ART

2026.04.07

「杉本博司を知っていますか?」伝説の雑誌特集ほか貴重な資料を振り返る

「杉本博司を知っていますか?」というタイトルを付けた雑誌を編集してから、早くも21年。杉本はますます写真以外の領域にも活動範囲を広げ、受賞、受勲もいくつもあった。初めて彼の写真を見たときから、これはただものではないと感じた美術ジャーナリスト、鈴木芳雄の手元にある資料の中から、雑誌をリストアップしていく。

現代美術作家の杉本博司。『More than Textile』第2号 細尾 2022年より

写真作品の大規模個展が21年ぶりに開催

杉本博司の大規模個展「杉本博司 絶滅写真」が6月からある。日本では2005年、森美術館で開催された「杉本博司:時間の終わり」以来21年ぶりに写真作品で展開する大規模個展だ。この展覧会に絡んでいくつかの雑誌やウェブから寄稿の依頼が来ているので、杉本に関する手持ちの資料を整理したりしている。なかには今では珍しいものもあると思うので、リストを兼ねてここに書いていく。

杉本は1948(昭和23)年、東京生まれ。70年に立教大学を卒業し、渡米。カリフォルニアのアートセンター・カレッジ・オブ・デザインに留学。74年からニューヨークを拠点にして作家活動を開始した。

77年に東京の南画廊で個展を開催している。南画廊は日本と主にアメリカの現代美術の動向をいち早く伝えた。79年、画廊主の急逝により閉廊。その個展では、近年も制作が続けられている「ジオラマ」「劇場」シリーズ、そしてお経を撮影したシリーズが発表されていて、雑誌では『芸術新潮』『芸術生活』『カメラ毎日』が展覧会インフォメーションを兼ねて取り上げた。

『芸術生活』はかつてあった美術専門誌。1977年9月号で杉本博司について8ページを使い、「静止した時からの啓示」と題して「ジオラマ」シリーズ(当時の名前は「STILL LIFE」シリーズ)6点が紹介され、美術評論家の日向あき子が文章を寄せている。日向は主にポップアートに関する著作、翻訳書を多く残した。

松岡正剛が編集長を務めた雑誌『遊』1979年の号、このときは南画廊の個展の2年後だが、8ページを使い、「劇場」シリーズ(当時の名前は「HALL」シリーズ)7点と杉本の引き伸ばし機の写真が載っている。ページを大胆に横使いして、1ページ1点、劇場が輝く。

新聞社などが発行する写真雑誌も今は無くなってしまったがかつてはそれなりに部数が出ていて、広告が多いものの、総400ページくらいの号もある。『アサヒカメラ』(2020年休刊)の1983年4月号で「劇場」が紹介されている。両観音8ページ相当。10作品。このときはすでに「劇場」という名前になっている。82年に西武美術館で「ニューヨーク近代美術館コレクション展」があり、そこに作品が選ばれたのでこの掲載に至ったと思われる。

写真評論家の飯沢耕太郎が編集長を務めていた季刊誌『déjà-vu(デジャ=ヴュ)』(1995年休刊)の第7号1992年1月10日発行の号の特集は「沈黙の風景」、そのトップに杉本博司の「海景」12点を掲載している。右ページだけに掲載し、左ページは図版も文字も何もなく白いまま。それが12見開き。しかもなかなか斤量のある紙に印刷している。なんとも贅沢な。

海外の雑誌にも多く取り上げられているが、その中でもこの1冊。『Wallpaper*』の2012年7月号。表紙から杉本の「Opticks」(光学)シリーズ。ただし、表紙に「LIMITED EDITION COVER BY HIROSHI SUGIMOTO」とあるから、一般バージョンの表紙はこれと違うのかもしれない。

杉本のこのシリーズを使って、エルメスのカレ(スカーフ)のアーティストシリーズの一つが企画されたので、特集がつくられたのだと思う。この段階ではまだ「Opticks」というシリーズ名にはなってなくて、「Colors of Shadow」(影の色)という名前だった。

杉本のところに取材に来るのは写真雑誌や美術雑誌ばかりではない。杉本は文章も書く。彼が執筆する雑誌の連載はテーマを変えながらもずっと続いている。月刊の文芸誌『新潮』2019年1月号。この号に杉本は「写真師事始め 処女名刺 千九百七十四年」と題して、ニューヨークに移った1974年、初めてつくった名刺を載せている。名刺には「120E. 32ST. NEW YORK, N.Y. 10016」と住所の表記があるから、32丁目のパークとレキシントンの間かな。ずっとイーストリバーの方に行くとヘリポートのあるあたりだね。もちろんこれは50年以上前の住所なので今は無関係の場所。念のため。

そして見開きごと1カットずつ合計10点の写真。人物写真とそうでない写真。三木富雄、篠原有司男、病気で先立った妻も写っている。この頃、杉本はストロボ付きコンパクトカメラを持っていて、周辺の人たちなどを撮っていた。

広報誌や機内誌などは図書館や美術館のライブラリーに収蔵されにくいので気づいたら、確保しておくことにしている。

エールフランスの機内誌『AIRFRANCE MAGAZINE』May 2009 では表紙に杉本の「劇場」。これは杉本の特集ではなくて、フランスの女優イザベル・ユペールの特集。彼女を世界の有名写真家が撮影し、それが展覧会や写真集になったので特集している。参加した写真家、アーティストはアンリ・カルティエ=ブレッソン、ヘルムート・ニュートン、ニック・ナイト、ユルゲン・テラー、ロニ・ホーン、パオロ・ロベルシらそうそうたる巨匠たち72人。その中で杉本は「劇場」の撮影方式で、彼女を写し込んで撮った。映画館はパリのビブリオテカのMk2、このときに上映したのは彼女が主演した『ピアニスト』(ミヒャエル・ハネケ監督 2001年)

その撮影の模様は『BRUTUS』2005年9月15日号「杉本博司を知っていますか?」(後述)で取材し、イザベル・ユペール本人にもインタビューしている。

また、その写真展はパリを皮切りに、東京都写真美術館、北京のユーレンス現代芸術センターなどにも巡回した。

企業の広報誌も、のちのち閲覧、入手しにくくなるメディアであり、部数も流通も限られているので手に入れておきたい。これは京都の織物業と問屋、株式会社細尾の広報誌『More than Textile』第2号(2022年)。杉本と同社の代表取締役社長・細尾真孝の対談が載っている。

『More than Textile』第2号 細尾 2022年

岩波書店の月刊広報誌『図書』の2022年と2023年の表紙は杉本の「ポートレート」シリーズだった。蝋人形をあたかも生きている人間のように撮影している。各号の表2には杉本の執筆により、それぞれ表紙になった人物のエピソードが綴られている。ヘンリー八世や彼の6人の妻たち、ナポレオン、ベンジャミン・フランクリン、フィデル・カストロ……最終回は昭和天皇だった。

『図書』2023年9月号 岩波書店

前述の『Wallpaper*』に杉本の「Opticks」シリーズが取り上げられていたが、それを限定版のカレにしたのがエルメスだった。その縁もあり、エルメスの広報誌『LE MONDE D’HERMÈS』の2012年春夏号は杉本博司特集になっている。杉本がニューヨークに設計した茶室「今冥途(いまめいど)」にエルメスの商品を置いて撮影した。さらに、初期の写真カロタイプを発明したウィリアム=ヘンリー=フォックス・タルボットが残し、陽画にされてなかったと思われるネガを杉本が入手し、つくった陽画を掲載し、そのエピソードを語っている。

最後は僕が編集した杉本特集「杉本博司を知っていますか?」を入れておく。2005年、森美術館での大規模個展「杉本博司:時間の終わり」のタイミングでリリースした。

僕が杉本博司という作家を知ったのは、1988年、佐賀町エキジビットスペースでの展覧会のときだった。『ELLE JAPON』(当時はマガジンハウスが版元だった。現在はハースト婦人画報社発行)編集部にいて、美術欄を担当していたのだが、展覧会案内のページの編集のために美術館やギャラリーからのプレスリリースを整理していた中の一つに「杉本博司展」があった。

今はメールで来ることがほとんどで、広報用画像もダウンロードするわけだが、当時はリリースの書面と入稿用の紙焼き写真が封筒で送られてきた。紙焼き写真「ジオラマ」(確かシロクマだと思う)と「劇場」が1枚ずつ。僕はそれまで杉本の作品を知らなかったのだがその2枚の紙焼き写真を見た瞬間、彼の意図するところがわかった。これはすごい写真家だと思った。興味深いが作家はニューヨーク在住で簡単にインタビューはできない。リモートはおろか、そもそもネットがない。相手方にファクスがあるかどうか。あるいは高い国際電話代を払って、インタビューするしかない。

結局、すでに写真評論家として写真専門誌や一般誌で原稿を書いていた飯沢耕太郎さんに原稿を依頼した。飯沢さんはもちろん杉本さんのことを知っていて、佐賀町に展示される作品を2人で見せてもらいに行ったりして、彼は原稿を書いてくれた。

僕もだんだん杉本のことを知っていったが、2005年の『BRUTUS』ということは初めて知ってから17年後に特集をつくることができたというわけだ。

ニューヨークの杉本のスタジオに行って取材したり、ボストンに「建築」シリーズの撮影に行くというので同行したり、パリのカルティエ現代美術財団での展覧会をレポートしたりしている。

21年経った今でも、「杉本博司特集の決定版」と言ってくれる人がときどきいて、うれしい。

その後、2009年に「杉本博司:時間の終わり」とは別の展覧会だが、金沢21世紀美術館と大阪の国立国際美術館で杉本の展覧会「歴史の歴史」が開催されたタイミングで、2005年の特集をベースにそれと同じ分量くらい新しい記事を加えて、MOOKもつくった。

(文中敬称略)

杉本博司 絶滅写真
会場:東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー
会期:2026年6月16日(火)~9月13日(日)
休館日:月曜(ただし7月20日は開館)、7月21日(火)
開館時間:10:00〜17:00(金・土曜は10:00〜20:00)※入館は閉館の30分前まで

Yoshio Suzuki
編集者/美術ジャーナリスト。雑誌、書籍、ウェブへの美術関連記事の執筆や編集、展覧会の企画や広報を手がける。また、美術を軸にした企業戦略のコンサルティングなども。前職はマガジンハウスにて、ポパイ、アンアン、リラックス編集部勤務ののち、ブルータス副編集長を10年間務めた。国内外、多くの美術館を取材。アーティストインタビュー多数。明治学院大学、愛知県立芸術大学非常勤講師。

TEXT=鈴木芳雄

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