『北極星 僕たちはどう働くか』を上梓した西野亮廣氏と、日本最大の書店チェーン、丸善ジュンク堂書店社長西川仁氏の対談後編。出版不況と言われる現代、書店が直面する課題に西野氏が向き合ったら、どんな解決策を提案するのか!? #前編

お客さんの悩みに寄り添うことに「相場」はない
対談前編では、事業投資型クラウドファンディングを利用し『北極星 僕たちはどう働くか』を制作した過程、そして丸善ジュンク堂書店が取り組む自社IP企画「ノクターンブックマーカー」などについて語り合った。
2024年に社長に就任し、「5年で営業利益を4倍にする」というミッションを課された西川氏は、その時の悩みをこう説明する。
「当社は自社サイトでも販売を行っていますが、オンラインで本を購入するならやっぱりAmazonが一番強い。だからこそリアル店舗を持つ私たちは、そこを充実させていかないとならない。けれど、そもそも書店の機能はすごく差がつきにくいものです。しかも本の値段は決められていて、書店では変えることができません。他店と差はつけられませんし、そもそも利幅がうすいので、利益を短期間で上げるのはとても難しい。かなり頭を抱えた部分です」
だからこそ、自分たちで値段の決められるものを、書店でも展開していく必要がある。西川氏は、書店で流通する書籍のIPを活用し、収益性を向上させる取り組みを行ってきた。
「当社では、児童書のキャラクターのIPをお借りしてグッズを企画制作し、書籍と併売することを行っています。また、本を読む前と読んだ後の時間に、体験価値としてなにかを提供できるのではないかと現在探っているところです」
本そのものの機能だけに頼っていては、書店という場所は立ち消えてしまう。その危機感を感じながら、読書という体験を考え直し再定義するなかで商機を探っていると西川氏。これを聞いて、西野氏は深く息をつきながらこう言った。

1980年兵庫県生まれ。1999年漫才コンビ「キングコング」結成。著書に『革命のファンファーレ』『新世界』『夢と金』など。2026年3月12日に新刊『北極星 僕たちはどう働くか』発売。3月27日より最新映画『映画 えんとつ町のプペル 〜約束の時計台〜』が公開中。
「本屋さんをどうするか問題って、クイズとしておもしろすぎます。でも、今おっしゃったような問題って、実は本屋さんに限ったことではありません。ライブやミュージカルのチケットってだいたい相場があり、相場があるものを打ち出してしまうと、そこまで大きなことにならない。だから、僕はそれはそれとして、来てくれたお客さんの他の悩みはなんだろうって考えるんです」
西野氏はミュージカル『えんとつ町のプペル』の公演中に「西野亮廣講演会inえんとつ町」のチケットも販売、休演日にミュージカルのセットを使って講演を行った。
「たくさんお客さんが来てくれて、膝を突き合わせてくれる。せっかく来てくれている人たちは今何に悩んでいるのか、それを解決してあげることができたらいいのではないかと」
講演会では、ミュージカルに訪れた人のなかに経営者が多いことに目をつけ、「このミュージカルのようにお客さんを集められる仕組み」を語った。ミュージカルのチケット代には相場がある、けれど西野氏が悩みに答えてくれるこの講演会に、それはない。価値を感じる人だけがお金を払い訪れるからである。
「さらにいえば、ミュージカル『えんとつ町のプペル』のグッズで一番売れたのは、オンラインスクール『キンコン西野の親子で学ぶお金の学校』です。グッズって言っていいかわからないんですけど(笑)。親子でいらっしゃる方が多いから、子供達に貧しい思いをさせたくないというお父さんお母さんが、買ってくださったんですよね」
西野氏はその内実も、包み隠さず話す。
「『キンコン西野の親子で学ぶお金の学校』は、1年間で7万円。Zoomで、来てくれた人を前に僕が話す会を12回行いました。僕一人がZoomで話すだけなので、言ってしまったら原価0円。2000人以上の方に買っていただきましたから、結果1億5000万円近くに。これってかなりでかいですよね。それがミュージカル会場で、チケットとは別に売れたんですよ」
太客はとことん贔屓して、ファンをつくっていく
お客さんの悩みはなにか、西野氏はとにかくお客さんとコミュニケーションをとって探っていくという。相場があり値段が決まっているものを売りながら、自分たちで値段のつけられる次の商品・サービスをつくり続けていくのが、西野氏の手法なのだ。
「ミュージカル終演後にお客さんと飲んだりして、困りごとを聞いていく。そうするとまったく相場のないサービスや商品を見つけられるし、本来売りたかったモノが、それに支えられることもけっこうあるんです。本屋さんもきっと、そういうことがもっとできる場所だと思うんです。『丸善ジュンク堂書店主催BBQ大会』とかやってたら、僕も行ってみたいですし(笑)」
西川氏は「なるほど」と深く頷いて続ける。

1966年大阪府生まれ。丸善ジュンク堂書店代表取締役社長。1989年4月丸善入社、2010年8月丸善書店(現丸善ジュンク堂書店)転籍。29年間、書店の現場に立ち続け、新店出店と改装、既存店の立て直しに従事。2024年4月より現職。
「書店にはさまざまな本があり、さまざまな人が訪れます。どういう本が売れているか以外にも、西野さんがおっしゃったような、お客さんの『困りごと』だったり、たくさんの情報やデータを集めることはできるかもしれないですね」
さらに「どう設計してデータを取っていくのがいいか」と西野氏に尋ねた。西野氏の回答はこうだ。
「どのお客さんが、年間どれくらいお金を落としてくれたかを把握するのはいいかもしれません。そしてたくさん買ってくれた人には、ものすごく贔屓するんです。僕らもそうしています。本来非公開の場所に入れて差し上げたりとか。そもそも芸能の世界は昔からそうなんですよ、歌舞伎役者さんはお正月にいわゆる『太客』と呼ばれる人のところへ挨拶に行ったりしますよね。なので僕らはいやらしいですが、お金をたくさん落としてくれた方の誕生日に僕からメッセージ送ったり、そうやってファンをつくっていく。書店は『場所』があるから、そういうファンを生み出せる可能性がたくさんあると思うんです」
日本最大のIP“富士山”を、河口湖は使いきれてない!?
西野氏の「出版不況って言われていますが、書店さんの立場からはどうみられているんですか?」という質問に、西川氏はこう答える。
「雑誌が売れなくなったと言われていますが、それでも元気な雑誌社はすごく元気。やっぱり戦略ややり様は、きっとあるんだと思います」
これを聞いて、数々の本を出版してきた西野氏は、出版社が背負うリスクについても話し始めた。
「在庫を抱えるという出版社のリスクはすごく大きいですよね。にも関わらず、作品内のIPを運用しきれていないという印象なんですよ。もったいないなって。音楽の世界だったらレコーディング費用を出した人が権利を持ち、それを運用しますよね。出版の世界ももっと運用をしっかりとしていくべき。だって、すごくリスクを背負って出版しているんですから」
書店にとってもIPは重要だと西川氏も頷く。
「特に日本のコミックやゲームは海外でも人気で、熱意を持ってくださるファンも多い。現在、私たちは国内に114店舗展開していますが、海外にはまだ2店舗。できるだけ早く海外の店舗を増やしていって、グッズなどの展開をもっとしていきたいと思っています」
それを聞いて西野氏も思い出したことがあった。
「ブロードウェイでは、上演されている作品の楽譜とか美術の本だけが置いてある、書店というより“ブロードウェイのお土産屋さん”みたいなところがあるんです。そこはずっと潰れてないんですよ。だから思うんです。今は誰でもスマホひとつでプロ並みの映像を作れて、誰でもエンタメが作れてしまう世の中で、観光地化ってすごく大きなキーワードだなって」
つまり、エンタメ作品を中心にその土地が観光地になり、訪れる人はそのグッズを買い、また作品そのものを見る。場所を中心に無限ループが完成するのだ。そして誰でも簡単にエンタメが作れる世界になってもなお、観光地だけは量産できない。そこにこそ商機があると西野氏は続ける。
「京都に、和柄のビジュアルブックしかない本屋があったら、絶対お客さんが来ますよね。あとは最近僕、河口湖が好きなんです。だって日本最大のIPである“富士山”があんなにも見える場所だから。多くの観光客は訪れていますが、富士山というIPに対してはまだ気がついてない印象です。お土産も、ほうとうくらいですしね。
富士山がよく見えるコンビニに外国人観光客の方が殺到しているというニュースがありますが、あれだけの人の流れがあるのに、そこにガチャガチャ屋ひとつもできない。あそこに、富士山のビジュアルブックと富士山グッズを揃えた書店があったらどうでしょうか」
ちなみに丸善京都本店は、梶井基次郎の小説『檸檬』の舞台となった場所であり、現在置かれている「檸檬ガチャ」は人気があるのだという。西川氏はこう話す。
「全店舗が、特徴を持ったそういうものを展開していけたら大きいかもしれません。このあたりはもっとつきつめていきたいですね。そもそも書店はいろんなものと繋がれる場所。お土産というキーワードで、集客力を高められる一助になるかもしれません」
西野氏は、溢れ出るアイデアを楽しむように話し続ける。
「海外に行ったらすっげぇダサいTシャツ買っちゃいますよね。お土産って、機能ではなくてコミュニケーションツールを買っている。でないと『HAWAII』って書いてあるTシャツ、買わないですよね。だから富士山土産に特化した河口湖の書店、めっちゃおもしろいと思う!」
西川氏も深く頷く。もしかしたら、富士山の本とグッズだらけの、丸善ジュンク堂書店河口湖店が誕生する日も近いかもしれない!?
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