とさせるT字型を強調したデザインとなっている。
車内空間
前後シートともに着座位置を初代より低くしたことで広い車内空間に。リアシートも身長180cmの大人が座れるヘッドルームも確保。
ラゲッジスペース
ラゲッジスペースも先代モデルよりも広くなった。リアスペースは通常540リッターで、背もたれを倒すと最大1348リッターに拡大。そしてボンネットの下には“フランク”と呼ばれる容量84リッターのセカンドラゲッジコンパートメントがある。

大きさや重さを感じさせず、まるでラリーカーのように軽快に走る

まずはマカン4に試乗する。動き出しはスムーズで申し分ない。ブレーキのフィーリングもさすがのポルシェでブレーキペダルの剛性感は高く、ドライバーの意のままに狙った位置で停止することができる。実は速さよりも、こうした基本的なブレーキ性能の高さこそが、ポルシェらしさと言えるものだ。事前にセットされたナビゲーションに従い、海沿いの道を経てまるでラリーのコースのような山岳路へと導かれる。新型マカンはそれなりに大きく重いクルマのはずなのに、右へ左へと軽快に走る。

マカン4
マカン4は、最高出力285kW(387PS)で、オーバーブースト時には300kW(408PS)のパワーを発生。最大トルクは650Nm。0-100km/h加速は5.1秒、最高速度は220km/h。一充電走行可能距離は、613km。

翌日は、ターボに試乗した。前日のマカン4で十分と感じていたが、走りだしてすぐにやっぱりターボはいいと思い直す。まずアクセルペダルに対する反応がいいので、運転が楽だし楽しい。そして乗り心地もこちらのほうが洗練されている。のちに開発者に確認したところリアアクセルまわりは、マカン4とターボでは別物で、前後重量配分は、マカン4では50:50のところ、ターボでは48:52とより後輪のトラクション重視のセッティングになっているという。

ターボ
ターボは、最高出力430kW(584PS)で、オーバーブースト時には470kW(639PS)を発揮、最大トルクは1130Nmと4桁に到達している。0-100km/h加速は3.3秒、最高速度は260km/h。一充電走行可能距離は591kmとなっている。
ターボのエンブレム
ターボのエンブレムのみ差別化するため、従来のゴールドのタイプから、メタリックグレーに変更されている。ポルシェはこれを“ターボナイト” と呼ぶ。

マカンのパワートレインを使った電動ボートも発売

今回の試乗の基地はアンティーブのヨットハーバーに設けられていたのだが、もうひとつサプライズのプログラムが用意されていた。オーストリアのラグジュアリィボートメーカー「フラウシャー(Frauscher Bootswerft)」社とポルシェが共同開発した、スポーツボート「フラウシャー x ポルシェ 850 ファントムエアー(Frauscher x Porsche 850 Fantom Air)」に試乗できるといものだった。

実はこれは新型マカンのパワートレインをそのまま使った電動ボード。内外装のデザインはポルシェが担当。ボートのフロア下に新型マカンの最新モーター、バッテリーを搭載する。もちろんエンジン音もなく、何より排ガス臭がないのがいい。クルマと同様に電動化によって低重心かつモーターの推進力をラグタイムなく正確にコントロールできるため、従来のボートでは実現できなかった操縦感覚が得られるという。

ファースト・エディションは25隻製作される予定。価格は56万1700ユーロ(約9400万円)から。予約注文はフラウシャー社を通じて行われる。取材時には残り8隻で、日本人で購入した人はまだいないということだったので、ご興味のある方はぜひ。

ハイグロスブラックのインストルメントパネル
フレームレスのアクリルガラス・ウインドスクリーンの後方に、ハイグロスブラックのインストルメントパネルを配置。ポルシェをイメージしたステアリングホイールは海水への耐性が高められている。

実は当初マカンは、初代のICE(内燃エンジン)と新型のBEVとを、併売するとアナウンスされていた。しかし、欧州域内でいま世界的に対策が求められているサイバーセキュリティ法(コネクティッドカーに対してハッキングなどのセキュリティ対策を定めたもの)が施行されることになり、それに対応していない初代マカンは販売できなくなってしまったのだ。

日本でも2022年からOTA(Over The Air)対応の新型車への規制が始まっているが、既存車種には猶予期間があるため、国内ではマカンはしばらくICEとBEVが併売されることになる。ただし、残された時間はそれほど長くはなさそうだ。もしICEのマカンが欲しいなら急いだほうがいいかもしれない。

TEXT=藤野太一

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