PERSON

2025.05.22

ジュニアサッカー世代での体格差。大きい子と小さい子、どう起用するといいの?良いパパコーチになるために【育成カリスマの解答②】

現在、FC町田ゼルビアでアカデミーダイレクターを務めている菅澤大我氏。チームが掲げる“巧い・賢い・タフな選手”を育てるためのトレーニングについて解説してもらおう。#第2回。連載記事はコチラ

菅澤大我

フィジカル重視の起用は子供の将来をつぶしかねない

――FC町田ゼルビアのアカデミーは、「巧い・賢い・タフ」を育成のコンセプトに掲げています。これらを身に着ける順番はありますか?

菅澤 アカデミーの保護者説明会では、ホワイトボードにこの3つの要素をそれぞれ円で描き説明します。ジュニア(小学生)年代は”巧さ”が最も大きな円で、ジュニアユース(中学生)年代は”賢さ”が大きくなり、ユース(高校生)年代は、3つすべてが大きな円になるというイメージです。年代ごとの頭と身体の成長を考えると、それが一番理に適っているからです。

では、“巧さ”とは何か。人によって考え方は違うと思いますが、僕が重視しているのは「前後左右に自在にボールを運べること」です。かといって、その技術を磨くための小学生向けの特別なトレーニングがあるというわけではなく、子供も大人も、巧くなるための練習は基本的に変わりません。もちろん、選手の理解度や技術レベルに合わせ、シンプルな練習と複雑な練習をどう組み合わせるか、どの程度の精度を求めるかは変える必要があると思います。

――賢さを身に着けるのはジュニアユースからで良いのでしょうか?

菅澤 重点的に磨くのはジュニアユース年代が適していますが、ジュニア年代でも練習を通じて、”賢さ”も身につくような内容にしています。ただ、僕の練習は、子供が楽しみながら取り組めることが大前提なので、動き方や戦術を言葉で長々と説明することは、ほぼありません。例えば、3対1とか4対1といった複数人でのボール回しで、「ボールをどうコントロールし、どこに出せば相手にとられないか」と考えさせるなど、練習を通して自然と賢さが身につくようにしています。

他によくやるのは、プレー集を見せること。海外チームを含め、子供たちに学ばせたいと思うような動き方やプレーのダイジェスト版を編集し、遠征の移動中に見せたりしています。「このプレー集からしっかり学べよ」なんてことは言わず、「このプレー、ヤバイだろ⁉」とか「いや、これは痺れるよな」と、ワイワイ楽しみながら、です。

子供たちは、初めはボールとその付近の選手しか見てないのに、だんだんと視野が広くなり、周りの選手がこう動いて、こんなプレーをしたから、この展開になったんだと、理解できるようになる。そうやってだんだんと賢くなっていくんですよね。それに、指導者が目指すサッカーのイメージを子供たちが共有できるようになる。これも、プレー集を見せる大きなメリットですね。もっとも、プレー集を観て一番はしゃいでいるのは僕かもしれませんが(笑)。

菅澤大我/Taiga Sugasawa
1974年東京都生まれ。1996年、選手として所属した読売クラブ(現・東京V)育成部門コーチとなり、元日本代表の森本貴幸氏や小林祐希氏ら数々の逸材を発掘。その後、名古屋グランパスや京都サンガF.C.。ジェフユナイテッド市原・千葉ではTOPチームとアカデミーを指導。ロアッソ熊本などで育成年代のコーチや監督を歴任し、2021年からFC町田ゼルビアのアカデミーダイレクターを務めている。

――タフさを重点的に磨くのは、身体ができてくるユース年代とのこと。タフさとは少し違うかもしれませんが、ジュニア年代は、身体が大きい子を重用するチームが少なくない気がします。

菅澤 シュートの力や足の速さ、当たりの強さなど、ジュニア年代でも身体の大きさがモノをいう場面は多々あるので、フィジカルのある子の方が活躍しやすいのは事実。そういう子が上の年代に呼ばれる“飛び級”は、J下部でも珍しくありませんしね。ただ、ジュニア年代にフィジカルを武器にしてきた子は、年代が上がるにつれて厳しくなり苦労する。そういうケースを、僕はいくつも見てきました。

上の年代にいけば当然サッカーのレベルは上がります。それについていけるだけの”巧さ”があれば別ですが、身体能力だけを評価して飛び級させるのは疑問。同年代の中でできていないことが、上の年代でできるはずがありません。その弱点を克服する機会も失われかねません。そんなに急がず、しっかり育てた方が、ずっといいと思います。

――逆に、身体が小さい子は試合に出してもらえないなど、不利なケースも見受けられます。となると、経験値も下がってしまい、ますます身体の大きい子とのレベルの差が広がってしまうのではないでしょうか。

菅澤 指導者の考え方の違いかもしれませんが、それは、もったいないですよね。僕自身は、身体的な成長が遅い晩熟系の子の将来性を買っていて、そういう子たちも、積極的に起用してきました。身体が小さい子たちは、壁にぶち当たりながら、大人になる。壁を超えるために技術を磨き、そうすることによってプレーの引き出しが増え、将来楽しみな選手になる可能性が高いんですよ。

それに、身体の小ささがマイナスになるのは、指導者の起用法のせいだと思います。8人制が主体のジュニアの場合、フォーメーションは「3・3・1(ディフェンス3人、中盤3人、センターフォワード/トップ1人)」がスタンダードになっていますが、相手のセンターバックが長身なのに、身体が小さくて足が遅い子をセンターフォワードに置いてしまったら、うまくいかなくて当然です。でも、(少し下がり気味の)ゼロトップにし、センターバックとの1対1を避ければ、その子の良さが出るかもしれない。

個々の選手が、どの位置ならストレスなくプレーできるか、将来どんな選手にしたいか。ジュニア年代の指導者には、ぜひそういう視点で起用を考えていただきたいですね。

※第3回に続く

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TEXT=村上早苗

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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