放送作家を中心に活躍する傍ら、NSC(吉本総合芸能学院)の講師として10年以上にわたって人気投票数1位を獲得している桝本壮志さんが、人気芸人・クリエイターと対談する本連載。今回のゲストはNSC大阪校13期で同期だった、次長課長・河本準一さん。駆け出し時代の青春の日々や、多くの大御所から可愛がられる河本さんの社交術、生活保護受給問題や感極まって涙も流した先輩芸人への思いなどを全7回にわたって聞いた。第4回。
生死をさまよう経験をして「未来日記」が書けなくなった
桝本 準ちゃんが2015年に急性すい炎で入院、ICUに入ったのは本当にビックリしたんだけど、あれから仕事や人生への感覚がどう変わったのかも聞きたくて。この話、知らない人が多いじゃない? 全然報道されていないから。
河本 入院した直後に福山雅治さんと吹石一恵さんが入籍して、俺の記事が飛んだ。「俺がトップニュースだったのに、後から出てきて全部根こそぎ取りやがって」って恨んだよ(笑)。
桝本 意識なくしているんだよね、あの時。
河本 2日間ね。「3日目に起きなかったらもう終わりです」と言われて、親族も呼ばれて。そりゃあ当時は自分が倒れるなんて可能性はみじんも考えていなかったから、酒は朝まで飲むわ、ねえちゃん遊びするわ、テレビでやりたい放題だわ、毎日どんちゃん騒ぎしてた。でもその入院以降、「未来日記」が書けなくなって。
桝本 え、そんなん書いてたん?
河本 書いてた。20代、30代、40代、50代でそれぞれこんなことやって、60歳になったら田舎に家買って農家でもやろうみたいに考えてたのが、急に何も書けなくなってしまった。そこから未来日記をスパンとやめて、「とにかく、今自分がやれることをやろう」と思うようになった。
それに、テレビに出ることだけを追い求めるんじゃなくて、他にもいろいろチャレンジするようにもなった。アイドルのオーディションも受けたし、グループのキャプテンにもなれた。
桝本 吉本坂46な。
河本 アイドルになれる機会なんて人生でないし、履歴書に「吉本坂のキャプテンやっていました」と書けるし、それに秋元康さんに作詞してもらってFNS歌謡祭に出るなんて、こんな面白いことないじゃない。
止まってもいい。横じゃなくて前を見て歩けばいい
桝本 世の中には心身にいろいろな不調を抱えて、仕事へのモチベーションが下がっている人も多いと思うんだよね。準はどうして仕事に前向きになれたんだろう?
河本 「立ち止まってもいいし、ずっと同じスピードで走らなくてもいい」と分かったのは大きかった。歩みを止める勇気ってすごく重要で、僕もそこに気づいてからスピードをぎゅんと落とせて、身体もすごくリラックスできるようになったね。
あと、人と比較しないこと。「あいついいな」「羨ましいな」という感情はしだいに愚痴になり、それが妬みへと変わっていく。大事なのは他人じゃなくて、自分。前向いて、一歩ずつ進んでいくしかない。
桝本 なるほど。準ちゃんは今どんな思いで仕事と向き合っている?
河本 昔は、自分の力で世間をにぎわせたい、人を笑わせたいと思ってた。でも、今は寝る前に「河本、今日ちょっとおもろかったで。ありがとう」と自分自身に言えるようになった。
桝本 どういうこと?
河本 自分で自分を褒める、ってこと。これはさんまさんに教えてもらったことで。さんまさんは、比較をしない人。上手くいかなくても、自分で自分を褒めて1日を終えれば良いんだと。逆に、「今日ここあかんかったな」みたいな反省は一切しないし、する必要もない。
桝本 たとえば、番組で共演した芸人のほうが笑いを取ってた場合は、どう考える?
河本 それでも「今日の俺はこんなところが良かったで」で十分。それ以上に悩んでしまう人は、「俺よりあいつのほうが面白かったな」「何で俺、こんなにできへんかったんやろ?」って考え始める。そんなことより、「明日メッチャおいしい昼飯食べよう!」と考えて気持ちを切り替えるほうがよっぽどええと思う。
ネガティブに考える人は、他人と比較して自分が劣っていると考えてしまう。特に今の若い子には、自分で自分のことを評価できない人が多い気がする。自分の評価を自分で下げちゃうより、「自分は今日最高なパフォーマンスができた」と毎日思い続けるほうが人生楽しくない? というのが僕の考えです。
※5回目に続く