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2025.10.02

前田遼一コーチが明かす、日本代表セットプレー戦術。W杯で勝つための攻撃デザイン

サッカー日本代表の前田遼一コーチは2026年夏のW杯北中米大会で優勝を目標に掲げるチームで重要な役割を担う。2023年1月の就任から主に攻撃のセットプレーを担当。W杯アジア予選で全51得点中10得点を生み出したセットプレーはW杯本番でも上位進出への鍵を握る。

前田遼一コーチが明かす日本代表セットプレー戦術。W杯で勝つための攻撃デザイン
前田遼一コーチ(左)と遠藤保仁コーチ。

日本代表セットプレーの要。前田コーチが語る現役時代とのギャップ

J1リーグで2年連続得点王に輝き、日本代表でも33試合10得点をマーク。ストライカーとしてゴールを量産した前田遼一コーチだが、現役時代はセットプレーに対するこだわりは希薄だった。

「現役の時はセットプレーについて本当に何も考えてなくて。感覚でやっていた感じです。森保監督に最初にこの話をいただいた時も、力になれるか分かりませんと、正直にお伝えしました」

第1次森保政権で攻撃セットプレーを担当していた上野優作氏がJ3・FC岐阜の監督に就任したことを受け、前田コーチは2023年1月に森保ジャパンに入閣。ジュビロ磐田U-18監督としてのやりがいもあったが、森保監督からの直々に「一緒にやろう!」とのオファーされたことが決め手となった。

CK・FKで勝利を導く前田コーチの戦術

就任後は国内外の試合視察に加え、Jクラブの練習にも足を運び、攻撃のセットプレーを研究する日々。日本代表の選手の所属クラブで採用しているプレーからもアイデアを抽出し、試合ではデザインしたCK・FKを2〜3パターン用意して臨むことが多い。

W杯アジア予選では全51得点中10得点がセットプレー(CK6点、FK2点、PK2点)から生まれている。最終予選初戦・中国戦での先制点もCKによるもので、練習通りの形だった。圧倒的強さでアジアを勝ち抜いた日本代表チームで、前田コーチが果たした役割は大きい。

幼少期をアメリカで過ごした前田コーチは、帰国後暁星中学・高校に進学。学業も優秀で、当初は推薦枠で慶大に進む方針だったが、Jクラブからのオファーが殺到したことから、大学を経ずにプロの道に進んだ。

頭脳明晰でサッカーIQも高く、膨大なデータをもとに攻撃セットプレーのアイデアを具現化する能力が求められる攻撃のセットプレー担当にはうってつけの存在といえる。

活動期間が限られる日本代表では、セットプレーの練習に割かれる時間は多くない。基本的には試合前日に行われるが、準備日数が短い場合は練習自体が省略されることもある。

与えられた時間で、いかに効率的にデザインしたプレーをチームに落とし込むか。

「監督は常々『まずはオープンプレーが大事』とおっしゃっているので、セットプレー練習以外の時は極力話をしないようにしています。セットプレーの練習時にやるべきことを簡潔にシンプルに伝えることを意識しています」と明かす前田コーチ。

世界的クラブでも注目されるセットプレー専門コーチ

W杯出場を決め、今秋からは世界的強豪との親善試合が続く。2025年9月はメキシコに0-0で引き分け、米国に0-1で敗戦。ともにノーゴールで、セットプレーも不発に終わった。10月はパラグアイ、ブラジルとの親善試合が控える。

前田コーチは「W杯出場を決めた試合後に森保監督から『自分も含めて誰もW杯出場は決まっていない』という言葉があった。その言葉が心に残っていて、W杯までに結果を出さないと、もしかしたら(解任されるかもしれない)と思いながら、目の前の試合で結果を出すことに集中しています」と危機感を持って仕事と向き合っている。

近年では、プレミアリーグをはじめ世界のクラブでもセットプレー専門コーチが増加。スローイン専門コーチやプレースキック担当選手のメンタルを最適化する神経科学者を雇用するクラブもある。

W杯開幕まで8ヵ月余り。前田コーチは言う。

「手の内を隠すよりも、どんどんチャレンジしていく気持ちのほうが強い。セットプレーで1つでも多く得点やチャンスを作り、日本の勝利に貢献したい。今はそればかり考えています」

前田コーチのアイデアが北中米のピッチで具現化された先に、日本代表が求める最高の景色がある。

前田遼一/Ryoichi Maeda
1981年10月9日生まれ、兵庫県出身。暁星高から2000年にジュビロ磐田に入団。2009、2010年に2年連続でJ1得点王に輝いた。2015~18年はFC東京、2019~20年はFC岐阜でプレーした。日本代表はU-18から各年代で選出され、2007年8月22日のカメルーン戦でA代表デビュー。国際Aマッチ通算33試合10得点をマークした。現役引退後の2021年にジュビロ磐田U-18コーチに就任し、2022年に監督に昇格。身長1m84cm、血液型AB。

TEXT=木本新也

PHOTOGRAPH=西村尚己/アフロスポーツ

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