孫正義氏の右腕としてソフトバンクの数々の一大事業を手がけてきた、英語コーチングスクール「トライズ」社長の三木雄信氏。現在、世界のビジネスエリートが集う「EMBA」で“学び直し”を実践中の三木氏による、世界のスーパーエリート達の脳内がわかる連載8回目。

UAEが目指すのは「中東版シンガポール」
2026年2月28日、米国とイスラエルによるイラン攻撃、そして翌日に伝えられたハメネイ師の死亡という衝撃的なニュースが世界を揺るがしました。これを受け、イランによる報復、サウジアラビアの自衛権表明、さらにはアラブ首長国連邦(以下、UAE)も反撃を検討するなど、中東全体がこれまでにない新たな緊張のフェーズへと突入しています。
実は私は、2026年2月にアメリカのUCLA とシンガポールのシンガポール国立大学のジョイントプログラムであるUCLA NUS EMBAプログラムでのUAEのアブダビとドバイに2週間、インドのムンバイとバンガロールに1週間滞在して帰ってきたばかりのところです。滞在する期間がもう少しずれていれば帰国することが難しい事態になるところでした。
いつもの通り昼間はホテルに缶詰で講義をうけて、部屋では個人の課題やチームのプレゼンテーションの準備に追われることは変わらなかったのですが、今回、LAやシンガポールでの学期と少し異なっている点があったのです。

それは、クラスメイトにUAEの王族がいたからです。そのためもあって今回の学期での授業後のソーシャライズ(交流)は、UAEとして最大限の対応で行われることになりました。
目玉は、閉館後のルーヴル・アブダビを貸し切ってのレセプション・パーティでした。
ルーヴル・アブダビは、UAEのサディヤット島に位置する、アラブ世界初の特定の地域や時代、文化に限定されず、人類共通の歴史や物語を全地球的な視点で紐解こうとするユニバーサル・ミュージアムです。フランスの建築家ジャン・ヌーヴェルが設計した建物は、伝統的なアラビア建築の意匠を反映した巨大な銀色のドーム屋根が特徴です。

このレセプションには、UCLA-NUS EMBAの卒業生だけでなく主賓として、H.E. モハメド・アリ・アル・ショラファ氏が参加していました。
ショラファ氏は、ロンドン・ビジネス・スクールでMBA(経営学修士)を取得しています。現在では、アブダビの都市計画、インフラ整備、交通戦略を統括するアブダビ自治体交通庁会長やエティハド航空グループ会長を務めるほか、首長国の最高意思決定機関であるアブダビ執行評議会の委員として国家戦略を統括しています。
また、アブダビを世界屈指の国際金融センターへと押し上げた「アブダビ・グローバル・マーケット(ADGM)」の副会長、スタートアップ エコシステム「Hub71」の会長という重責を担い、UAEの経済多角化を主導しています。まさに、UAEにおける経済・都市開発における最重要人物と言える人物でしょう。

なぜ、ショラファ氏ほどの人物がUCLA-NUS EMBAに登壇したのか。理由があります。それは、このことはショラファ氏の口から当日語られたことなのですが、UAEの国づくりはシンガポールを見本としてからです。シンガポールの国づくりの方向性は、地域におけるヒト・モノ・カネ・情報のハブとなることです。
まず航空インフラです。シンガポールのチャンギ空港は2024年に約6,800万人の旅客を処理し、利用者満足度でも世界トップクラスの評価を誇ります。そのハブ空港を支えるシンガポール航空は、2024年のSkytrax世界航空会社ランキングで世界第2位を獲得し、客室乗務員部門とファーストクラス部門では世界第1位に輝いています。
シンガポール港は2024年に過去最高となる4,110万TEU(20フィートコンテナ換算)を扱いました。2024年の発表した世界コンテナ港ランキングでは、シンガポールが5つの評価項目すべてで首位を獲得し、世界最優秀コンテナ港に選出されています。また、世界最大のバンカリング(船舶燃料供給)ハブとしての地位も確立しており、2024年の海上燃料取扱量は5,492万トンに達しています。
金融センターとしても、2024年9月に発表された世界金融センター指数(GFCI第36版)でニューヨーク、ロンドン、香港に次ぐ世界第4位に位置づけられており、アジア有数の金融ハブとしての地位を不動のものにしています。
UAEはこれと同じ戦略を、中東で実現しようとしているのです。UAEも国際空港・航空会社・港湾・国際金融センターという「四本柱」を同時に育成することで、中東版シンガポールの構築を目指しています。これらを主導するのがショラファ氏であり、UCLA-NUS EMBAを通してシンガポール国立大学との関係を築くことは非常に重要との認識があり、主賓として登壇することになったのです。私も直接お話しすることができたのですが、この国づくりの戦略の明確さに感銘を受けました。
92%が外国人居住者のドバイ
また、アブダビで約1週間過ごした後には、ドバイに移動したのですがドバイの発展も驚くべきものでした。ドバイでどうしても目に入るのが高さ828メートル、地上163階建てを誇る世界一高いビルブルジュ・ハリファです。それ以外にも高層ビルが林立しています。
また、その足元にはドバイモールというハイブランドが軒を連ねるショッピング・モールがありました。
また、街を行き交う人も世界中から来ていることが分かりました。ドバイではいくつかの企業を訪問したのですが、そのなかで分かったことは、これらの企業では120カ国前後の国籍の人が働いているということでした。
また、マネージャークラスの人は、フランス人やドイツ人が多くいることが印象的でした。彼らの年俸について調べてみたのですが、日本円換算で7000万円程度です。そして、UAEでは税金がないので日本の感覚でいえば額面では1億円以上ということになると思います。これならば世界中から人が集まるのもうなずけることです。結果、ドバイの人口は、400万人ですが、なんとその92%が外国人居住者(エクスパット)となっているのです。

今回の学期でのUAE滞在中は、率直に言えば、「砂上の楼閣」という言葉が頭をよぎったのも事実です。そして今、その「中東版シンガポール」の夢は、戦火の中に晒されています。UAEの主要空港は事実上閉鎖、エミレーツ航空も運航を停止しました。ヒト・モノ・カネを世界中から集めるハブ戦略は、一夜にして脆くも揺らいでいます。
それでも、ショラファ氏と話をした時に感じた明確な国家ビジョンと強靭な意志があれば、この危機も乗り越えることができると感じました。

トライズ代表取締役社長。1972年福岡県生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱地所を経てソフトバンク入社。2000年ソフトバンク社長室長に。多くの重要案件を手がけた後、2015年に英語コーチングスクール「TORAIZ(トライズ)」を開始。日本の英語教育を抜本的に変えるミッションに挑む。



