PERSON

2026.01.13

鹿島FD中田浩二「指導者ではなく、経営の立場からサッカーの価値を上げたい」

2025年、9年ぶり9度目のJリーグ優勝は果たした鹿島アントラーズ。しかし、9年間も国内タイトルから遠ざかる現実は、毎年の監督交代など、クラブに大きな重圧となっていた。それを打開するため、引退後はクラブ経営部門で仕事をしていた中田浩二を強化責任者へ抜擢。川崎フロンターレで4度リーグ制覇をした鬼木達監督を招聘。結果を残した。自らの手でチームを編成し、監督、選手を見極めるフットボールダイレクターの仕事を務めた中田浩二インタビュー。1回目は現役引退からフットボールダイレクター就任までの話。

中田浩二

引退した選手の新しい選択肢を示すことができた

――2014年に現役引退後、指導者ではなく、クラブの経営に関わりたいとクラブスタッフとして仕事を始めた理由は?

「Jリーグでプレーした選手の多くが、引退後に指導者の道を歩んでいました。でも僕は経営のところをやりたかった。当時、Jクラブの社長は、親会社からやってくる人ばかりでした。経営人として高い能力があるけれど、もっとサッカーを知っている人間が経営に関わる必要性も感じていたんです」

――1992年に日本にプロサッカーリーグが誕生し、クラブ経営もまた手探りの時代がありました。

「企業スポーツとして発展したサッカーがプロ化された。そこで理想として掲げられた、地域に密着したクラブとして、安定的に運営・経営するための試行錯誤の時代はあったと思います。そこにプロ選手としての経験を持った僕が参加することで、できることがあるんじゃないかと感じていました。選手ファーストとまでは言わないですけど、選手のためになるような決断ができれば、もっと選手の価値が上がるかもしれないし、サッカーの魅力、クラブの価値が変わっていくんじゃないか。そういうことができればいいなと」

――中田さんはCRO(クラブ・リレーションズ・オフィサー)に就任し、クラブとスポンサー、サポーター、メディア間を繋げるような活動をされてきましたね。その後、中村憲剛さんのFRO(フロンターレリレーションズオーガナイザー)やCRM(マネージャー)、CUO(クラブ・ユナイテッド。オフィサー)といった、いろいろな名称で引退した選手が活動されています。いわゆる「アンバサダー」よりもクラブとの距離が近いのが印象的です。

「アンバサダーというと、イベントに呼ばれて参加するというような印象が強かったけれど、僕の仕事は普段から会社に関わっているという立場でした。僕がこの道を選んだことで、引退した選手の活動場所が指導者以外にも広がり、新しい選択肢を示すことができたんじゃないかと実感しています。ピッチの上でボールを蹴る以外の仕事もできるということを選んでくれる人が増えたことは嬉しいですね」

――筑波大学の大学院で2年かけて社会工学を専攻しましたね。

「引退から2年間、CROとしてクラブの事業部で他のスタッフ同様に働いてきました。そのなかで、自分には知識が足りないと感じることも少なくなかった。そんなときに、社会人特別選抜制度で学ぶ機会があると知り、チャレンジしました。社会課題をデータ解析など数的アプローチで研究するのですが、人、知識、思考など新しい出会いがたくさんあり、貴重な時間でした。送り出してくれたクラブに感謝しています」

――学びに対して貪欲だからこそ、選手としても結果を残されたのだと思いますが、引退後もその姿勢は変わらなかったようですね。

「38歳で大学院に行ったわけですが、引退後は日々学ぶことが多くて、その楽しさを改めて感じています。鹿島アントラーズのスタッフとして、パートナーやメディアをはじめ、いろんな立場の人と出会うことで、選手時代には知ることもなかったさまざまな想いに触れたことも興味深かったですね」

――事業部でマーケティングや経営戦略の仕事をされました。選手時代とは異なる組織体制での仕事になるわけですよね。

「サッカーのポジション柄、周りを動かして試合をコントロールすることで結果を出す仕事が中心でした。でも会社ともなれば、関わる人の数も多い。いろんな立場の人のことを考えなくちゃいけない。経営戦略でいえば、中長期的にどうすべきかを会社として考えていく必要があります。そんなふうに地道に積み上げていかなくちゃいけないものもあるので、選手時代と経営はまったく違うけれど、そういうことも面白くて、10年やってみて、自分には合っているなと。難しさも含めて、楽しさとやりがいを感じています」

中田浩二

時代に即した新しい鹿島をつくりたい

――そんな中田さんが2024年プログループ マネージャーとして、トップチームに。

「異動です(笑)。トップチームのことは常に気にかけていましたが、自分が現場で仕事をすることは考えてもいませんでした。それでも、会社から期待されての辞令だと捉えて、自分ができることを精いっぱいやろうと決意しました」

――当初は強化部の一員という立場でしたが、仕事を始めるにあたり緊張感はありましたか?

「緊張感とは少し違うのかもしれないけど、覚悟はありました。僕自身選手として長くプレーしてきたチームへ戻るわけです。引退してから10年、クラブにはいましたが、チームを一歩ひいて客観的に見てきました。くわえて経営ビジネスサイドで得たものもあるので、それを元選手という経験と重ねて、チームを変えていければと考えました。まずはフットボールダイレクターの下で、うまく仕事ができればと」

――ご自身の武器は?

「まずは選手との距離感。知っている選手も多いし、元チームメイトでもある。選手とのコミュニケーションをとりながら、チームをうまく循環させることを一番に考えていました」

――鹿島は2017年最終節で優勝を逃し、2018年にはアジアチャンピオンズリーグで優勝しましたが、その後は毎年上位争いするものの優勝に届かないシーズンが続きました。

「毎年4位、5位……という状況をどう考えるかという意味で、鹿島アントラーズはそれに納得できるクラブではないということは、選手時代から理解していた。決してよい状況ではない。危機的ではないけれど、僕が強化に呼ばれたのはそれに近い状態だとは感じていました」

――なぜ、タイトルが遠いのか。

「2019年以降、毎年のように監督交代が続いていました。成績以上にそのことが気になっていた。鹿島は今までそういうチームじゃなかったし、これは異常だなとも感じていました。違和感があった。何が起きているんだろうというのを実際見なきゃいけないと思いました」

中田浩二/Koji Nakata
1979年7月9日滋賀県生まれ。帝京高校より鹿島アントラーズ加入。1999年ワールドユース(現U-20 W杯)で準優勝。2000年シドニー五輪、2002年日韓と2006年ドイツのW杯出場。2005年以降フランス・オリンピックマルセイユ、スイス・FCバーゼルで活躍し、2008年鹿島へ復帰。2014年現役引退。その後、鹿島のクラブ・リレーションズ・オフィサー(C.R.O)に就任。筑波大学大学院で社会工学を専攻。2024年から強化担当者となり、同年秋、強化責任者であるフットボールダイレクター就任。2025年は鬼木達監督を招聘するなど、9年ぶりのリーグ制覇を牽引した。

――鹿島アントラーズは30年余りの歴史のなかで、ブレることなく、勝利を追及し、クラブとして揺るぎない信念、スタイルを貫いてきた。だからこそ常勝と呼ばれる結果を残してきたと言われています。伝統を大切にしながらも、進化するサッカーシーンのなかで、変わらなくちゃいけないというところで、もがいているという印象があります。

「言葉を選ばずに言えば、そういう過去に縛られているなと。変わらなきゃいけないと思いながら、根本のところで変われないんだと。監督が代わり、サッカーを変えるという部分じゃなくて、もっと根本的な部分で、変わる、変えなくちゃいけないと思いました」

――2024年10月、監督交代と合わせて、中田さんが強化責任者フットボールダイレクター(以下FD)に就任しました。

「時代が流れて、そこに合わせて鹿島アントラーズも変わっていくべきところも当然あるのに、『今まではこうやって勝ってきた』という気持ちが強すぎる部分があった。試合前日の食事だとか、本当に細かな部分です。FDに就任して、『新しい鹿島』という言葉を使いましたが、僕が動かしていかなくてはいけない。もちろん、変えてはいけないこともあります。そこを大切にしながらも、動かすと決意しました」

――経営部門で重ねた10年の経験を経て、強化責任者に。

「選手時代もそうでしたが、引退後も、常に自分の中でどんどんチャレンジしていました。うまくいくことばかりじゃないし、失敗もあった。でも、失敗したからとその場でやめてしまったら、失敗のまま終わる。でも、そこからまたチャレンジを続ければ、失敗で終わらない。そういうものが力になり、10年後に現場(チーム)に戻ってきた。これもまた人生ですね」

※2回目に続く

TEXT=寺野典子

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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