PERSON

2025.06.20

53歳・石田ひかり「実は私、とっても怒りっぽいんですよ」

14歳でデビューして39年。今なお、明るくまっすぐで清らかなオーラに満ちている石田ひかり。そんな彼女が2025年6月20日から公開中の映画『ルノワール』で演じるのは、“いつも不機嫌な母親”だ。パブリックイメージを覆すような役に挑む想いに迫る。インタビュー記事1回目。#2#3 ※順次公開

微笑む石田ひかり

「普段から喜怒哀楽がすごく表われてしまう」

2025年6月20日から全国で公開されている映画『ルノワール』に出演する石田ひかり。メガホンをとるのは、『PLAN 75』で第75回カンヌ国際映画祭カメラドール特別賞を受賞するなど海外からも高い評価を受けている早川千絵監督。共演者にはオーディションで主人公・フキ役を射止めた鈴木唯をはじめ、リリー・フランキー、中島歩、河合優実、坂東龍汰ら実力俳優が名を連ねる話題作だ。

“哀しい”を知り、少女は大人になる。ポスタービジュアルのキャッチそのままに、感受性豊かな11歳の少女フキが、それぞれ事情を抱えた大人たちと触れ合いながら、大人へと近づいていくひと夏を精緻(せいち)に描いた本作。観る者に、自らの子供時代を想起させる。

そんな味わい深い作品で石田が演じるのは、闘病中の夫を支えるなか、娘のことで学校から呼び出され、勤務先ではプレッシャーにさらされているフキの母、詩子。

家庭と仕事に追われ、ギリギリの精神状態でなんとか踏み留まっているという難役を早川監督が石田にオファーしたのは、「常に不機嫌な役なので、怒った顔が魅力的な人にお願いしたかったから」。とくに、眉間にシワを寄せた時の石田の表情に惹かれたのだとか。

近年、やさしく穏やかな母親役が多い石田のイメージとはかけ離れている気もするが、本人はどこで「監督に見られていたのかな⁉ と驚きました。実は私、とっても怒りっぽいんですよ」と、茶目っ気たっぷりに笑う。

「怒りだけでなく、はしゃぎすぎることもあったりして、普段から喜怒哀楽がすごく表われてしまうんですよね。監督からは『気持ちは熱く、演技は抑えて』と、ずっと言われ続けていました」

苛立ち、不満、憤り、寂しさ、不安。それらの感情を胸の奥へと押し込み、毎日をなんとかやり過ごしてきた詩子だが、夫のとある行動をきっかけに想いを爆発させる。これを引き金に、物語はいっきにクライマックスへと加速していく。

「それまで詩子が表情に出さなかったからこそ、あのシーンがものすごく生きてくる。完成した作品を観て、早川監督のすばらしさを改めて実感しました。詩子に限らず、どの登場人物も、気持ちの変化に矛盾がひとつもなくて、とても心地良かったですね」

石田ひかり
石田ひかり/Hikari Ishida
1972年東京都生まれ。1986年にデビューし、ドラマ、映画、舞台など幅広く活躍し。受賞歴多数。直近の主な作品として、連続ドラマ『続・続・最後から二番目の恋』『ミッドナイト屋台 〜ラ・ボンノォ〜』。公開中の『リライト』『ルノワール』のほか出演作を多数控える。

「ノストラダムスの大予言は大人になるまで信じていた」

『ルノワール』の舞台は1980年代のとある郊外。1972年生まれの石田がフキと同年代だった頃だ。作中にはフキが超能力や催眠術に夢中になるシーンがあるが、石田も懐かしさを覚えたという。

「ノストラダムスの大予言は大人になるまで信じていましたし、親がいつか死ぬと考えただけでも眠れないくらい怖かった。

私は、水泳やローラースケートとか、ずっと体を動かしているような子で、フキちゃんみたいに繊細にものごとを考えることはあまりなかったけれど、それでも、当時のことをすごく思い出しました。…子供じゃなかった大人はいないんですよね。

子供ならではの無邪気さがある一方で、大人の世界に興味を抱いたり、友達に対してちょっと意地悪な気持ちになったり、よその家を覗き見したくなったり。

できれば思い出したくないような、あの年代ならではの感情が、『ルノワール』には生々しく描かれています。監督が、フキをとおして描いた世界は、誰もが子供の頃に体験したことがあるのではないでしょうか」

そう言った後、「私、(フキ役の鈴木)唯ちゃんがヘッドホンをつけて、ひたすら自転車を漕ぐシーンが大好きなんです。無心であることが伝わってきて。電車の中で(濱野役の)坂東くんの横顔をじっと見る表情も素晴らしかった!」と、微笑みを浮かべる石田。

「大人になってしまった私には、あんな芝居はできないと思うと唯ちゃんがうらやましくさえあります。唯ちゃんをはじめ、共演者の方々、監督、そして、スタッフのみなさんと、たくさんの方の力で素晴らしい作品に仕上がったと思います」

この言葉からも、石田が根っから“演じるという仕事”が好きなことがうかがえる。ところが、デビュー当時は、「辛くて、辛くて、ずっと辞めたいと思っていました」と明かす。

次回は、デビュー当時の葛藤、そして子育てのために仕事をセーブしていた時の想いについて話を聞く。

『ルノワール』

映画『PLAN 75』で高い評価を受けた早川千絵監督が、「子供はいつ大人になるのか」をテーマに、11歳の少女フキの感情、そして周囲の大人たちの生きづらさと哀感を細やかに描く。日本、フランス、シンガポール、フィリピン、インドネシア、カタールの国際共同製作作品。カンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出された話題作。

出演:鈴木 唯、石田ひかり、中島 歩、河合優実、坂東龍汰/リリー・フランキー
監督・脚本:早川千絵
配給:ハピネットファントム・スタジオ
2025年6月20日(金)より全国公開
https://happinet-phantom.com/renoir/

<衣装クレジット>ジャケット¥39,600、Tシャツ¥26,400(ともにアダワス)、デニム¥28,600(サージ/すべてショールーム セッションTEL:03-5464-9975) ピアス¥110,000、ネックレス¥297,000、バングル¥297,000、リング¥462,000(すべてトーカティブ/トーカティブ 表参道 TEL:03-641-0559)

TEXT=村上早苗

PHOTOGRAPH=彦坂栄治

STYLING=藤井享子

HAIR&MAKE-UP=山谷友里恵

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