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2025.10.21

アンディ・ウォーホルがファッション撮影!? 雑誌の歴史をつくってきたマガジンハウスの80年を振り返る

『anan(アンアン)』『POPEYE(ポパイ)』『クロワッサン』『BRUTUS(ブルータス)』などのライフスタイル誌はじめ、書籍やウェブメディアを展開しているマガジンハウスが今年、創業80周年を迎え、同じ銀座にあるGinza Sony Parkとコラボレーションし、「マガジンハウス博“銀座から世界へ”」を開催中だ。

「マガジンハウス博“銀座から世界へ”」

戦争が終わった1945年創刊の『平凡』から始まった

マガジンハウスの創立は1945年。『平凡』から始まり、『週刊平凡』『平凡パンチ』『anan』『POPEYE』『クロワッサン』『BRUTUS』『Hanako(ハナコ)』『Casa BRUTUS(カーサブルータス)』『&Premium』などの雑誌や書籍、デジタルコンテンツを手掛けてきた。

2025年10月10日、創立80周年を迎え、その記念イベントでは、同社が創造し、読者に提供したきたコンテンツやその積み重ねを軸にしたライフスタイルを振り返るなどの内容の展示やトークイベント、そして、関連商品の販売などでGinza Sony Parkを賑わせている。

「マガジンハウス博“銀座から世界へ”」

マガジンハウス(旧称・平凡出版、旧々称・凡人社)の歴史はこの雑誌から始まる。『平凡』1945年12月号。戦後まもなく創刊。娯楽が乏しかった時代で大変な人気雑誌となった。のちに芸能誌へとリニューアルされるが、当初は文芸誌だった。

「マガジンハウス博“銀座から世界へ”」

皇太子ご成婚(現在の上皇・上皇后のご成婚)の年に『週刊平凡』を創刊し、テレビの普及とともに部数を伸ばした。さらに前回の東京オリンピックの年、1964年には男性向け週刊誌『平凡パンチ』を創刊した。『平凡』『週刊平凡』『平凡パンチ』はいずれも全盛期は100万部を超える部数となる。

「マガジンハウス博“銀座から世界へ”」

前回の日本万国博覧会(通称:大阪万博)が開催された1970年の春に創刊されたのが『anan』だ。当初は『平凡パンチ女性版』という形でテスト的にリリースし、『anan』という誌名に落ち着いた。当時はフランスの女性誌『ELLE』と提携していたので、『ELLE JAPON』の表記もある。月2回刊から一時、月3回刊、そして現在は週刊誌。

「マガジンハウス博“銀座から世界へ”」

ベトナム戦争が終結した翌1976年、南北ベトナムが統一された年に創刊されたのが『POPEYE』である。時代の雰囲気が変わったこと、たとえばアメリカの若者たちの健康志向なども背景にある。月2回刊、一時、週刊の時代を経て、現在は月刊誌。

「マガジンハウス博“銀座から世界へ”」

当初、1981年に『POPEYE』の増刊としてリリースされ、1982年、定期刊行された『Olive』。2003年8月号で休刊したが、「元オリーブ少女」を自称する読者は多く、何度かムックの形で不定期に復刊されたりした。

「マガジンハウス博“銀座から世界へ”」

この出版社の歴史は終戦直前、30代だった2人の出会いにより始まる。岩堀喜之助と清水達夫。国府津に住んでいた岩堀と小田原に疎開していた清水の通勤電車内の対話が始まりだった。終戦数ヶ月前に清水は応召されるが、その後、岩堀が清水に電報を打つ。「ザツシヲイツシヨニヤラナイカ」。彼らのほか3名が加わり、会社はスタートした。

「マガジンハウス博“銀座から世界へ”」

その後の、この会社の出版事業や時代について年表で解説。これは前半で、『Hanako』創刊の頃まで。

「マガジンハウス博“銀座から世界へ”」

「マガジンハウス80年史」の後半。今はもう無い懐かしい誌名も多い。

「マガジンハウス博“銀座から世界へ”」

マガジンハウスの事典をつくるかのように、A to Zで項目を立てている。これは『平凡パンチ』の名編集長、『POPEYE』『BRUTUS』の創刊編集長だったレジェンド、木滑良久さんが生前に受けていたインタビューの映像と語録をまとめたセクション。
たとえばこんな言葉。

「『このテーマだったら、こういう人があそこにいる』っていうのを知ってるのが編集者なんだ。
そうでしょう?
鋭いやつをちゃんといっぱい持ってるやつが
偉いんだよね、ほんとは。」

「編集者は自分の血となり
肉となってるものから湧きでてくる、
本当にいいと思うもの、
好きなものをつくらなくちゃ。
そうでなくちゃ、誰の心も動かせない。」

「出版社は(中略)ほんとうは町工場じゃなくちゃ
いけないんですよ。
大きなビルなんかいらないんだ。
机と電話があればできる商売なんですから。」

「マガジンハウス博“銀座から世界へ”」

マガジンハウスについて「この会社を特別にしている編集とデザイン」というテーマで社外の人に語ってもらうセクション。たとえば、世田谷文学館で「堀内誠一展」をキュレーションした大竹嘉彦は堀内誠一の言葉を集めてくれた。堀内こそ、マガジンハウスの雑誌のスタイルを確立させた伝説のアートディレクター。

「マガジンハウス博“銀座から世界へ”」

「幼稚園の時から『anan』を読んでいた」という作家・甘糟りり子は気になるタイトルの記事や小さいけれど見過ごせない記事を拾ってくれている。

「マガジンハウス博“銀座から世界へ”」

たとえば、「知的」と書いて「インテリ」とルビ。「ニューヨークはだんぜん知的している。」表紙のアンディ・ウォーホルも記事中のロバート・メイプルソープもキース・ヘリングも全部この号のための撮り下ろし。ウォーホル先生に入ってもらってファッションシューティング。当時でもそんな雑誌無かったよ。ちなみに、違う時期にウォーホルは『POPEYE』にも『BRUTUS』にも登場。

「マガジンハウス博“銀座から世界へ”」

古書店業界の言葉で「キキメ」とは「全集などの揃もので、とくに流通量が少なく、古書価も高価な巻。そこだけ持っていれば、あとは自然に集まる。」というようなものを指すが、マガジンハウスが発行してきた数多の出版物の中でも、相当レアでこれ、なかなか持ってないんじゃない?みたいなものを、中目黒の古書店「COWBOOKS」の吉田茂さんが実物と共に解説してくれてる。下の段にある『創造の四十年|マガジンハウスのあゆみ』という40年社史、僕も持ってる。ブックデザインは堀内誠一さん。あれからさらに40年経ったわけです。

「マガジンハウス博“銀座から世界へ”」

いちばん上段にある『平凡パンチ増刊 1964-1971 大橋歩表紙集』は実は入社2年目だった僕がつくりました。前述の木滑さんに「オマエがやれ」って言われたの。「僕、まるごと1冊なんてつくったことないですよ」と言ったけど、ともかくやれって。全体の構成などはデザイナーが考えてくれて、僕は著名人のコメントを取る仕事が中心。大橋さんの後書きに「編集を担当してくれたのは『平凡パンチ』創刊の頃にはまだオムツの取れてなかったでしょう、鈴木さん」とあるけど、そこまで赤ん坊ではありませんでした(笑)。

「マガジンハウス博“銀座から世界へ”」

そうそう、僕もこの篠山紀信の『relax』とホンマタカシの『relax』持ってるよ。篠山さんのは全編セルフパロディみたいな構成。なにしろ表紙タイトルの「ハイ! キシン」は名作『ハイ! マリー』(アサヒカメラ1972年10月臨時増刊)に拠っている。ホンマさんの『relax』は捲っても捲ってもハワイのノースショアの波の写真。表紙の肩(といいます。上段)のコピーがいいね。「波だけでリラックスつくりました。」この2冊とも、岡本仁編集長。

「マガジンハウス博“銀座から世界へ”」

これは「マガジンハウスA to Z」の「C」の項目から。1970年代に創刊された『クロワッサン』。「croissant」だからね。創刊当初は「ふたりで読むニューファミリーの生活誌」というキャッチコピーだったが、のちにリニューアルし、「女の新聞」に。社会と女性を見つめてきた。

「マガジンハウス博“銀座から世界へ”」

大人の落ち着いた雑誌と思いきや、ギョッとするタイトルも多い。「美人に生まれなくて良かった!」「どうして、そんなに痩せたがる。」「家事は雑用だろうか。」

「マガジンハウス博“銀座から世界へ”」

「マガジンハウスA to Z」の「P」の項目からポパイ(POPEYE)。各時代のポパイ少年たちを「◯◯ボーイ」と分類して解説。

「マガジンハウス博“銀座から世界へ”」

マガジンハウスという名前ながら書籍も手掛けています、ということで、「マガジンハウスA to Z」の「B」はBOOKS。『世界がもし100人の村だったら』『君たちはどう生きるか』『林真理子「美女入門』シリーズなどなど。

「マガジンハウス博“銀座から世界へ”」

「マガジンハウスA to Z」の「S」の項目はStyles「その時いちばんのスタイルを探して。」ファッションページのダイジェスト。『anan』以前の服飾誌は型紙がついていた洋裁のための雑誌が主流だった。スタイリストが服を借りてきてコーディネートするというのは画期的だったんだ。

「マガジンハウス博“銀座から世界へ”」

ほしよりこ『きょうの猫村さん』も大ヒットシリーズ。今回、ポップアップストアを展開している。

「マガジンハウス博“銀座から世界へ”」

マガジンハウス本社の会議室に掛けられている社是「読者を大切に」「人間を大切に」「創造を大切に」の額がこの期間、ここに。そして主だった雑誌、書籍を読むことができるスペース。

「マガジンハウス博“銀座から世界へ”」

もし、マガジンハウスがなかったら…? 各界の著名人に聞いている。

たとえば…
リリー・フランキー「僕は、肉体的にも、文化的にも餓死していたと思います。」
近田まりこ「いくつかの魔法や呪文が存在してなかった」
蒼井優「『好き』を伝えられなかったかもしれない。」

「マガジンハウス博“銀座から世界へ”」

エッセイストで古書籍商を続けてきた松浦弥太郎は
「もし、POPEYEがなかったら——
僕はきっとアメリカに行かなかった。旅の仕方もチケットの買い方も、
ホテルの探し方も、全部、POPEYEが教えてくれた。」

村上隆が手がけた「マガハウスくん」

「マガジンハウス博“銀座から世界へ”」
©Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

マガジンハウスのロゴをモチーフにして、世界的アーティスト、村上隆が生んだキャラクターは「マガハウスくん」。そして、組み立て式のモバイル建築が出現。『Casa BRUTUS』編集部とつくっているのだが、ジャン・プルーヴェのプレファブ住宅に着想を得たらしい。

村上隆展のエリアだけは入場が有料となる。

「マガジンハウス博“銀座から世界へ”」
©Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.
©Takaji Murakami/Creator's File

村上隆の(双子の?)兄弟、村上隆二(ロバート秋山=秋山竜次)とのユニット「MMブラザーズ」。

「マガジンハウス博“銀座から世界へ”」
©Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

マルセル・デュシャン《彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも》(通称:大ガラス。フィラデルフィア美術館蔵)へのオマージュの村上隆作品。

「マガジンハウス博“銀座から世界へ”」
©Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

ブルックリン美術館が所蔵する歌川広重《名所江戸百景》(1856年〜58年)が2024年に開帳されたタイミングで村上もオマージュ作品をつくった。日本では初公開となる。「亀戸梅屋舗」「大はしあたけの夕立」をゴッホが模写し、さらに村上が描く。

「マガジンハウス博“銀座から世界へ”」
©Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved.

《名所江戸百景》は広重最晩年の作品。大胆な風景の切り取りや、まるで広角レンズを駆使したアングルなども興味が尽きない。それの村上隆版。販売もされる模様。特設サイトを参照のこと。

「マガジンハウス博“銀座から世界へ”」

「マガハウスくん」のキーホルダー。ショップにて。

「マガジンハウス博“銀座から世界へ”」

ショップでは雑誌やムックの最新号が販売されている。こここそがまさにマガジンハウスの「イマ・ココ」

「マガジンハウス博“銀座から世界へ”」

「POPEYE POP-UP SHOP」では、POPEYEのロゴをあしらったスウェットやTシャツ、イベント会場だけでしか買えない限定グッズも販売。

「マガジンハウス博“銀座から世界へ”」

『BRUTUS』は1980年の創刊から45年。その全1040号の全内容をGoogleのAI、Geminiに学習させ、その記憶をもとに電話で会話ができる「もしもし、ブルータス。」が設置されている。雑誌は読むものから、対話をするものになったのだろうか。現地で試してほしい。

80 周年記念イベント「マガジンハウス博 “銀座から世界へ”」
会場:Ginza Sony Park(銀座ソニーパーク)
住所:東京都中央区銀座 5-3-1
日程 :~2025年10月25日(土)
入場料:無料(村上ハウス他一部有料イベントあり)
時間:平日 12:00~20:00(19:30 最終入場)、土日祝 11:00~19:00(18:30 最終入場)

Yoshio Suzuki
編集者/美術ジャーナリスト。雑誌、書籍、ウェブへの美術関連記事の執筆や編集、展覧会の企画や広報を手がける。また、美術を軸にした企業戦略のコンサルティングなども。前職はマガジンハウスにて、ポパイ、アンアン、リラックス編集部勤務ののち、ブルータス副編集長を10年間務めた。国内外、多くの美術館を取材。アーティストインタビュー多数。明治学院大学、愛知県立芸術大学非常勤講師。

TEXT=鈴木芳雄

PHOTOGRAPH=photo_Takemi Yabuki(W), Keiko Nakajima(MAGAZINE HOUSE), Yoshio Suzuki

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