PERSON

2025.04.11

平均年齢33歳、COO上田武蔵30歳。J1町田台頭の影に、若いフロント陣あり「大胆に挑戦できる社風」

1989年、街クラブとして発足した(発足時の名称は「FC町田」)という町田ゼルビア。2012年のJリーグ参加から12年目となる2024シーズンにJ1入りを果たし、最後まで優勝争いにからんだ。チーム躍進の理由はどこにあるのか。チームを支える裏方の活動と想いから紐解く。「FC町田ゼルビアの飛躍を支える、裏方仕事術」第1回、代表取締役COO上田武蔵氏・前編。

個々に数字の目標を持たせ、責任領域を明確に!

サッカーが盛んだった東京都町田市で設立された小学生の選抜チーム、FC町田のトップチームとして誕生した町田ゼルビア。いわゆる街クラブが前身という、Jリーグ所属チームのなかでも稀有な存在だ。その町田ゼルビアが大きく飛躍するきっかけとなったのが、2018年、サイバーエージェントの経営参画だ。

そのサイバーエージェント出身で、2022年12月末にゼルビアのCOOに就任したのが、上田武蔵氏だ。夢は、「日本をワールドカップで優勝させること」と言い切る、サッカー愛にあふれた経営者の挑戦とは?

――サイバーエージェントに入社したきっかけは、スポーツ×ITの可能性を感じたからだそうですね。

上田 はい。サイバーエージェントに入社したのは、日本のサッカー業界を盛り上げるビジネスに就きたいという想いと、IT×スポーツというジャンルに惹かれたのが理由です。FC町田ゼルビアがサイバーエージェントグループ入りしたのは、僕が2年目のタイミングだったのですが、最初の3年間は、ABEMAやアメーバブログなどのメディアサービスをまとめているメディア事業本部という部署で、主に営業に従事し、4年目でゼルビアに出向になりました。

入社2年目に、(サイバーエージェント代表の)藤田(晋氏)に将来のビジョンをプレゼンする機会があったのですが、そこでサッカービジネスに携わりたいと話したことから、抜擢してもらったのだと思います。

こんなに早く夢が叶うとは思っていなかったので、驚きましたが、それ以上に、自分が一番好きなフィールドでチャレンジができることへの楽しみや、ワクワク感が強かったですね。もっとも、COO就任を前提としての出向ではなかったので、このポジションは自分自身で勝ち取らないといけないと思っていました。

上田武蔵/Musashi Ueda
1994年東京都生まれ。2017年、京都大学工学部卒業後、サイバーエージェントに入社。メディア事業本部に配属され、入社3年目には新規事業の営業責任者に就任。2020年、ゼルビアに出向し、社長室長、経営管理部長などを経て、2022年12月より現職。幼少期にサッカーを始め、大学では体育会サッカー部に所属。

立場や年齢の分け隔てなく、信頼関係を築くためには

――最初の1年半は社長室所属で、その後経営管理部長を経て、2022年12月に28歳でCOOに就任されています。異業種である親会社からの出向、さらに年齢が若いということで難しさや苦労することもあったのでは?

上田 おっしゃる通り、スポーツビジネスの経験はゼロだったので、Jリーグの現状を学ぶところからのスタ-トでした。もちろんサイバーエージェントとの違いは感じましたが、戸惑いというより楽しみの方が勝っていましたね。基本スタンスは、サイバーエージェントのやり方を押し付けるのではなく、ゼルビアの良さをしっかり活かし、改善すべきところは改善する。サイバーエージェントにも共通しているのですが、一番のゼルビアらしさはチャレンジングな点だと思っています。

社員の平均年齢は33歳と、J1の他チームよりずっと若いんですよ。それもあってか、僕が出向した当時から勢いがあって、新しいことに積極的にチャレンジする風潮が根づいていました。キャリアが長くなり、経験を積むということは強みになる反面、リスクを想定して動きづらくなる可能性も否めません。できない理由がポンポンと浮かんでしまうというか。その点、若くて勢いがあると、何事も恐れず、大胆に挑戦できる。社全体に、そんな空気が流れている気がします。

ただ、集客数や売上などチームや会社全体としての目標はあったものの、それを個人の年間目標に落とし込むことまではしていなかった。そこで、僕が最初にテコ入れをしたのが個々に数字の目標を持たせ、責任領域を明確にするということ。ファンクラブ担当なら会員数、広報担当ならSNSのフォロワー数など、細部にこだわると目的意識が高まり、ラストワンマイルへのこだわりというか熱量が断然違ってきます。

目標がクリアできると、個人の達成感や成長実感も上がり、いいサイクルで回るようになります。今ではこの施策を導入してよかったというのが、会社全体としての認識になっていると思います。まぁ、導入当初は「めんどくさい」と思っていた社員もいたかもしれませんが(笑)。

年齢については、サイバーエージェント時代も年上の人がメンバーになることはあったので違和感はなかったですね。ポジションは関係なく、経験や知識が豊富ならば信頼してお任せしますし、そのことを明確に伝えます。それができていれば年齢は関係ないというのが、僕の実感です。

また、年齢問わず、“ダメ出しから入らない”ことを心掛けています。上司など、フィードバックする立場になると、どうしても、できないところが目についてしまう。でも、僕自身ほめられれば嬉しいし、「この人は自分をちゃんと評価してくれている」と感じられれば、信頼関係が築けると思います。なので、スタッフに意見したり指導したりする際も、ポジティブなところから始めるというのは、意識していますね。

そもそもゼルビアは、明るくて社交的な人が多いんですよ。後輩が仲の良い先輩をイジることもあって、年齢関係なく、和気あいあいとした雰囲気があるんです。

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国立開催の成功により、成長スピードが上がった

――上田さんが出向されて以降、ホームである町田GIONスタジアムを「天空の城 野津田」と銘打ったり、2023年にJ2所属ながら国立競技場での試合開催を実現したりと、ゼルビアは新しいことに果敢にチャレンジしています。

上田 「天空の城 野津田」プロジェクトに関しては、この連載で、改めて担当者から説明があると思いますので、国立競技場での試合開催についてのみお話させていただきます。

あの取り組みは、チームとしても、ゼルビアという組織としても、とても大きかったですね。初開催の時はJ2所属でしたが、動員数が3万8000人。当日、あの光景を目にして、鳥肌が立ちました。町田GIONスタジアムの収容人数はMAXで1万5000人程度なので、国立競技場という場所で、その倍以上のお客様に観ていただけたことは、選手はもちろん、社員にとっても、大きな自信になりました。実際、サイバーエージェント社内にも、国立競技場での観戦を機に、ゼルビアのファンになってくれる人が増えたんですよ。

僕らにとって、“集客”は事業の柱。J2の場合、観客数1万人でも「けっこう入ったね」という感覚なんですが、その4倍近い数を集められたことで、社員たちは大きな手応えを感じましたし、これによって個々の成長スピードが上がったと実感しています。

今シーズンもですが、来シーズン以降も国立競技場での開催は積極的に行いたいと考えています。ホームで応援するほど熱狂的なファンではないけれど、国立競技場なら行ってみたいというライトなサッカーファンもいると思うんですよ。そうした人たちに、試合を観戦する機会を提供すると同時に、感動的で熱狂的な体験をしてもらうことは、Jリーグだけでなく、日本サッカーがもっと盛り上がるために必要なことだと思います。

「スタジアムで、生で試合を観戦すれば、もっとサッカーが好きになってもらえると思う」と、サッカー小僧の目になり、熱く語る上田氏。後編では、ゼルビアサポーター、そして、日本のサッカーファンを増やすための取り組みついて、話を聞く。

後編に続く

TEXT=村上早苗

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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