名古屋グランパスのコーチに就任した、元日本代表・玉田圭司インタビュー。最終回は、ストライカーとしてのキャリアと指導者としてのチーム作りについて。

1980年4月11日千葉県生まれ。習志野高校卒業後、柏レイソルに入団。2004年日本代表入り。2006年名古屋グランパスへ移籍し、同年ドイツ、2010年南アフリカとワールドカップ2大会連続出場。2015年からセレッソ大阪でプレーし、2017年名古屋へ復帰。2019年V・ファーレン長崎に移り、2021年現役引退。2024年春、埼玉県の昌平高校サッカー部の監督に就任し、夏のインターハイで同校を優勝へ導く。2025年、名古屋グランパスのコーチに就任。
ストライカーに言い訳をさせないチームを作る
――引退を決意したとき、満足感や達成感はありましたか?
「なかったですね。とにかくずっと、『まだまだサッカーがやりたい、まだやれる』という気持ちだったので。もちろん僕の気持ちだけで、プロ選手は続けられない部分もありますから。だけど、サッカーをプレーするなかで、満足したことはなかったですね」
――ワールドカップでブラジル相手にゴールを決めたとしても……。
「はい。どんなに良いプレーをしても、もっと上手くやれるだろう。もっと上手くなりたいって思っていたので。今まではイチ選手としてそういう気持ちだったけれど、これから指導者としてもその気持ちは変わらない。チームとしても満足しちゃいけない。登っていくのは難しいし、大変だし、時間もかかります。
でも、落ちるときって、一気に落ちる。その怖さというのは、現役時代も日々感じていました。落ちるんじゃないかという不安というよりも、満足したら終わりだということ。絶対に満足したくない、しちゃいけないという気持ちでやってきたので。たとえば、会社でも同じだと思うんです。継続しているだけでは、そこに成長はないわけだから」
――ストライカーの経験は監督として、どんなふうに活きると考えていますか?
「うーん、自分の中ではそこまで僕はストライカーだったと思っていないんですよ。ストライカーというのは、本当に自分が点を獲ることをメインに考えている選手。そのために逆算してプレーしている。もちろん、僕のなかにもそういう部分はありますよ。
実際は、チームとしてゴールへのプロセスみたいなものを考えるのが好きだったし、そのために自分が何をすべきかを考えて、プレーすることが好きだった。そう思うと、僕はストライカー、点取り屋ではないのかなと」
――2006年のドイツ大会。2010年の南アフリカ大会とワールドカップに出場されてから、15年以上の時間が経っていますが、日本人ストライカーは変わってきたと思いますか?
「変化してきていると思いますよ。一番大きいのは経験じゃないですかね。今も代表選手の中心は海外でもまれて、毎日外国人選手と対峙している。そこが僕らの時代とは大きく違う。もちろん、サッカーも進化しているし、求められることも変わっているけれど。いろいろ、考え方があると思うんですよね。ストライカーとして、点を取るための動きができる、シュートを打つというのは、非常に大事なことです。
でも、チームとして、FWにボールがいかなかったら、意味がない。どんなに能力の高いストライカーだとしても、シュートが打てないわけですから。点取り屋を育てるだけでは、ゴールは生まれない。チームが機能していないと『ボールが来ないんだからしょうがない』とストライカーに言い訳を作らせてしまうわけです。だから、ストライカーに言い訳を作らせないための、チーム構築ができれば、FWも燃えるんじゃないですかね」
サッカー小僧であることは、今も昔も、これからも変わらない
――監督・玉田圭司のサッカー観を言語化すると?
「確実にスタイルがあるというのを目指したいですね。玉田のサッカーはこうだよねというスタイルがあって、かつそれに対して、プレーする人間も見ている人も魅力的だと感じてもらえるようなサッカーをしたい。攻撃的でもあり、守備的でもある……簡単な言葉で表現するのは難しい。それがサッカーだと思いますし」
――指導者は選手時代に比べたらボールを蹴る時間は少なくなるかもしれませんが、映像を見る時間は確実に増えるし、現役時代以上にサッカー漬けなのでは?
「映像は選手時代よりも見ていますね。でも、実際ボールを蹴ることもしますよ。サッカー小僧であることは、今も昔もこれからも変わらないと思います。日々学びがあり、吸収し続けなくちゃいけないというのも変わらず、続いていくと思います」
――今後のビジョンは? 日本代表監督はやりたいですか?
「今はそこまでのプランはないですね。クラブの監督を長く続けていくほうが、僕には合っているのかなと思います。まずはJ1で監督ができるS級ライセンスの取得が必要。監督になる準備は今も毎日続けていますが、歩む道を自分の気持ちだけで決められる仕事ではないので。オファーが無ければできないですし。プロチームではない現場の話が来るかもしれないし、そのときどき、魅力を感じ、やるべきだと思ったことに挑戦していきたい。そこは自分の思うままに」
――サッカーの楽しさ、魅力を教えてください。
「僕にとっては、サッカーが世界で最も有名なスポーツで、一番魅力的なものですね。子どものころから、ずっとサッカーをしてきました。サッカーしかしていない。丸いボールを蹴るというのが、一番の楽しみ。それが今もずっと続いているんですよね。サッカーは仕事ではあるけど、一番の趣味でもある。アマチュアでもプロでもそれはずっと変わってないんですよね。そこは、現役じゃなくなった今も同じですね。サッカー以外に趣味がないんで」
――監督として、選手やチームを成長させ続けることが、仕事になっていくわけですね。
「グランパスで1年コーチをしながら、いろいろ吸収している最中なので、プロチームの監督業について、今はまだ深く考えているわけじゃないというのも事実です。1日1日が大事だと思っています。それは僕にとっても、選手にとっても。今、若い選手を毎日見ているなかで、『こいつ良くなっているな』と感じる楽しみや幸福感はある。そういうものが積み重なっていくことで、またいろんなものが見えてくるんじゃないかなと思っています」

