会員制とは仕事場でもない、家庭でもない、もうひとつの寛げる拠点であり、サードプレイスなのだ。そんな新たな居場所を求めて、今回はキュレーション・レストラン「秘密のシェフズテーブルO」のオーナー・本郷義浩氏に話を聞いた。【特集 会員制への誘い】

「秘すれば花」の美食学
「エンタテインメントの神髄は“隠すこと”にあると確信しています」
そう語るのは、「秘密のシェフズテーブルO」を率いる本郷義浩氏だ。毎日放送のチーフプロデューサーとして『魔法のレストラン』など数々の食番組を成功に導いてきた本郷氏が、自らプロデュースする店に課した指針。それは、谷崎潤一郎が説いた『陰翳礼讃』の翳(かげ)、あるいは世阿弥が『風姿花伝』に遺した「秘すれば花」の美学を店づくりに投影することだった。
「予約困難な名店を自在に訪れることができる富裕層の方々が今、何を飲食店に求めているのか。それは次に何が起こるか、どんな料理が登場するか、予測できないワクワク感ではないかと考えたのです」
そうして思いいたったのが、選ばれし者のみがたどり着ける“会員制”、そしてジャンルの枠を超えたトップシェフを数日単位で招聘する“キュレーション”という手法だった。
ある日はフレンチ「MOTOI」の前田元シェフが中華料理をコースのひと品として振る舞い、またある日は料亭「下鴨茶寮」の本山直隆料理長が、出汁を軸にした端正な洋食を供する。
「本山料理長がコースの最後に焼き茄子のアイスを出されたのですが、滋味ある深い美味しさで。改めて茄子が持つ洋のポテンシャルに気づかされました」
品書きは存在しないから、ゲストは皿が運ばれて初めて、その日の趣向を知ることになる。この「不意打ち」の悦びこそが、本郷氏の狙いなのだ。そしてイレギュラーともいえるこのシステムは、料理人にとっても心地よい刺激になっている。
「店側がリクエストする“無理難題”に応えるうち、料理脳が活性化し、新たなレシピや技法につながっていく。ご自身も予想しなかった、他のジャンルの引きだしが増えたという声をいただきます」
かつて、大阪・中津の「とんかつ乃ぐち」と東京・阿佐ヶ谷の「とんかつ成蔵」という、東西の頂点が相まみえる奇跡のコラボレーションを企画したことがあった。希少な銘柄豚「TOKYO X」のリブロースが名手によって揚げられる。それぞれの個性が刺激し合い、最上の料理となって客の前に登場する。まさに食のエンタテインメントだった。
ともに愉しみ潤う現代の茶会
実は、この店の前にも本郷氏は同じコンセプトのレストランを京都でスタートさせていた。新選組の駐屯地として知られる歴史ある壬生エリアのホテルの1階、宿泊客も知らない秘密の扉から入店する隠れ家店だった。食通の間で話題を集めた本郷氏が、次なる舞台に選んだのは、2025年開業の複合施設グラングリーン大阪だ。大阪は、「天下の台所」としての歴史を持ち、全国の良質な食材と才能が集う交通の要所である。ゲストがわざわざ遠方まで足を運ばずとも「至高の味」に出会える、食の合流点にふさわしいと考えたとか。
「私が目指すのは、単なる飲食ビジネスの枠を超え、関わる人すべてが食を通じて幸福になる場です。かつて『吉兆』の湯木貞一氏が茶事で具現化したような、文化と豊かさが共鳴するサロンでありたいと思っています」
初めて隣り合わせたゲスト同士が食を通じて意気投合し、新たな交流が生まれる。クローズドな茶室のような空間だからこそかなう、他業種の著名人との密な対話。客、料理人、そして店。三者が等しく潤い、刺激を受け合うこのスタイルは、成熟した日本の飲食文化を牽引する新たな“花”となるに違いない。

1964年京都府生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、毎日放送に入社。以来、幅広いジャンルの番組を制作。2019年、食事業会社TOROMIプロデュースを設立、現会長。麻婆豆腐研究家。堀江貴文氏主宰「テリヤキ」のテリヤキスト。
秘密のシェフズテーブル O
How to join
「秘密のシェフズテーブルO」会員専用LINE(@461fmdau)から、『GOETHE』を見たと連絡すれば今回、特別にメンバー登録することができる。メンバーになると今後の営業予定が届き予約可能。
Information
住所:大阪府大阪市北区大深町5-54 グラングリーン大阪サウス1F
TEL:非公開
営業時間:17:00~/20:00~(2部制、一斉スタート)
定休日:不定休
座席数:カウンター8席、個室1室
料金:¥33,000~
公式サイト:https://www.gcv.osaka/shops/chefs-table-o
本郷義浩氏は、去る4月20日にご逝去されました。謹んでご冥福をお祈りいたします。
この記事はGOETHE 2026年6月号「総力特集:会員制への誘い」に掲載。▶︎▶︎ 購入はこちら

