主演映画『栄光のバックホーム』が公開中の鈴木京香。出演作が途切れることのない彼女は、「仕事が好きで楽しいんです」と笑顔を見せる。一方で、建築やアートへの造詣が深い趣味人としての顔も持つ。多忙な日々の傍らで、建築保存やアートコレクション、旅など、好奇心の赴くままに楽しんでいる。名建築「VILLA COUCOU(ヴィラ・クゥクゥ)」のオーナーとしての活動から、美術館巡り、愛車との別れまで、俳優としての原動力にもつながる充実のプライベートを聞いた。#1/#2

「ワクワクが尽きない」鈴木京香の好奇心
「鈴木さんは今、どんなことにワクワクしますか?」というストレートかつ大味な質問をあえて投げると、「それはもう、いろいろなことにワクワクしますよ!」と笑顔を見せた。
「映画を見に行った時は、暗闇でスクリーンを見上げながら『始まる!』とワクワクします。もちろん自分が出ていなくても(笑)。旅行が好きなので、飛行機が離陸する瞬間もワクワクしますし、初めてのレストランに予約を入れて出かけていくときも、ちょっとし た洋食屋さんや古美術屋さんに行くだけでもワクワクします。楽しいことが多いので、 しょっちゅうです(笑)」
最近とくに心を惹かれた出来事を尋ねると、「い~っぱいあります! もう本当に」と声を弾ませながら、大切な宝物をひとつひとつ並べるように語り始めた。
「先日は仕事が終わってから、前から見たいと思っていた、青山一丁目のポーラビルにある、土浦亀城さんの建築を見学にうかがいました。また別の日は鳥取の美術館や京都の民藝展にも日帰りで。フットワークが軽いので、タイミングさえ合えば全部実行します。どこへ行っても、そこを大事に守り続けてきた方々のおかげで、新たな楽しさや喜び、そして学びを得られているなと感じます」
アートコレクターとしての顔と“還暦プラン”
鈴木自身も、文化財の保存に力を尽くしている。東京・渋谷区にある名建築「VILLA COUCOU(ヴィラ・クゥクゥ)」を、解体の危機から守るため、自らオーナーになったのだ。
設計したのは、ル・コルビュジエの弟子として知られる建築家・吉阪隆正。1957年竣工の個人邸宅である。
「最初は、ただ好きで“失くしたくない”と思っただけだったんです。でも保存に携わるうちに、建築を学ぶ方で“見たい”という方にはお見せしないといけないなと、責任のようなものがだんだんと芽生えてきました。
今は一般公開もしています。ご近所の方や、 建築ファンの方、初めて建築を見学にこられた方からいただく声がうれしくて。本当に実行して良かったと思っています」
とはいえ、維持には相応の労力もかかる。庭の雑草を抜いたりなどの作業は、多忙な時にはスタッフや植木屋に任せざるを得ない。
「やはり自分一人ではできないことなので、スタッフに感謝しています」
鈴木京香という著名人である彼女がオーナーとなったことでVILLA COUCOUを知り、日本の近代建築への知識や理解を深めていった人は決して少なくないだろう。自らのセレブリティとしての影響力を、社会や文化保存、言い換えれば公共の利益のために有意義に使っている。
「そうなったらうれしいですね。私が皆さんに大きなものを差し上げられるかどうかはわからないけれど、私がたくさんのものをいろいろな方からいただいているので、一生懸命に自分の役割を務めたいとは常々思っています」
アートコレクターでもある鈴木は、VILLA COUCOUに、マティスの版画、シンディ・シャーマンの写真などの所蔵品を展示している。他のコレクションについては、それとは別の場所を借り、コレクションを公開する構想も温めているという。
「ファンクラブ活動をしていませんし、舞台出演も不定期。どうやって応援してくださる方にお礼ができるかは課題でした。VILLA COUCOUはファンの方もよく来てくださいますが、新たな場所でコレクションを見てもらう……そんなことを考えるのは楽しいですね。例えば自分が還暦になったら、とか(笑)」
自分の愛する美術品を収集する一方で、手放したものもあるという。それは、20年近く所有した愛車、アストンマーティンDB7だ。
「コロナの期間に駐車場に停めておいたら、バッテリーが上がるようになってしまったんです。ヘッドランプが故障したので発注したら、イギリスから届くまでに半年以上かかると言われたこともあって。そういうことが重なって、運転をしなくなってしまいました。
名前をつけて可愛がっていたクルマなんですけれども、全然乗ってあげられないのは可哀想だなと思ったので、アート仲間の、アストンマーティンのコレクターの方にお譲りしました。ありがたいことに会いにも行っています」
好奇心が仕事を選ぶ。作品に求められる理由
オンとオフの切り替えを上手にできるのは、鈴木にとっての仕事もプライベートも「好き」で「楽しい」ものだからだろう。だから、作品の撮影に入っているときは仕事に集中し、撮り終えたらプライベートに全振りする。
「砂糖やグルテンは控えようと思っているので、撮影中は避けますし会食にも行かなくなります。でも、仕事がない期間は自分を甘やかしてしまいます。レストランで美味しいものをいただいたら、デザートも食べるどころか、何種類も頼んでしまうんです。 でも、それをよしとしているところがあります」
それは自分へのご褒美や、一期一会を味わうといった感覚的なことではなく、「好奇心が強いんだと思います」と話す。ある種の性なのだろう。
「ものすごく知りたがりなので、どんな味がするのか、実際に体験したいんです。何が使われているのか、どうやって作られているのかを、お聞きすることもあります。だからでしょうか、お料理をテーマにした作品に呼ばれることが多いんですよね」
ドラマ『行列の女神 らーめん才遊記』では人気ラーメン店のカリスマ店主でありフード・ コンサルタントを。ホスピスの代表者を演じた『ライオンのおやつ』では、入居者が生き ているうちにもう一度食べたい思い出のおやつが毎話登場。『グランメゾン東京』と『グ ランメゾン・パリ』で演じた早見倫子は、絶対味覚を持つオーナーシェフだ。
「建築も好きだから、今こうやって自分が管理させてもらっていると思います。本当に好きで興味があるので、頑張っているという気持ちもなければ、何の苦労もないんです。もともと好きで興味のあるものしか、自分の体にくっついて残っていかないものかもしれないですね」
鈴木京香/Kyoka Suzuki
1968年宮城県生まれ。高校在学中からモデルとして活動し、1988年に「カネボウ 水着キャンペーンガール」に選出。翌年、森田芳光監督『愛と平成の色男』で俳優デビュー以降、第一線で活躍し続けている国民的女優。2010年に主演した『セカンドバージン』は社会現象となり、映画化もされた。2019年のドラマ『グランメゾン東京』と映画 『グランメゾン・パリ』(2024年)で演じたヒロインのオーナーシェフが記憶に新しい。 建築やアートにも造詣が深く、アートコレクターの顔も持つ。
衣装クレジット:ニット¥69,300、パンツ¥102,300(ともにヴィンス/コロネット TEL:03-5216-6516) イヤーカフ〈右上〉¥64,900、イヤーカフ〈右下〉¥93,500、イヤーカフ〈左上〉¥88,000、イヤーカフ〈左下〉¥72,600、リング¥88,000(すべてヒロタカ/ヒロタカ 表参道ヒルズ店 TEL:03-3478-1830)他はスタイリスト私物

