鈴木京香は1989年の俳優デビュー以降、第一線を走り続けてきた。2025年11月28日公開の映画『栄光のバックホーム』で演じるのは、元阪神タイガースの故・横田慎太郎さんの母・まなみさん。さまざまな役柄を演じてきた彼女が、自身のキャリアと、その原動力について語った。#1/#3

「迷ったらYES」。準備する時間が楽しい
鈴木京香の俳優としてのキャリアを概観すると、役柄の偏りのなさにまず驚かされる。そして、その膨大な仕事量にも圧倒される。彼女に舞い込むオファーの多さは想像に難くないが、どのように作品を選んでいるのだろうか。
「その時の自分が興味を惹かれるキャラクターであれば、一も二もなく『やりたい』と思います。 『できるかな』『自分に向いているだろうか』と迷うこともありますが、やらないで後悔するより、やって後悔するほうがいい。30代あたりから“迷ったときはYES”という姿勢になりました。それでちょっと忙しくなりすぎてしまいましたが(笑)。元々そういう考え方なので、選ぶというより、せっかく“私に”と言っていただいた役は全部やりたいという 気持ちでやってきました。
ですが、数年前に体調を崩した際、これからはもう少しゆったり仕事をしなければと、身に沁みました。年齢も年齢ですし、無理をして皆さんに迷惑をかけることになってはいけないので。肉体的にも精神的にも余裕を持って、準備期間をじっくり取って、ひとつひとつの仕事に向き合っていこうと思っています」
鈴木京香という俳優がひとつのイメージに固定されないのは、制作サイドが彼女に求める役柄が多彩であることに加え、彼女自身が常に新しいキャラクターへ挑戦し続けてきたからだろう。そして、その役柄を「どう演じるか」を考える“準備期間”が、楽しいという。
「お芝居にはたくさんの面白さがありますが、私が一番楽しい! と感じるのは、一人で役について考える時間です。いただいた脚本を開く瞬間は本当にワクワクしますし、読みながら『この役をこういうふうにしたいな』というイメージが浮かぶとすごくうれしくて。それが監督のイメージとぴったり一致したり、スタッフの方がそれに合う衣装や小物を用意してくださると、とてもうれしくなります」

監督との出会い、モデル時代から培ったプロ意識
今年(2025年)、仕事で地元の仙台を訪れた際、一緒になったタレントから「京香さんのポスターを見て同じ事務所に入りました」と言われたという。
「自分でも知らないうちにきっかけを作っていることにびっくりしました。まあ、30年もやっていればこんなこともあるのかなとうれしく思ったんですけど、『いや違う、37 年だ!』と思って(笑)。数字にすると『長いな~!』と思いますが、本当にあっという間でした。それは、本当にこの仕事が楽しくて、好きだからだと思います」
苦しい時期はほとんどなかったというが、駆け出しの頃は「自分ができないこと」で悩んだこともあったと振り返る。
「新人時代はモデル出身だったので、演技の勉強をしてこなかったことが大きな不安材料でした。自分が演技をできると思っていないから毎回苦しくて、いろいろ考えました。演技の学校に通ったこともありますし、演技の本も読んで勉強しました。現場では人を見て学びました。スタッフのことも見ていたし、先輩のことは本当に、失礼だったかもしれないと思うくらい見ていました(笑)。 あの時簡単にできていたら、こんなに続いていなかったかもしれませんね」
デビュー作『愛と平成の色男』の森田芳光監督、『119』の竹中直人監督、『ラヂオの時間』の三谷幸喜監督、『血と骨』の崔洋一監督らとの出会いが、数々の映画賞へとつながった。デビュー3年目でヒロインに抜擢されたNHKの朝の連続テレビ小説『君の名は』の経験も大きかったという。
「その年は(半期の)通常と違って、1年間放送されたんです。つまり1年4ヵ月ぐらいNHKでお仕事をしていたことになります。あの時に素晴らしい先輩方と毎日一緒にいられたことは、本当に得難い経験でした」
作品ごとに学びを得ながら、徐々にプロの俳優としての自覚と覚悟が深まっていったのだろうか。
「モデルの時から、『これは仕事だ』という責任感を持っていました。その頃から仕事への準備をいろいろとしていましたね。撮影に何か必要なものがあるかもしれないと自分で考えて、アクセサリーや靴をたくさん準備していって。そういう意味でも、俳優としてのプロ意識は最初からあった気がします」
鈴木京香という俳優に信頼とオファーが集まり続ける理由の根底には、この揺るぎないプロ意識があるのだろう。今後のキャリアについても、視線はぶれない。
「私はずっとこの仕事をしたいのですが、私にやってほしいと思ってくださる方がいないとできません。これからも『いろんな役をやらせてみたい』と思っていただけるように、キャリアを重ねていかなければいけないと思っています」
鈴木京香/Kyoka Suzuki
1968年宮城県生まれ。高校在学中からモデルとして活動し、1988年に「カネボウ 水着キャンペーンガール」に選出。翌年、森田芳光監督『愛と平成の色男』で俳優デビュー以降、第一線で活躍し続けている国民的女優。2010年に主演した『セカンドバー ジン』は社会現象となり、映画化もされた。2019年のドラマ『グランメゾン東京』と映画 『グランメゾン・パリ』(2024年)で演じたヒロインのオーナーシェフが記憶に新しい。 建築やアートにも造詣が深く、アートコレクターの顔も持つ。
衣装クレジット:ニット¥69,300、パンツ¥102,300(ともにヴィンス/コロネット TEL:03-5216-6516) イヤーカフ〈右上〉¥64,900、イヤーカフ〈右下〉¥93,500、イヤーカフ〈左上〉¥88,000、イヤーカフ〈左下〉¥72,600、リング¥88,000(すべてヒロタカ/ヒロタカ 表参道ヒルズ店 TEL:03-3478-1830)他はスタイリスト私物

