FC町田ゼルビアは、2024年、フランスの名門チーム、オリンピック・リヨンと提携し、タイ・バンコクで子供向けのサッカークリニックを開催するなど、「町田を世界へ」に本格的に乗り出した。FC町田ゼルビア歴17年、Jリーグ所属クラブ内でも数少ない国際部を、ひとりで切り盛りするキーマンの奮闘に迫る。「FC町田ゼルビアの飛躍を支える、裏方仕事術」第5回、FC町田ゼルビア 国際部長・田口智基氏。

FC町田ゼルビアを世界中で知られるクラブに
「町田を世界へ」をスローガンに掲げるFC町田ゼルビアが、2024年末、国際部を新設し、本格的なグローバル展開に着手した。その責任者を任されたのが、2009年入社の田口智基氏である。2018年にサイバーエージェントが経営参画する前からのゼルビアを知る田口氏に、クラブの変化、そして、今後のグローバル展開について語ってもらう。
――田口さんが入社したのは、FC町田ゼルビアの運営法人がNPO法人から株式会社に変わった翌年だそうですね。入社当時と今とでは何か変化はありますか?
田口 現在当社の社員は30名ほどいますが、当時の社員数は全部で6人。僕の肩書きは営業担当でしたが、実際は、できることは何でもやっていました。オフィスもコンパクトで、誰が何を話しているか、すべて聞こえてしまうくらいで(笑)。選手にしても、プロは数名で、多くの選手が他に仕事を持ちながらサッカーをしているといった状況でした。練習場所も、土のグラウンドだったんですよ。それを思うと、隔世の感があります。
とくに大きかったのは、サイバーエージェントのグループ傘下に入ったこと。それまでは、「夢はあるけれどお金はない」といった感じでしたが、資金を得られたことで、クラブ専用の練習場が整備され、J1クラブライセンスが交付されるなど、長年切望しながらも叶えられなかったことが、一気に動き始めました。2022年には、黒田(剛)監督が就任し、2023年にはJ2で優勝してJ1に昇格、2024年は優勝争いを演じるまでになったおかげで、地元での認知度が高まり、協賛してくださる企業もかなり増えましたしね。ポスターやチラシの設置をお願いしに、町田駅周辺の飲食店を一軒一軒たずねていた身としては、感慨深いです。
また、資金面だけでなく、サイバーエージェントならではの社風というか仕事の進め方にも、大いに刺激を受けました。ゼルビアがもともと持っていたチャレンジングな姿勢に、サイバーエージェントのスピード感がプラスされ、新しい試みが次々と形になりつつあります。おかげで、毎日やりがいを感じながら、日々、充実した時間を過ごせています。楽し過ぎて、仕事をしているという感覚がないくらいです(笑)。

1983年京都府生まれ。大学卒業後、一般企業を経て、2009年、FC町田ゼルビアに入社。営業や試合運営、マーケティングなど、経理以外のほぼすべてのビジネス業務を経験する。2024年12月、新設された国際部の部長に就任。2021年から展開する「天空の城 野津田」プロジェクト発足当時のプロジェクトリーダーも務めた。
海外のサッカーファンに知られるクラブに
――現在は、「町田を世界へ」を実現するために、グローバル事業に携わっていらっしゃいますね。2024年11月、タイのバンコクで開催された子供を対象にしたサッカークリニックも、田口さんが中心となって実現したと伺いました。
田口 サッカーは世界中で親しまれている競技なので、海外マーケットは、数年前から意識していました。日本は、少子高齢化が進んでいて、経済成長率も伸び悩んでいますから、企業としては、「外貨を稼ぐ」ことを重視せざるを得ません。ヨーロッパのビッグクラブも、アジアに進出していますが、距離や時差を考えると、日本にはアドバンテージがあります。
ですので、早めにアジア進出を仕掛けることで、ビジネスチャンスが広がると考えています。また、アジア全体のサッカーレベルが上がれば、日本のサッカーレベルも当然上がるだろうと思います。それも、FC町田ゼルビアが、海外に進出する目的のひとつです。
バンコクでは、1日1回のサッカークリニックを2日間開催し、約100名の子供たちの参加があり、大きな手ごたえを感じました。2025年も7月に同様のイベントを予定していて、現地の協賛企業や支援団体を獲得すべく、営業活動に励んでいる真っ最中です。言葉も文化も違う国での活動は戸惑うこともありますが、入社したばかりの頃に町田でやっていたことを思い出し、楽しさも感じています。
――2024年は、アカデミー(ジュニア、ジュニアユース、ユースチーム)がフランスのオリンピック・リヨンとパートナーシップを提携されましたが、どういった経緯で実現したのでしょうか。
田口 ありがたいことに、先方からお話をいただきました。オリンピック・リヨンは、世界的に見ても育成に定評があるクラブなのですが、アジアでの提携先をリサーチする中で、当クラブにシンパシーを感じていただけたようです。町田が、サッカーの育成に力を入れている地域であり、FC町田ゼルビアが少年サッカークラブを起源にもつクラブということなども、大きかったのではないかと思います。
パートナーシップを結ぶにあたっては、アカデミーダイレクターの菅澤(大我)の意向も確認し、お互いの希望や目的にずれがないよう意識し、調整いたしました。2024年夏はユース、12月にはジュニアとジュニアユースの選手数名が、現地でオリンピック・リヨンのアカデミーの練習に参加させていただくなど、本格的な交流が始まっています。

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――田口さんは17年に渡り、JFLからJ3、J2、そしてJ1と、FC町田ゼルビアの飛躍を見守っていらっしゃいました。現在の目標は?
田口 Jリーグのクラブの中でも、グローバル事業を専門で手掛ける部署を持っているのは、おそらく当クラブだけではないでしょうか。それだけ、グローバル事業は難しいということだと認識していますが、幸いにも、2025年、トップチームはACL(AFCチャンピオンズリーグ)の出場権を獲得しています。世界から注目される絶好の機会ですから、このチャンスをグローバル事業にも、積極的に活用したいと考えています。
海外のサッカーファンに「Jリーグで知っているチームは?」と聞いた時に、FC町田ゼルビアの名前が一番先に出ること、そして、日本のサッカーが世界の中でもトップクラスになることを目指し、これからも尽力していきます。