マセラティの新型SUVグレカーレは、重大な任務を背負って日本市場に導入された。重大な任務とは、日本におけるマセラティの販売台数を倍増するというもの。はたして、グレカーレとはどんなモデルなのか。連載「クルマの最旬学」とは……
絶妙のサイズ感と、イタリアン・ラグジュアリー
「グレカーレで日本における販売台数を倍増する」という目標を聞いた時には、率直に「随分とデカく出たな」と感じた。だってそうでしょう。同社の現在のラインナップ、つまりギブリとレヴァンテとグラントゥーリズモとクアトロポルテとMC20の販売台数の合計と同じだけを、ひとつのモデルで売ろうというのだから、なかなかにハードルが高い。
けれども実際にグレカーレに乗ってみると、こうした高い目標を掲げることに納得できた。それぐらいよくできているし、日本の市場にも合っている。
グレカーレが日本で売れると感じた理由を記す前に、この新型SUVのグレードを簡単に紹介しておきたい。
グレードは3つで、最もベーシックな「GT」は、排気量2ℓの直列4気筒ガソリンターボエンジンに、マイルドハイブリッドシステムを組み合わせる。最高出力は300ps。
真ん中のグレードが「モデナ」で、パワートレインの基本的な構成は「GT」と共通であるものの、最高出力を330psにまでパワーアップしている。
最上級グレードが「トロフェオ」で、同社のスーパースポーツであるMC20と共通の排気量3ℓのV型6気筒ツインターボエンジンを搭載する。最高出力は530psだから、スーパーSUVにカテゴライズされるだろう。
この3グレード構成のグレカーレが日本で売れると感じた理由のひとつは、絶妙なサイズ感だ。
欧米のSUVは、試乗会で乗ると感心するものの、いざ都市部で使うと大きすぎて不便に感じることも多い。コインパーキングで何回も切り替えしたり、路地のすれ違いで気を使ったり……。けれどもグレカーレは全長4845mmと、レクサスRXよりもコンパクト。都市部で使ってもジャストサイズで、取り回しがよくて扱いやすい。
デザインは人それぞれ好みがあるだろうけれど、MC20と共通のシュッとしたフロントマスクは、いかにもイタリアの名門といった雰囲気を醸している。
色艶のよいインテリアのレザーから思い浮かぶのは、「イタリアン・ラグジュアリー」という言葉。良質な国産車があふれている日本であるけれど、グレカーレの内外装の設えからは、異国の文化に触れられるというガイシャの醍醐味が味わえる。
アダプティブクルーズコントロールやレーンキープアシストといった、先進的な運転支援装置が標準装備されることも、売れると感じる理由だ。マセラティに限らず、イタリア車全般がこの分野で弱かったけれど、グレカーレはしっかりとキャッチアップしている。
自分だけでなく、家族やパートナーが運転することを考えると、こうした機能が備わっていることの安心感は大きい。
フィギュアスケートの選手のようなコーナリング
そしてこのクルマがヒットすると感じる最大の理由は、クルマとしての出来がいいことだ。
まず、乗り心地が快適で、ひとことで言うと懐の深い、大人のフィーリングだ。グレードによってはオプションとなるエアサスペンションは、さらにゆったりとした乗り心地となるので、おすすめしたい。
さすがはスーパースポーツやスポーツセダンで知られるブランドだけあって、乗り心地がいいだけでなく、ワインディングロードを走りたいというマニアにも楽しめるような足まわりになっている。スポーツカーのようにビシッと曲がるのではなく、フィギュアスケートの選手が優雅に弧を描くような、気持ちのよいコーナリングだ。
パワートレインは3種類あるけれど、最もパワーの低い「GT」でも、充分以上に速い。力不足を感じる場面は皆無で、登り勾配のワインディングロードでも、高速道路の合流でも、スカッとするような加速を見せる。
いっぽう、最もパワフルな「トロフェオ」のV6ツインターボは、乾いたエグゾーストノートも加速感も刺激的で、再び「名門」とか「イタリアン・ラグジュアリー」というワードが頭に浮かんだ。
じゃあクルマ好き、運転好きは「トロフェオ」を選ぶかというと、そう単純ではないのがクルマ選びのおもしろいところ。直列4気筒を積む「GT」と「モデナ」のほうが、V6の「トロフェオ」よりもボンネットの中身が軽いぶん、コーナーではスッスッと軽快に向きを変えるからだ。
華やかな音と加速を選ぶか、軽やかなコーナリングを選ぶか、悩ましいところだ。
といった具合に、セレクトショップで気に入った服を買うようにデザインで選んでも間違いがないし、クルマ命のマニアが買っても満足するはず。加えて、これだけ上質さを感じさせながら、1000万円以下のグレードがあるというのは、お値打ち感まである。やはり、ヒット作になる予感がする。
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マセラティ コールセンター TEL:0120-965-120
サトータケシ/Takeshi Sato
1966年生まれ。自動車文化誌『NAVI』で副編集長を務めた後に独立。現在はフリーランスのライター、編集者として活動している。
■連載「クルマの最旬学」とは……
話題の新車や自動運転、カーシェアリングの隆盛、世界のクルマ市場など、自動車ジャーナリスト・サトータケシが、クルマ好きなら知っておくべき自動車トレンドの最前線を追いかける連載。