放送作家を中心に活躍する傍ら、NSC(吉本総合芸能学院)の講師として10年以上にわたって人気投票数1位を獲得している桝本壮志さんが、人気芸人・クリエイターと対談する本連載。今回のゲストは桝本さんと旧知の仲であるM-1王者・とろサーモンの久保田かずのぶさん。第6回は、久保田さんが尊敬する芸人たちへのリスペクトについて。

優しいし、滑らないし、狂気も感じる先輩芸人
桝本 今回は尊敬している先輩芸人と後輩を聞いてみたいんだけど、どうですか?
久保田 まずは東野幸治さん。東野さんは世間的には「当たり障りないようにMCしている人」ってイメージかもしれんけど、実は言葉に温もりがあって、こっちのワードとかも拾ってくれる。とにかく”うまくて優しい”んですよね。一方で、とんでもない狂気を感じる時もある。『今田×東野のカリギュラ』という配信番組で鹿を殺したとか(笑)。
桝本 東野さん、昔一緒に番組やってた時「今夜は帰って何するんですか?」って聞いたら、「朝4時まで漫画喫茶行きます」って言ってた。当時も相当な売れっ子だったんで、ヤバいと思ったね(笑)。他には?
久保田 田村淳さん(元・ロンドンブーツ1号2号)ですね。もし漫才やらせてくれるんだったら、ぜひ一緒にやってみたいです。俺は今まで「クズ」とか「カス」とかネガティブなワードでいじられてきましたけど、俺のことを「ブラックピュア」と言ったのはあの人だけです。あと冷静に聞いていてると、百戦錬磨の芸人の誰もが思いつかないフレーズとかでツッコんだりしてくるので、もう怖なりますね。
桝本 例えば?
久保田 昔「ロンドンハーツ」で「女の子とどんなデートする?」というテーマで話す回に出た時なんですけど、ひとり目が「ディズニー行って、ドライブして、酒飲んでホテルですわ」と答えたんです。それでふたり目が「田舎の川に行って釣りして、魚をリリースして、ドライブして、そのままホテルですね」って被せて答えて、みんな「ホテル行きたいだけやん!」とツッコむ流れになったんですよ。
それで俺の番になって、「ディズニー行って、その後で釣りに行って、最後はホテル行きます」と言ったら、「さっきと一緒やんけ!」「その行程おかしいだろ!」と笑いが起きたんですけど、そこで淳さんは「お前ら全員、飯を挟めよ!」って言ったんですよ。鳥肌立ちましたね。たしかにみんな食事をスルーしてたんですけど、誰もそこにアンテナを張ってなくて。
桝本 特殊なアンテナを立てている方だよね。いちファンとして、ふたりの漫才見てみたいよ。

1979年宮崎県生まれ。幼なじみの村田秀亮とお笑いコンビ・とろサーモンを結成し、2017年に『M-1グランプリ』優勝。ピンでも『ドキュメンタル』の優勝で2000万円を手にするなど幅広く活躍。MCバトルでの活躍や絵画作品も評判を呼ぶ。2025年に発売した自伝的小説『慟哭の冠』もベストセラーになっている。
ロジックの裏に隠された令和ロマンくるまの狂気
桝本 ほな次は後輩で。
久保田 まずは、オダウエダの植田さん。彼女は会話がいいですね。短い時間でも刺さるフレーズをどんどん残してくるし、いじったらちゃんと返してくるし。周りの芸人の植田への評価は高いです。ムチャクチャおもろい。
桝本 まだお話したことないけど植田さんすごい気になるね。他には?
久保田 くるま(令和ロマン)を挙げたいですね。くるまは完璧なロジックで漫才をつくってはいるんだけど、そこに狂気じみたあいつ本来の人間性みたいなものがたまに見えるんですよ。顔の皮ビリッとはいだような瞬間というか。
桝本 うん、分かる。
久保田 「え、こいつロジックだけでやってたやつじゃないの?」って驚かされるというか。
桝本 くるまは初めてのライブで爆笑を取るために、自分の母親の力を使って客席の半数以上を自分の身内で固めたりしてたんすよ(笑)。徹底的にロジカルなんだけど、実は人間臭い一面もあるのが魅力やね。
久保田 それはおもろいな。そういうとこなんや、俺ひっかかったのは。
※7回目に続く

1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)および、よしもとクリエイティブアカデミー(YCA)の講師。2連覇した令和ロマンをはじめ、多くの教え子をM-1決勝に輩出している。