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2026.03.26

高校時代は後輩の陰に隠れた右腕が、WBCで輝いた理由。種市篤暉の“遅咲きの進化”

WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)が開幕した侍ジャパンで、密かに存在感を高めているのが中日の左腕・金丸夢斗だ。派手な数字や知名度はまだ十分とは言えないが、大学時代から“試合を壊さない投手”として高い評価を受けてきた。なぜこの若き左腕は、安定した投球を続けられるのか。

高校時代は後輩の陰に隠れた右腕が、WBCで輝いた理由。種市篤暉の“遅咲きの進化”
2018 WBSC U-23ワールドカップで投球する種市篤暉。

WBCで強烈なインパクトを残したロッテ・種市篤暉

野球の世界一を決める大会、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。2度目の連覇を狙った侍ジャパンは一次リーグを全勝で突破したものの、決勝トーナメント初戦でベネズエラに敗れ、準々決勝で大会を終えた。

そんなチームの​なかで強烈なインパクトを残したのが、種市篤暉(ロッテ)だ。

2026年3月7日の韓国戦では同点の7回から登板し、三者連続三振を奪う好投。チームはその裏に勝ち越し、種市が勝ち投手となった。

さらに敗れたベネズエラ戦では牽制の悪送球で1点を失ったものの、大会通算では3試合4回を投げて被安打1、7奪三振。短いイニングながら、強烈な印象を残す内容だった。

高校時代は後輩のほうが評価されていた

そんな種市は青森県の出身で、中学時代は全国大会にも出場した経験を持つ。進学した八戸工大一高でも1年秋から投手陣の一角に定着。

2年秋にはエースとなり、140キロを超えるスピードをマークするなどスカウト陣の間でも話題となっていた。

実際にそのピッチングを見ることができたのは3年春の東北大会、対盛岡大付戦だった。

故障明けということもあって、種市は3番、ファーストで先発。試合の途中からライトに回り、ようやくマウンドに上がったのは3点をリードした9回からだった。

最速145キロのストレートを記録したものの制球が安定せず、何とか1点差を守り切るという内容だった。当時のノートにも課題が多く書かれている。

「外野からの返球を見ても馬力は申し分ない。ただ上半身の強いフォームでバランスは良くなく、抜けるボール、引っかけるボールが目立つ印象。確実にカウントをとれる変化球もなく、ストライクをとりにいったストレートをとらえられる。

体格は高校生としてはたくましく、コンスタントに140キロを超えるスピードがあるものの、リズムも単調で数字ほどの威力を感じない。素材の良さは目立つが、かなり時間がかかる印象」

翌日の光南との試合でも4点をリードした9回からマウンドに上がったが、1点を奪われており、安定感には欠ける印象だった。

むしろこの大会で目立ったのは1学年下の古屋敷匠眞(元・セガサミー)で。古屋敷の投球については以下のようなメモが残っている。

「上背はそれほどないが、躍動感のあるフォームで下半身もしっかり使って腕が振れており、バランスの良さが目立つ。安定感は種市よりも明らかに上。ストレートは常時140キロを超え、コーナーにしっかり投げ分ける制球力も備えている(中略)。

緩急の使い方も上手く、走者を背負っても落ち着いた投球が光る。試合を作る能力が高い。素材の良さは種市でも、実戦的なのは古屋敷」

種市よりも古屋敷のほうを高く評価していることがよくわかるだろう。実際、この大会で八戸工大一は準決勝で東陵に敗れているが、その試合で種市の登板はなく、チームの中でも序列が高くなかったことをよく表している。

プロ入り後の挫折と進化がWBCの投球につながった

ようやくドラフト候補として十分なピッチングを見せたのは3年の夏になってからだ。

初戦の八戸戦では初回に2点を奪われたものの、2回から5回までは0を並べ、7奪三振と好投。4回戦の三沢戦では11三振を奪い、2失点で完投勝利をあげている。

夏は残念ながら現地でピッチングを見ることはできなかったが、中継の映像を見る限りでは春と比べて明らかに腕が振れており、140キロを超えるストレートだけでなく、鋭く落ちるフォークも決め球として有効だった。

ただ高校生活最後となったこの大会でも、敗れた準々決勝では登板がなく、1学年下の古屋敷が完投している。高校時代の種市は素材の良さはあるものの、大事な試合を任せるには怖い存在だったことは間違いないだろう。

2016年のドラフト6位で入団した後も、2年目には早くも一軍で7試合に先発しているが、0勝4敗、防御率6.10とプロの壁にぶつかることとなる。

翌年には一転、8勝をマークしたが、3年目の2020年にはトミー・ジョン手術を受けて長期離脱を余儀なくされた。ただ、そんな挫折を経験しながらも、年々ストレートの勢いとフォークのブレーキは進化を遂げ、2023年からは3年連続でイニング数を上回る奪三振を記録。

その成長が2026年のWBCでの活躍につながったと言えるだろう。WBCを視察したメジャー球団の担当スカウトも「一番印象に残った投手は種市」と話しており、強烈なインパクトを残したことは確かだ。

高校時代は後輩の後塵を拝し、プロでも故障に苦しんだ経験を乗り越えて、2026年は誰もが認めるロッテのエースにふさわしい成績を残してくれることを期待したい。

■著者・西尾典文/Norifumi Nishio
1979年愛知県生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。在学中から野球専門誌への寄稿を開始し、大学院修了後もアマチュア野球を中心に年間約300試合を取材。2017年からはスカイAのドラフト中継で解説も務め、noteでの「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも多くの選手やデータを発信している。

TEXT=西尾典文

PHOTOGRAPH=西尾典文

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