2020年開設のYouTubeチャンネル「腕時計のある人生 Channel」は、登録者数約9万人。時計YouTuberとして成功を収めるRYさんはいかに時計と向き合い、その魅力に取り憑かれたのか。後編では、自身のコレクションのなかから特に思い入れのある6本について語る。【前編はこちら】
吟味に吟味を重ねて選び抜いた“替えの効かない6本”
ロレックスの「サブマリーナー」を手に入れたことをきっかけに、“時計沼”にどっぷりとハマることになったRYさん。
時計好きが高じて、本業である航海士の傍ら、2020年に始めたYouTubeチャンネル「腕時計のある人生Channel」は、今や登録者数9万を超える人気チャンネルとなっている。
そんなRYさんは果たして、どのくらい時計を所有しているのだろう。
「仕事用と合わせて10本くらいの腕時計を持っていますが、そのうち10万円を超える高級時計は8本だけ。素敵な新作を見るとどうしても買いたくなってしまうけれど、“時計を買うのは1年で1本だけ”というルールを自分に課していて、必死にそれを守っています(笑)際限がなくなってしまいますから」
リセールはしない主義だというRYさんの手元には、厳選された“とっておき”だけが残っている。なかでも特に思い入れのある6本について、話してくれた。
1.ロレックスの「サブマリーナー」
RYさんを時計の世界に引きずり込んだ、記念すべき(!?)1本。1953年に初代が発表された、ロレックスが誇る傑作ダイバーズウォッチだ。
「男の憧れであり、世界基準の定番。僕の尊敬する人生の大先輩であり、時計を好きになるきっかけを与えてくれた恩人でもあるオーストラリア人の方が、『サブマリーナー』のノンデイトの魅力をそう語っていました。
実際に手にとってみると、彼の気持ちがよくわかります。デザインが素晴らしいのはもちろんですが、このモデルにまつわる歴史やストーリーを知れば知るほど、腕時計の世界の奥深さを感じることができました。
その感動を誰かに伝えたくて、僕はブログやYouTubeを始めたといっても過言ではありません。その意味でも、唯一無二の1本です」
2.ブライトリングの「ナビタイマー」
「プロフェッショナルのための計器」をモットーとするブライトリング。その代表作である「ナビタイマー」を手にしたのは2019年のこと。
前年にフォルティスの「クラシック コスモノート」を購入しており、「海(ロレックスの『サブマリーナー』)、宇宙(『クラシック コスモノート』)ときたら、次は空のアイコンモデルだ!」と、白羽の矢を立てたそう。
「王道でアイコニックな空の計器。なによりまず、ブランドの世界観に惹かれますね。ダイヤルを彩る特徴的な回転計算尺は、一見複雑だけどしっかり視認性も担保されている。そして、存在感のある見た目がとにかくカッコいい。カジュアルにも、ジャケットスタイルにもハマります」
3.ヴァシュロン・コンスタンタンの「オーヴァーシーズ・オートマティック」
「この時計の購入を決めたのは、僕がちょうど30歳を迎えた2020年。特別な記念になる時計が欲しかったんです」
そんなRYさんを魅了したのが、1755年の創業以来、一度も途絶えることなく続く最古のウォッチメゾンとして名高い名門、ヴァシュロン・コンスタンタン。なかでも、雄大な海のイメージをその名に冠した「オーヴァーシーズ・オートマティック」を、人生のマイルストーンに選んだ。
「当時は仕事でも“船長”の職責を任されたタイミングで、やはり海を感じる時計がいいなと思いました。予約してから1年以上待ちましたが、手にした時の喜びは格別でしたね。
最大の見所は、ダイヤルにあしらわれたブルーカラー。僕が太平洋のド真ん中で実際に見た、深い海の色とリンクするこの色は、世界で一番美しいブルーだと思っています」
裏蓋から覗くローターが羅針盤のようにデザインされるなど、随所に海を感じさせる名作は、今もRYさんの心を強く揺さぶる。
4.グランドセイコーの「44GS」
2021年に購入したのは、グランドセイコーのヴィンテージドレスウォッチ(1968年製)。ただし、このモデルに辿り着くまでには紆余曲折があったという。
「薄くてドレッシーなモデルを探していたのですが、色々と迷った末にこの時計を見つけました。
力強い平面のデザインを持つ“セイコースタイル”の出発点とされる一方で、ムーブメントはロービート。グランドセイコーがハイビートに切り替えていく直前の、ロービート最後期に発売されたモデルなんです」
外から見える革新的デザインはさることながら、心臓部でも時代の区切りを伝えるヴィンテージモデルで、「背筋を伸ばしたい時につける1本で、自分の結婚式もこの時計で臨みました」と話す。
5.カール F. ブヘラの「ヘリテージ バイコンパックス アニュアル」
この時計、購入したものではなく“いただきもの”。正規時計販売店「ISHIDA表参道」にてカール F. ブヘラのイベントが開かれた際にRYさんがトークショーを行い、そのお礼にと贈られた1本だそうだ。
「2022年にトークショーをやらせていただきました。店舗で実際にお客様を前にして喋るのは動画とはまったく違って、本当にめちゃくちゃ緊張しました。あんまり記憶がないくらい」
結果的にイベントは大盛り上がり。来場者はもちろん、ブランドや店舗関係者からも好評で、ぜひ時計をプレゼントしたいと伝えられたという。
「社交辞令だろうなと思っていたんですが、本当でした(笑)。レトロ顔でドレッシーなクロノグラフは、シーンを問わず使い勝手が抜群。年次カレンダーがついていて、メカニカルなところもいいですね」
6.オメガの「シーマスター ダイバー300M」
これも2022年に手に入れた1本。ただし、この「シーマスター」は仕事用に購入したものだ。
「仕事ではこれまでセイコーのダイバーズを使っていましたが、買い換えようと思いまして。『サブマリーナー』と被らない、海のプロフェッショナルウォッチを探しました」
チューダーの「ペラゴス」にも惹かれたものの、最終的に選んだのはオメガの「シーマスター」だった。
300メートル防水のタフネスを誇りながらも、セドナゴールドとのコンビネーションダイヤルがエレガンスを演出。質実剛健にして才色兼備な人気モデルである。
「精度が高く、耐磁性にも優れるため、船で働く僕にとって最適なモデルです。一方で、リッチな見た目には高揚感もある。ゴールドのベゼルに日の光が当たるさまは、本当に美しくて。船上でハードな仕事をしていても、この時計を見るとまるで豪華客船に乗っているような優雅な気分にさせてくれるんです(笑)」
これからのトレンドは「クラシック回帰」と「マイクロメゾン」
自らのコレクションを、楽しそうに語ってくれたRYさん。その笑顔には、「時計が好き」という純粋な感情が溢れている。そんな彼は、次にどんな時計を購入する予定なのだろう。
「IWCの『パイロット・ウォッチ・マーク XVIII』、パテック フィリップの『カラトラバ』、A. ランゲ&ゾーネの『ランゲ1』は、ずっと憧れている時計です。将来的に節目のタイミングで、これらの時計を手に入れられたら最高です」
時計を専門とするYouTuberとして、2024年の時計界のトレンド・傾向予想を聞いてみた。
「本当にいいものを作っているけれど、一般的にはまだ知名度は高くないブランドが、これからどんどん評価を上げると思っています。個人的には、F.P.ジュルヌ、パルミジャーニ・フルリエ、クロノ トウキョウあたりが注目です。
時計全体のトレンドも、クラシック回帰の傾向がありますね。これからもいい時計をわかりやすく紹介して、ひとりでも多く時計好きを増やせるよう、僕自身も楽しみながら活動を続けていきたいです」