ART

2023.04.04

3年ぶりのパリ。念願の安藤忠雄設計「ブルス・ドゥ・コメルス」に行ってきた――アートというお買い物

初めて行った外国はパリで、それはもう今から40数年前。あれからもう何十回、パリに行ったのだろう。この街をはっきり嫌いっていう人もいるけど、僕はもちろん大好き。美術館はたくさんあるし、地下鉄は便利だし。今回、3年ぶりに行くことができて、いろいろ考えたり、思い出したり。連載「アートというお買い物」とは……

アートというお買い物

僕とパリ。

3年ぶりにパリに来た。

今回のヨーロッパ行きの最大の目的は、アムステルダム国立美術館で開催されている「フェルメール展」を見ることだった。ご存じのようにヨハネス・フェルメールの現存する作品は30数点と言われるが、この展覧会ではなんと28点を集めた。1996年、「空前のフェルメール展」と言われた展覧会がオランダ、デン・ハーグのマウリッツハイス美術館とアメリカ、ワシントンのナショナル・ギャラリー・オブ・アートで開催されたが、そのとき展示された作品数は23点だった。

フェルメール展については別のところに書くとして、ここではパリのこと。前回パリに来たのは2020年1月だった。そのときは、ルーヴル美術館でレオナルド・ダ・ヴィンチ展が開催されていて、それが第一の目的。それと、イタリア、バロック期に活躍した画家、カラヴァッジョの作品をできるだけ見るというテーマを持っていて、イタリアのシチリアのメッシーナとシラクーサ、そしてマルタ共和国に行くという課題があった。そしてその旅から帰ってきたら、コロナ禍騒動が勃発していて、以来3年間、海外に出ることはなかった。

アートというお買い物

2020年、ルーヴル美術館での「レオナルド・ダ・ヴィンチ展」

今回、アムステルダムだけではなく、パリにもどうしても寄りたかった理由の一つは、ラグジュアリーブランドグループ「ケリング」の総帥フランソワ・ピノー氏のコレクションのための美術館で、安藤忠雄氏の設計で改装がなされたブルス・ドゥ・コメルスが2021年に開館していて、それを見たかったからだ。その2020年1月に滞在したホテルがブルス・ドゥ・コメルスの近くで、これが出来たらすぐに来よう、可能ならばオープニングに、なんて軽く考えていたのだが、そんなわけでやっと今回だ。

出版社の社員編集者時代は取材や招待で1年のうち、8回ヨーロッパに来たなんて年もあった。しかもその同じ年にニューヨークに2回行ったりした。商社マンや旅行代理店の添乗員からすると多くはないかもしれないが、社内外を見ても雑誌編集者としては多かった方だと思う。それがピークで年々、海外出張は減っていったとはいえ、この3年、国外に出なかった。

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今回(スイス航空)のフライトナビ。手前の陸地がロシアなので、そこを避けて飛んでいる。アンカレッジやフェアバンクスの近くを飛ぶ。

初めてパリに来たときのことも思い出していた。1979年、北回りでアンカレッジで給油のためトランジット。今と同じくロシア(当時はソ連)上空経由ではなかったので時間と燃料がかかっていたのだな。

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これは初めてパリに行ったのと同じ旅で、スペイン、マドリードのプラド美術館のベラスケス像の前で撮った写真(撮った人が下手でボケボケ)。このときからベラスケス好き。

ブルス・ドゥ・コメルスはルーヴル美術館やレ・アールの近く、とても良い立地にある。18世紀には穀物の取引場として使われていたが、1889年のパリ万博の際にはガラスのドームが加えられる形で改装された。その後、19世紀末からは商品取引所となっていたというから、先物などの取引所として機能していたのだろう。それが近年のデジタル化などで不要となり、こんな良い場所にこんなすてきな歴史的建造物が美術館に生まれ変わったのだ。

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ブルス・ドゥ・コメルスの正面エントランス。

ブルス・ドゥ・コメルスは歴史的建造物なので、外観を変えることなく、内部を美術館の展示室として使えるように改装してある。

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この建物の模型。円形の回廊が付け加えられ、美術館としての機能が与えられた。

円形中央のロトンドがこの美術館での最も花形の展示室となり、階段と通路が導く3つの層に10の展示室を設け、それぞれに展示がある。今回、ロトンドではヤン・ヴォーの大規模展示が行われていた。

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ヤン・ヴォーの展示より。

この美術館に来るもう一つの楽しみは、ラギオールでミシュラン三つ星レストランを営むミシェル&セバスチャン・ブラス親子のレストラン「ラ・アール・オ・グラン」でのランチ。1ヵ月前に予約して席を取った。ミシェル・ブラスのラギオールのレストランには行ったことがないのだが、「ミッシェル・ブラス トーヤ・ジャポン」には2度行った。

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レストランのレベルからはポンピドゥセンターがよく見える。

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La Halle aux Grains(ラ・アール・オ・グラン)。予約は30日前から受け付ける。ランチメニュー56ユーロから、ディナーメニュー95ユーロから。

このブルス・ドゥ・コメルスがかつて穀物の取引所だったことから、すべての料理に穀物や豆などがあしらわれ、ここでの食事を印象深く、思い出となるような演出がされているのは楽しい。

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アンコウ。グリーンピースと。

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豚肉には大麦が。左はじゃがいもとチーズのスフレ。

あとはピカソ美術館にも行った。ファッションデザイナーのポール・スミス氏が監修した展覧会が開催されていて、見慣れたピカソ作品がなんと新鮮に見えたことか。

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アルルカンに扮した息子パウロの肖像だが、ポール・スミスがこんな壁紙を作ってそこに掛けてくれたことでなんだかより楽しい絵になっている。

オランダ、ドイツへと移動する前の慌ただしいパリ滞在だったが、なにかとやっぱり来た甲斐があったなと思ったのでありました。

Yoshio Suzuki
編集者/美術ジャーナリスト。雑誌、書籍、ウェブへの美術関連記事の執筆や編集、展覧会の企画や広報を手がける。また、美術を軸にした企業戦略のコンサルティングなども。前職はマガジンハウスにて、ポパイ、アンアン、リラックス編集部勤務ののち、ブルータス副編集長を10年間務めた。国内外、多くの美術館を取材。アーティストインタビュー多数。明治学院大学、愛知県立芸術大学非常勤講師。東京都庭園美術館外部評価委員。

過去連載記事

■連載「アートというお買い物」とは……
美術ジャーナリスト・鈴木芳雄が”買う”という視点でアートに切り込む連載。話題のオークション、お宝の美術品、気鋭のアーティストインタビューなど、アートの購入を考える人もそうでない人も知っておいて損なしのコンテンツをお届け。

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TEXT=鈴木芳雄

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