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2026.03.24

「どちらが進んでいるとかではなく、“違う”」海外と日本のクラブ経営を10年間見て感じたその違いとは④

シティ・フットボール・グループ(CFG)と横浜F・マリノス。海外と日本のクラブ経営を10年間間近で見てきた利重孝夫氏は、その違いをどう感じたのか。第4回。

「どちらが進んでいるとか遅れているではなく、“違う”」海外と日本のクラブ経営を10年間見て感じたその違いとは④

企業スポーツがベースゆえのジレンマ

海外で活躍する日本人選手が激増し、国際大会で存在感を示すなど、ここ20年で、日本サッカーを取り巻く環境は大きく変わった。「ヨーロッパに追いつけ、追い越せ」を目標に、邁進した結果に思えるが、利重氏は、「どちらが進んでいるとか遅れているではなく、“違う”ものと捉えることが大切」と、指摘する。

「大きな違いのひとつが、その成り立ち。サッカーに限らず、バレーボールやバスケットなどもですが、日本のプロスポーツは、企業スポーツ、もっと言うならば学校スポーツからスタートしています。それは強みであると同時に、難しさにもなっています」

強みのひとつは、「誰にでも門戸が開かれている」こと。ヨーロッパには、日本のような部活動はない。子どもたちが本格的にサッカーをするとなれば、地元のクラブチームの門を叩き、セレクションに合格する必要がある。結果、サッカーをやりたくてもできない子どもたちが生まれてしまう。

対して、教育の一環である日本の部活は、基本的には、希望すれば入部が許される。裾野が広がりやすいことに加え、学生である限り、自分の意思でサッカーを続けられるため、晩熟型の選手が花開く可能性も高まる。部活が、選手層の底上げに一役買っているのは間違いないだろう。

では、企業スポーツがベースになっていることは、日本のプロサッカー界にどんな影響があるのだろうか。

「企業スポーツということは、〇〇会社サッカー部という位置づけですから、単体で利益をあげる必要はありません。会社がサッカー部をサポートするという意味合いが強く、サッカー部をビジネスとして成立させようという発想はなかなか根付きにくい。その構図が、現在のプロサッカー界にも受け継がれていることは否めないですね」

クラブとスポンサーが互いに切磋琢磨し合いながら価値を高めていく

サッカークラブの四大収益源は、「チケット収入」「物販収入」「放映権収入」「スポンサー収入」だが、日本でこのうち最も大きいのがスポンサー収入だ(ちなみに、毎試合観客が5万人、6万人詰めかけるようなヨーロッパのビッグクラブでは、放映権収入が最も大きな割合を占めている)。そして、そのスポンサー収入もクラブの親会社がメインスポンサーとして拠出している割合が非常に大きい。

「海外では、クラブオーナーとメインスポンサーは異なることが当然なのに対し、日本ではオーナー企業がメインスポンサーを務めるケースが多く、本来は売り主と顧客の相対した立場にあるところが、同一グループ企業内の関係になっています」

そのため、クラブはスポンサーを獲得するために営業・マーケティングを強化し、スポンサーはその価値を最大化させるために知恵を絞り、アクティベーションを施す、そして常々顧客としてサービス提供者であるクラブに提案を求めるといった良い意味での緊張関係がなかなか日本では生まれにくい。

「どうしても親会社はクラブの必要資金を負担してあげる、クラブはオーナーに支援を要請する、といった主従関係になりがちですね。選手やクラブを応援し、支えるという文化は素晴らしいですが、クラブが主体的に事業を成長、発展させていくという発想にはなりにくい環境とも言えるわけです」

利重孝夫
利重孝夫/Takao Toshishige
1965年東京都生まれ。東京大学卒業後、日本興業銀行などを経て、2000年に楽天入社。東京ヴェルディメインスポンサー、ヴィッセル神戸経営権取得、FCバルセロナとの提携案件を主導する。2014年から10年に渡り、シティ・フットボール・グループ日本法人代表を務め、2016年には横浜F・マリノスで取締役とチーム統括部長を兼任。2024年、出島フットボールを設立。サッカーメディアfootballistaを発行するソル・メディア代表取締役、東京大学ア式蹴球部総監督、FC今治エグゼクティブアドバイザーなども務める。

続けて、利重氏は語る。

「マンチェスター・シティでも、オイル・マネーに基づいたアブダビのオーナーが巨額の資金を投じて、欧州でも指折りの強豪クラブにのし上がっていったわけですけれど、クラブ経営はそれで満足、終わりではないんですね。

強いチームや攻撃的で美しいサッカーのプレースタイル、スター監督や選手たち、素晴らしいトレーニング施設やスタジアムでのホスピタリティなどをパッケージにして高い付加価値商品として仕立て上げ、ファンやスポンサーに販売し成果を出すところまでを追い求める。クラブの価値に対する誇りやビジネスに対するこだわり、貪欲さには大きな刺激を受けましたし、そこで結果を出していくことへのやり甲斐も強く感じました。

日本のスポンサーの方々は皆さん優しくて、お金は出すけれど口は出さない方が良いといった風潮もありますけれど、自分はもっと積極的に関与すべきだと思っています。単にスポンサーになっただけで終わらせることなく、その効果を高めるための具体的なマーケティング活動、仕掛けを、クラブと対話しながら企画・実行、検証するところまで踏み込んでいく。その方が、結果的にクラブもスポンサーにとってもお互い利することになるからです」

その説を立証する好例として、利重氏が話してくれたのが、彼がCFGに在籍していた2020年、新たに横浜F・マリノスのスポンサーに名を連ねたマネーフォワードの事例だ。CFG日本法人から提案した、スポーツ協賛に関する専任部署の新設を同社が快諾。その部署を中心に、クラブや所属選手、サポーターを巻き込んだスポーツ協賛の新たな形を世の中に示してくれたという。

「日本ならではの推し文化を前面に出し、マネフォさんが惜しみなく自らのマリノスや選手への推し活の様子をリアル、ソーシャルメディアで発信し、ファン・サポーターと双方向で交流していくことで、マリノスファンだけでなく、Jリーグサポーター全体に共感が広がっていきました。

会社の認知度やブランドイメージ向上に貢献しただけでなく、急拡大する新進IT企業としての社内の一体感の醸成やリクルーティングなどの課題解決の一助にもなったようです。マリノスを含むJクラブの他のスポンサーがマネフォさんの事例をロールモデルとして追随する動きもみられ、クラブの方も新規スポンサー獲得営業の際にケーススタディとして用いるなど多方面で効果が生まれていました。

まさにスポンサー、サポーター、クラブそれぞれがWin-Winの関係にある、理想的なケースですよね。マネフォさんは今でもマリノスのスポンサーを継続されていますが、こうしたスポンサーの在り方がもっと定着すると、日本サッカーはビジネスとしても成長するのではないかと期待しています」

※5回目に続く

TEXT=村上早苗

PHOTOGRAPH=鈴木規仁

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