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2023.06.28

世界最古のシャンパーニュメゾン・ルイナールにとってアートとは? 美術家・山田学インタビュー

1729年創業の世界最古のシャンパーニュメゾン、ルイナールにとってアートは欠かせないものだ。そのルイナールがコラボレーションしたのが、現代アーティストの山田学。その作品はどのように生まれたのか――。

ルイナール1

シャンパーニュ畑で感じた生命の循環

「ここは天国なんじゃないか」

アーティストの山田学は、フランスにある世界最古のシャンパーニュメゾン・ルイナールの畑に到着するやいなや、そう思ったという。

「この時期、シャンパーニュ地方は曇っている日が多いそうですが、僕が訪れた時は雲ひとつなく、それはそれは美しかったんです」

2022年9月、山田はルイナールの「アーティスト・イン・レジデンス」に招聘され、フランス・ランスにあるメゾンを訪れた。このプログラムは、ルイナールが毎年、世界中のアーティストをランスに招き、彼らに自由にルイナールを解釈してもらい、それを作品で発表してもらうというものだ。

2022年4月に「Ruinart Japan Award」を受賞した山田は、メゾンに招待され、その滞在をとおして制作したアート作品を、去る2023年4~5月に京都で開催された国際写真祭「KYOTOGRAPHIE 2023」で発表した。「Life, Cosmic flower(生命 宇宙の華)」と題された作品は、ブドウの実、葉、茎、花や畑に転がる石ころを拾い集め、日本から持参した金箔銀箔に、バクテリアによって生分解されて自然に還るセロファンを使って仕上げたものだ。

ルイナール2

ルイナールのシャンパーニュは、コート・デ・ブラン地区とモンターニュ・ド・ランス地区のブドウをブレンド。特徴の異なる畑から優れたシャルドネを選別し、伝統製法を用いて巧みにブレンドすることで、ルイナールならではのシャンパーニュが生み出される。

クレイエル(世界遺産にも認定されている古代の石灰岩石切り場で、ルイナールは全長8kmに及ぶメゾンのセラーをそう呼ぶ)を形成する白亜(チョーク)は、古代のプランクトンが堆積して化石化したもので、つまり大昔の海に生息した微生物の死骸だ。そのクレイエルはシャンパーニュにとって理想的な温度と湿度であることから熟成のための場所として利用されている。そしてシャンパーニュになるブドウの木々は、その白亜の土壌に根を張って生きている。こうした一連の結びつきに「生命の循環」を感じた山田は、生命と宇宙の起源に思いを巡らせ、この作品を完成させた。

「クレイエルの闇の中で、宇宙のことを考えていました。もともと星屑だったものが、緑に萌える木々、煌めく水、ブドウをはじめとする色とりどりの果実となり、今、この瞬間に息づいている。その生命の奇跡のような感覚をカタチにしたいと思いました。作品の中の重要な要素として液体が必要なのですが、水では濃密さが足りなくて悩んでいたところ、メゾンからシャンパーニュを使ってはどうかと提案され、実際に使っています。そういえば、途中でルイナールを飲みながら制作していたら、あからさまに作品がよくなりました(笑)」

ルイナールとアートの親和性は、1896年に当時の当主であったアンドレ・ルイナールが、アールヌーボーを代表するチェコ出身の画家、アルフォンス・ミュシャに世界で初めてシャンパーニュブランドのポスター作成を依頼したことから始まった。その後、2000年からは現代アーティストとのコラボレーション活動を開始し、毎年世界的に有名なアーティストをランスに迎えている。さらに「KYOTOGRAPHIE」をはじめ、年間30以上の世界中のアートフェアに協賛し、さまざまなアーティストたちによる、ルイナールを独自の視点で解釈した作品を展示している。

ルイナール3

100%シャルドネのみから造られたブラン・ド・ブラン。滑らかでバランスのとれた味わいが特徴。繊細で長く続くパールのような泡立ちとともに芳醇な香りが広がる。

つまり、アートはルイナールの象徴の一部なのだ。才能溢れるアーティストたちによる独創的な作品を通して、ルイナールの伝統、歴史、サヴォアフェール(匠の技)を発信。世界最古のシャンパーニュメゾンを知ってもらい、味わってもらうのに、アートは欠かせないものなのである。

無限という感覚を表現したい

山田は今回の作品を発表するまで、実は創作活動をやめようと考えていたという。

「大学を卒業して、そのまま働くのもどうかと思って、当時は写真をやっていたのでカメラを持ってインドを旅しました。その後も、写真だけではなく、文章や絵画、音楽をとおして自分の内側にある感情やイメージを表現していたんです。そのうちわかったのは、自分は無限を表現したいのだということ。無限という感覚を視覚化したいのです。そのためには見る人の意識をずらしたり、意識の在り方を開いていったりしなくてはいけません。

ただ、そうやって創作活動を続けていても、なかなかスッキリしない状態が続いていました。なにか無限と有限のあいだを彷徨っている感じ。例えば、生命は一応有限とされている。しかし、本当にそれで命が終わりなのかということがある。それから、無限のものを何かで表そうとすると必ず有限なものを使わざるをえない、とか。

そんななか昨年、フランスを訪れて、その体験は自分でも衝撃的で、感動的だったんです。シャンパーニュ畑の葉や花、ブドウの実、石ころ……。本当にいろんなものにインスパイアされました。それから大聖堂のステンドグラスを見たとき、太陽はすべての源でもあるし、象徴でもある。それが完全な状態で花開いている、そう感じました。そこにおいてなにひとつ無限が損なわれていないような、無限から有限へと繋がる道が見えたんです。僕にとって無限とは、解き放たれて、安らげる場所。要はそれをつくりたいんだって」

アートシーンにおいて欠かせないシャンパーニュ、ルイナールという触媒をとおして、覚醒したアーティスト、山田学。無限の可能性の中を移動しながら続ける創作活動に、今後も目が離せない。

ルイナール4

山田学/Gak Yamada
1973年愛媛県⽣まれ。⼤学時代に写真に出会い、世界各国を旅し撮影を行う。インド・ネパールを旅した後、突如として⾊彩の溢れ出すような幻覚を視るようになり、絵画の世界へ。現在は舞台の映像演出や、朗読・⾳響パフォーマンスなど活動の幅を広げる。2015年にはフランスを代表するピアニストのシャニ・ディリュカと、映像・朗読のコラボレーション。2019年には俳⼈の黛まどかとシャニ・ディリュカとともに、俳句とピアノが融合した舞台の映像演出を⼿掛けている。

TEXT=八木基之(ゲーテ編集部)

PHOTOGRAPH=柳忠之(山田氏)

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