孫正義氏の右腕としてソフトバンクの数々の一大事業を手がけてきた、英語コーチングスクール「トライズ」社長の三木雄信氏。現在、世界のビジネスエリートが集う「EMBA」で“学び直し”を実践中の三木氏による、世界のスーパーエリート達の脳内がわかる連載7回目。

AI・ロボットとエネルギー革命がもたらす日本の未来とは
2025年の年末には、日本の出生数が前年比3.0%減となり、過去最低の66万5,000人程度になる見通しだというニュースが流れました。また、日中関係の緊張は続き、新年早々にはアメリカがベネズエラのマドゥロ大統領を拘束したとの報道も世界に衝撃を与えました。こうした不安定な国際情勢を背景に、日本の未来に不安を抱いている人も少なくないでしょう。
しかし、私は日本の未来について楽観的です。EMBAでアメリカ、中国、欧州のクラスメイトと政治・経営・テクノロジーについて学び、議論を重ねる中で、むしろ日本には「逆転のシナリオ」があると強く感じるようになりました。
世界の現状を鑑みると、日本は、社会分断が他国と比べて小さく、安全で安定した民主主義の法治国家であることは、これまで以上に大きな価値を持ち始めています。世界が地政学リスクや社会分断で不透明化する中、半導体などのサプライチェーンの再構築において、『信頼できる拠点(Trusted Partner)』としての日本の価値が相対的に高まってきています。こうした点についてクラスメイトと話す中でも、私はその日本の将来へのチャンスを強く実感しました。
しかし、日本国内では「少子高齢化で日本は衰退する」「人口が減れば経済は縮小する」と言った悲観論が半ば常識のように語られています。しかし、最新のデータを冷静に見れば、必ずしもその予想は当たらないと私は思います。
理由は明確です。AIとロボット、再生可能エネルギー、そして核融合という3つの技術革新が、今まさに同時進行で進んでいるからです。
「1,100万人の労働者不足」は危機ではなくチャンス
まず、現状を直視しましょう。日本は2040年までに1,100万人の労働者が不足すると予測されています。農家の43%が75歳以上で平均年齢は約68歳。介護職の求人倍率は4.25倍(2024年12月時点)。コンビニは2020年時点で17万2,000人の人手不足に陥りました。
数字だけ見れば深刻です。しかし、ここで発想を転換してください。この「人手不足」こそが、日本をAI・ロボット大国に押し上げる原動力になるのです。歴史を振り返れば、日本は常に「制約」を「イノベーション」に変えてきました。資源がないから省エネ技術で世界をリードし、国土が狭いから高密度な鉄道網を発達させた。今度は「人がいない」という制約が、AI・ロボット技術の社会実装を加速させます。
国際ロボット連盟(IFR)によれば、2024年の物流ロボット販売は前年比44%増。学術誌『Labour Economics』の研究では、介護施設でのロボット導入が雇用・定着率・ケア品質のすべてを向上させることが証明されています。ロボットは仕事を「奪う」のではなく「補う」のです。
ヒューマノイドロボットが「2万ドル」で買える時代
ヒューマノイドロボット市場は今、爆発的な成長期に入っています。Grand View Researchによれば、2024年の市場規模15.5億ドルが2030年には40億ドル以上へ。ABI Researchはさらに強気で、65億ドル(年平均成長率138%)と予測しています。
TeslaのイーロンマスクCEOは、Optimusロボットの量産コストを「2万〜3万ドル」に下げると宣言しました。これは車1台分の価格です。2025年に5,000〜12,000台、2026年に5万〜10万台の生産を目指しており、マスクは「Teslaの価値の80%はいずれロボットから生まれる」とまで述べています。
中国のBYDも2025年に1,500台、2026年に2万台のヒューマノイドロボット配備を計画。BMWはFigure AI社と、メルセデスベンツはApptronik社と提携し、工場へのロボット導入を進めています。
マッキンゼーは、2030年にAI・ロボットが米国だけで年間2.9兆ドル(約430兆円)の経済価値を生むと試算。日本がこの波に乗れば、労働力不足は「問題」ではなく「機会」に変わります。
太陽光発電コストは14年で90%下落
「ロボットには電力が必要だ。エネルギー問題はどうするのか」という反論があるでしょう。しかしデータは驚くほど楽観的な未来を示しています。
国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によれば、太陽光発電の均等化発電原価(LCOE)は2010年から2024年で90%下落しました。1kWhあたり0.417ドルから0.043ドルへ。設置コストも87%下落し、1kWあたり5,283ドルから691ドルになりました。
さらに驚くべきは、専門家の予測を現実が常に上回っていること。米国立再生可能エネルギー研究所(NREL)が2015年に「2050年の太陽光コスト」として予測した水準は、2023年にすでに達成されています。BloombergNEFは2035年までにさらに31%下落を予測。2024年の新設再エネの91%は化石燃料より安価です。
AI時代の電力需要増も「想定内」
AI時代の電力需要増についても心配は無用です。IEA(国際エネルギー機関)によれば、データセンターの電力消費は2030年でも世界全体の約3%に留まります。一方、2024年だけで太陽光は452GWが新設され、再エネは新設電源の92.5%を占めています。
蓄電池コストも2010年から2024年で93%下落し、1kWhあたり2,571ドルから192ドルへ。変動電源の弱点を補う技術も急速に経済性を獲得。需要増を供給増が大きく上回っています。
核融合「2030年代に商業化」の現実味
究極のゲームチェンジャーが核融合です。「核融合は常に30年先」と揶揄されてきましたが、状況は劇的に変わりつつあります。
米国エネルギー省は2025年10月、「2030年代半ばまでの商業核融合発電」を目標とするロードマップを発表。民間投資は世界で90億ドル以上に達しています。最も注目されるCommonwealth Fusion Systems(CFS)は、Googleやイタリアの大手Eniと電力購入契約を締結。2030年代初頭に400MW商業炉の稼働を計画しています。
中国でも2025年1月、実験炉EAST(通称「人工太陽」)が1,000秒以上の連続運転に成功。上海のEnergy Singularityは高温超伝導磁石でMIT/CFSの記録を突破し、2027年に「10倍エネルギー利得」を目指しています。従来「2050年頃」とされた商業化が、高温超伝導・AI・先端材料の進歩で大幅に前倒しされています。まだまだ不確実性はありますが一気に実現性が高まりつつあるのです。
日本は「逆転のシナリオ」の社会実装を!
データを直視すれば、AIとロボットが労働力を補い、太陽光発電のコストは下がり続け、核融合が究極のエネルギー源となる未来が現実味を帯びてきています。この三つの技術革新を世界に先駆けて社会実装することが日本の「逆転のシナリオ」だと私は思います。
そして、この「逆転のシナリオ」の実現、政府や大企業だけの課題ではありません。一人ひとりの行動も重要です。あなたはAIツールを使ってますか? 新しいテクノロジーを学ぼうとしていますか? 変化を恐れず、むしろ楽しんでいますか?
日本の未来は、私たち一人ひとりが悲観論に流されず、データを直視し、新しい技術を積極的に取り入れる勇気を持てるかどうかにかかっています。2026年、あなた自身の「変革」を始めることから始めてみてはいかがでしょう。

トライズ代表取締役社長。1972年福岡県生まれ。東京大学経済学部卒業後、三菱地所を経てソフトバンク入社。2000年ソフトバンク社長室長に。多くの重要案件を手がけた後、2015年に英語コーチングスクール「TORAIZ(トライズ)」を開始。日本の英語教育を抜本的に変えるミッションに挑む。

