“食のアカデミー賞”と称される、「ジェームズ・ビアード・アワード2024」。その北西太平洋地域セミ・ファイナリストに選出された、「ナチュール・ワイキキ」エグゼクティブ・シェフ、小川苗さんにインタビュー。彼女と「ナチュール・ワイキキ」が目指すものとは?
“メニューありき”から“食材ありき”の料理へ
2021年のオープン以来、ロコはもちろん世界中のグルマンを虜にしている「ナチュール・ワイキキ」。同店を率いて3年になるエグゼクティブ・シェフ、小川苗さんが、2022年、2023年の「ハレ・アイナ賞」受賞に続き、2024年、「ジェームズ・ビアード・アワード」の北西太平洋地域セミ・ファイナリストに選出された。“食のアカデミー賞”“食のオスカー賞”などと称される権威あるアワードに選出という快挙は、たちまちハワイ中を席巻。
「(発表当時の)朝起きてスマホを見たら、いろんな人から「おめでとう!」というメッセージが入っていて。まったく知らなかったので、『えっ、何事⁉』と、軽くパニックになりました(笑)」
東京の二つ星フレンチ「NARISAWA」を皮切りに、ニューヨークの二つ星やパリのビストロで腕を磨いてきた小川さんが手がけるのは、ハワイの食材にインスピレーションを受けたイノベーティブな料理。フレンチの技法をベースにしながら、ハワイや日本の食文化も取り入れ、目も舌も驚かせてくれる。
「ハワイに来て実感したのが、食と自然はつながっているということ。地産地消はもちろんですが、自然をリスペクトし、環境を守ることも、レストランで料理を提供する者の使命なのだと気づかされました」
ゆえに、掲げるコンセプトは、地産地消の先を行く「Beyond the“Farm to Table”」。
ハワイの自然や環境保護に力を注ぐ生産者を選び、ふつうは破棄されてしまうような食材や部位を積極的にメニューに取り入れている。大都市で腕を振るっていた時のような「つくりたいメニューのために食材を仕入れる」から、「その食材でつくれる、おいしくて、地球にやさしい料理」へとシフトしたのだ。
たとえば、シグネーチャー・メニューのひとつ、コナ産アワビのバターソテーを、ハワイの木、キアヴェでスモークした一品の場合。ソースは、ハワイではあまり食されず、廃棄されてしまう肝をベースにし、添えた蕪のソテーの“葉”をリゾットに使うといった具合だ。
「せっかく育てたのに供給過多で廃棄しなければいけない野菜や、食べる習慣がないからと捨てられる肉や魚介類の部位。私たち料理人が、それを活用することで、お客様が地球や自然について考えるきっかけになれば嬉しいですね」
小川シェフのスピリットが息づく店が東京に誕生
そんな小川さんがクリエイティブ・ディレクターを務める「ナチュール・トウキョウ」が、2024年4月12日、都立明治公園内という自然を満喫できる場所にオープン。こちらはサステナブルな日本の食材を用いながら、フレンチをベースに、ハワイのエッセンスも加えたナチュールならではの料理を提供する。
「1軒のレストランができることは限られていますが、込めた想いが多くの方に広まって、自然や地球を大切にするサイクルが生まれることを願っています」