パリに見るべき触れるべきものは数多くあれど、いま訪れるなら、近現代アートの殿堂ポンピドゥー・センターは外せない。フランスの誇る名品が居並ぶ中で、企画展示として『TADAO ANDO:LE DÉFI(安藤忠雄展-挑戦-)』が開催中なのだ。そのなかで、パリの人にとりわけ人気の巨大模型がある。
2019年、安藤忠雄設計の現代美術館が誕生!
「“光と影”という建築にとって根源的なテーマを中心に据えて、ここでの空間体験が生きる力そのものになるような展示を目指しました」
そう安藤忠雄本人が言うように、会場にはこれまで手がけてきた多くの建築のドローイング、図面、模型、写真や映像が有機的に配置され、強いメッセージ性を発する展示が繰り広げられている。
なかでもとりわけ同地の人々の興味を惹いているのが、「ブルス・ドゥ・コメルス」の巨大模型だ。それもそのはず、現在進行形のこの建築、会場たるポンピドゥー・センターにほど近い場所にまもなく生まれる新しい美術館である。
建物自体は巨大な円形平面の姿で、18世紀に建造された歴史的建造物。かつて穀物取引所や商品取引所として使われていた。
建物外観には手を加えず、これを美術館へと転換する……。そんな難題を引き受けた安藤が出した答えは、円形の建物内に円筒状のコンクリート壁を築き、新たに展示空間を創り出すというもの。もとの建物の外輪部にあったフロアと併せ、充分なスペースを確保した。
今回の依頼主は、グッチなどを擁するケリング・グループ創業者で、フランス財界の「顔」であり、アートの世界でも最も影響力の大きい人物のひとり、フランソワ・ピノー氏。完成の暁には、自身のアート・コレクションをここで披露することとなる。パリに新たな現代アートの殿堂が誕生するのである。
公的なサポートを受けず、事業費をすべて自らの財団で負担するというピノー氏について安藤は言う。
「ピノーさんには、パリの街に新たな歴史を加えるのだという覚悟と責任感があります。勝負を賭ける姿勢を意気に感じて、また一緒にやることを決心しました」
ピノー氏との付き合いは長く、これまでもイタリア・ヴェネチアで「パラッツォ・グラッシ」「プンタ・デラ・ドガーナ」「テアトリーノ」といったプロジェクトをともに遂行してきた。今回はピノー氏の出身地たるフランスで、ふたたびタッグを組むことと相成った。
「建築をつくるうえで私が大切にしてきたのは、『あるものを生かしてないものをつくる』という考えです。18世紀から親しまれてきた歴史的建造物を生かして、新しく美術館をつくるという今回のプロジェクトは、長らく培ってきたこの考えをまさに体現するものとなります。ピノーさんとともに、私も覚悟を持って臨んでいます」
パリの中心部の一角が刷新される、その重みと期待感を心に抱きながら、まずはポンピドゥー・センターの展示を堪能したい。