日本代表で9試合9得点と結果を残す小川航基選手。高い足元の技術に加え、スピード、パワーを持ち、186cmの長身を武器に、現在、オランダ1部リーグのNECナイメヘンで戦っている。2023年夏に横浜FCから移籍し、2シーズンを終えた現状について訊いた。1回目。

怖さも不安もなく、ワクワクがすべてだった
――2023年、前年J1昇格を牽引した横浜FCからオランダへ移籍。迷いはありましたか?
「ずっと海外でプレーしたいと思っていました。でも、オファーをもらえるだけの結果を残せていなかった。だから、初めてのオファーでしたが、即決という感じでしたね」
――現在は佐野航大選手、塩貝健人選手と日本人選手が3人になりましたが、最初は小川選手一人。心細さや怖さなどはありましたか?
「オランダ語はもちろん、英語も『Thank You』くらいしか話せない状態で、飛び込んだわけですが、最初のキャンプのことは、忘れられないですね。文字通りゼロ。何も知らない、何もないところへ飛び込む感じ……新鮮すぎてワクワクしていました。だから、怖さはなかった。ワクワクがすべてでした。通訳もいないし、『コミュニケーションがとれなかったらどうする?』『集合時間や場所がわからんかったら、どうなる?』『やっていけるのか?』という気持ちもあるんだけど、それも含めてワクワクしてました」
――どうなる俺? みたいな。
「でも、実際に飛び込んでみると、やれたんですよね。練習メニューの説明をされても聞き取れないけれど、始まってしまえば、感覚で理解できるようになるんです。練習での2タッチでリターンとか複雑な決まり事も、『コウキがわかってないから、見本を見せてやれ』という感じで、チームメイトが助けてくれたりするし、ほんとなんとかなった」

――チームメイトからイジられたりとかはありましたか?
「ありますよ。イジってはくるんだけど、その意図も意味もわからない。相手は何か言って笑っているけど、僕はなにを言っているのかわからないし。まあでも、それで空気が悪くなるわけでもなかったし。食事の時間も同じテーブルを囲んではいるけれど、周りの会話はまったく理解できない。人生でそんな経験したことないじゃないですか? でも、子どものころの新しいものを学んでいく感覚に似ているというか、ワクワクするんですよ」
――海外へ行ったら、どんどん話しかけたり、コミュニケーションをとる必要があると言われますよね。
「そういう話もあるけれど、僕はほんとに喋らなかったですけど、問題なかったです」
――それでも、孤独感を味わったのではないでしょうか?
「一人で考える時間は確かに増えたけれど、孤独とはまた違いますね。考えることで、自力というか、自分の気持ちは強くなったと思います。正直、会話ができないし、早く部屋へ戻って、ひとりになりたいと思ったりもしました。俺の話をしているんだろうなと感じても、内容もわからない。でも、別に彼らに何を言われても別にいいやとも思ったんです」
――結局ピッチのうえで、示すしかないと。
「そうですね。ゴールを決めることで、僕の特徴も理解してもらえたと感じます」
――最初は、日本人選手だからなめられているような空気はありましたか?
「ありましたね。僕はNECにとって初めての日本人選手だったから、『日本人ってどういう感じなんだ?』『どの程度の選手だ?』みたいなのは、チームメイトだけじゃなくて、サポーターもあったと思います。でも、得点を獲るにつれて、その空気も変わったし、その後、(佐野)航大や(塩貝)健人と、日本人を獲得するわけですから。今は日本人のクオリティは高いというふうになっているので」
――移動など日本以上に過酷なこともあるのでは?
「大きな違いは移動ですね。日本だと試合の前日に敵地へ入って前泊するんですが、オランダは小さな国なので、たいていバス移動で、しかも前泊はしないんです。試合当日に1時間半から2時間ぐらいかけて、バスで移動して、試合というのは、驚きました。すぐに身体が動くのかという不安がありましたが、もう慣れてしまいました」

1997年8月8日神奈川県横浜市生まれ。桐光学園からジュビロ磐田へ加入。2017年、プロデビュー。同年U-20W杯で左膝の前十字じん帯断裂および半月板損傷し、1年近くリハビリを強いられた。2019年夏水戸ホーリーホックへ期限付き移籍し、17試合出場7得点。翌年、ジュビロ磐田へ戻り、2022年横浜FCへ完全移籍。41試合出場26点を挙げ、J1昇格に貢献。2023年J1でも15試合6得点と活躍し、7月オランダ1部リーグのNECナイメヘンへ移籍する。日本代表では、9試合9得点。
ステップアップリーグだからこその上昇思考を刺激に
――オランダはヨーロッパでは小さな国ですが、サッカーの歴史は古く、クライフをはじめ、多くの名選手を生んだ国。サッカー、フットボールに関する熱量は感じますか?
「やっぱりヨーロッパだなと感じますね。とにかく、サッカーが一番人気のあるスポーツだし、街の熱量をすごく感じます。ダービー戦やカップ戦決勝(2023-2024)では、発煙筒が炊かれたり、特別な熱さがあります。リーグ戦の勝利のあとの街の様子からも、サッカーへの強い愛情とか、熱が伝わってきますよ」
――サポーターの眼は厳しいですか?
「厳しいと思いますね。バックパスが続いたり、消極的なプレーをするとすぐにブーイングが起きる。スタジアム全体が、Jリーグでのゴール裏のサポーターの空気感と同じというか。試合中にサポーターがグラウンドに物を投げ入れて、試合が中断するというのもよくあるんです。それは選手からすれば、あまりうれしくはないですけど。まあ、それだけ、熱いんですよね。最初のシーズン序盤になかなか勝てなかったんです。そのときは、『まだシーズンはこれからだろう』とも思いましたが、これがオランダ、ヨーロッパに来たということだと今は思います」
――オランダリーグはどういうリーグですか?
「オランダリーグは、ヨーロッパの5大リーグ(イングランド、イタリア、ドイツ、スペイン、フランス)のひとつ下の位置づけ、いわゆるステップアップリーグです。だから、比較的若い選手が多く、みんな上を見ている。ここからどんどんステップアップしたいという選手の集まりなので、やっぱりパスはなかなか出てこないし、練習からガツガツしている。それは日本とは違うなと感じます」
――ご自身が望んでいた環境という手応えがあるのでは?
「そうですね。その感覚はあります。こういう環境を求めていたと。知らない場所にポンと入って、やっていくという感じ、ワクワク感はたまらないものがありました」
――チームメイトの上昇思考がチカラにもなるのでは?
「刺激を得ているということはありますね。僕自身ももうすぐにでもレベルの高いリーグに行きたいと思っています。もう年齢的にも時間がないから」
※2回目に続く