2023年の加入直後から得点を挙げ、オランダリーグ11得点をマークした初シーズン。2024年3月に日本代表へ招集され、出場9試合9得点と結果を残した小川航基選手。オランダで開花した点取り屋が貫いたこととは。インタビュー2回目。

ゴールを決めないと、サッカーをやる意味がない
――ステップアップリーグのオランダだからこそ、選手はアピールしたいという気持ちの強さがあると思います。自分が点を取りたいっていう気持ちの強いチームメイトが多いのでは?
「基本的にはそうですね。みんな自分でシュートを打つことを考えているので、パスも出てきません」
――日本では、「味方を活かす」ということを求められる機会も多いと思います。そういう意味で、日本人FWがヨーロッパへ行っても、ストライカーらしいエゴイストさと、日本人の特長である周りを活かす協調性との間で悩む選手もいます。
「そういう葛藤はあると思いますよ。でもパスを出してもゴールが決まらないくらいなら、自分でシュートを打ったほうが後悔しないという考えが僕にはあるので。後悔しない選択をするというのが、一番の得策だと僕は思っています」
――だとすると、日本ではなかなか自分の強みを出せなかった、伸び悩んだということはありませんか?
「僕はそうでしたね。若いときに結構注意されましたね。『フリーの選手がいるのになぜ自分でシュートを打つのか?』と。味方を活かすことを求める監督も何人もいましたから。でも、それをしてしまうと、自分の良さ、持ち味が薄れてしまうと思っていました」

1997年8月8日神奈川県横浜市生まれ。桐光学園からジュビロ磐田へ加入。2017年、プロデビュー。同年U-20W杯で左膝の前十字じん帯断裂および半月板損傷し、1年近くリハビリを強いられた。2019年夏水戸ホーリーホックへ期限付き移籍し、17試合出場7得点。翌年、ジュビロ磐田へ戻り、2022年横浜FCへ完全移籍。41試合出場26点を挙げ、J1昇格に貢献。2023年J1でも15試合6得点と活躍し、7月オランダNECナイメヘンへ移籍する。日本代表では、9試合9得点。
ゴールを決めたとき、黙らせることができた
――今だからそうはっきり言えるんだと思いますが、18歳、19歳の頃とかは、悩んだり、こうなりたいと試行錯誤の時間もあったのでは?
「もちろんありましたね。自分の良さを大事にしたいと思いつつも、試合に出られなかったらそれを披露することもできない。だから、ほかのところでは監督が求める動きはするように心がけていましたね。
ゴール前の自分のプレーには絶対的な自信、自分のやり方がやっぱりあるから、そこは曲げずに、チームの動き方だったり、監督の意向に沿う動きもやりました。そこのバランスをうまくとってきたと思います。そのなかでも、周りに何を言われても、自分の良さを消さないようにということは大事にしてきました」
――自分らしさを出そうと思っても、失敗することもあるだろうし、それが怖くて、できない人もいると思うんですが、どうすれば、自分の良さを出せるようになるんでしょうか?
「僕自身もプロになって、フリーの選手がいるのに、シュートを打って、外れて、周りの空気が悪くなったり、ため息ばかりに……みたいなことを何回も、何十回も何万回も経験しました。『あいつはダメだ』という声も耳にしたし、試合から外れることもありました。そこで弱気になるというのも理解できます。
でも、自分のポリシーを大事にしたかったし、反することはやるべきじゃないと考えていました。だから、怖がらないことが大事だなと思います。サッカーに限らず、たとえば、上司に言われたり、ダメなことはダメかもしれないけれど、どうすればこのチームを助けられるのかを自分で考えて、自分が正しいと思えることが決まったら、何を言われてもこう貫き通すことは必要なことだと思います」
――小川選手の強さを支えているのは、幼少期の自信、成功体験があるからでしょうか?
「それはあるかもしれませんね。僕がサッカーをやっている大きな意味のひとつが、ゴールを決めることなので、それがなかったら、サッカーをやる意味がないぐらいの感覚を持っているので。だけど、僕がゴール前でボールを持ったとき、周りは『シュートじゃないだろ』みたいな雰囲気にもなるし、外したらため息に包まれる感覚も生まれるんです。でも、ゴールが決まったら、誰もが喜んでくれる。『黙らせたぞ』という満足感があるんですよね」

受け手のことを考えたパスがこないから、ラフボールを処理する力が伸びた
――オランダでは、ゴール前でシュートを打つという感覚がスタンダードで、ご自身の良さを解き放つことができたと。
「そうですね。それはあると思います。ヨーロッパでは、自分の考えが普通でしたね。監督も積極的にしたプレーに対してはあまり注意しないので。やっぱりサッカーなので、結果論なので、ゴールが外れたら、『なにやってんだ』となるけれど、決まれば関係ないので。そういうもんじゃないですか、サッカーって。決まりゃいいんですよ」
――大きな身体のディフェンダーと対峙し、ゴールを決めてきました。オランダで磨かれたものはどんなことでしょうか?
「そうですね。いろいろあるとは思うけれど、はっきり言えるのは、ラフなパスへの対応ですかね。日本人選手は丁寧なグラウンダーのパスを左右の足に合わせて、タイミングよく出せる技術を持った選手がいますが、オランダでは少ないですね。ポンと前線にボールを蹴りだして、あとはよろしくというようなのが多いので、ラフなボールに対しては反応する能力はついたと思います」
――最初は驚きますよね?
「驚きというか、トラップができずに、シュートまで行けなかったりすると『できないのか?』みたいな空気になって、『今の俺のミスか?』って思ったりもしました。でも、同じようなシチュエーションが続くと、受け入れるしかないので」
――ここへ出してとか、コミュニケーションをとっても、出し手に技術がなければ出せないですよね。
「受け手のことに気を配る選手は少ないので。こういうものなんだと感じたから、あまり要求もしませんでした。それよりもこのラフなパスをなんとかできるようになれば、成長できるなと考えました」
※3回目に続く