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2025.04.13

J1町田人気の裏側。スタジアムを「城」に見立てた、エンタメ戦略で観客を呼び込むフロント術

2024シーズン、初のJ1入りを果たし、最後まで優勝争いにからんだFC町田ゼルビア。チームの強さに比例するように観客動員数や売り上げも上昇しているが、その裏には、他チームにはない独自の戦略がある。そのキーマンである広報部長に話を聞く。「FC町田ゼルビアの飛躍を支える、裏方仕事術」第3回、広報部長 岡田敏郎氏。

FC町田ゼルビア・広報部長、岡田敏郎。

ホームとなる町田GIONスタジアムを城に見立ててさまざまな仕掛けをし、ホームゲームに合わせて「キッズデー」や「ゼルビア イースター」などのイベントを開催。SNSでは試合以外のネタも積極的に発信しているFC町田ゼルビア。これらを統括しているのが、2020年に入社した岡田敏郎氏だ。アイデアの種はどこから生まれ、どうカタチにしているのか。

アクセスの悪さを逆手にとったワクワク発想術

ーーFC町田ゼルビアは、観客を呼び込むためのさまざまな試みをされています。とくに知られているのが、2021年から“築城”を開始した「天空の城 野津田」ですが、これは、スタジアムが最寄り駅から遠く、アクセスが悪いことを揶揄されていたのを逆手にとった発想だそうですね。

岡田 はい。スタジアムのブランディングをしているのは、おそらくJリーグで当クラブだけだと思います。2021年当時はコロナ禍真っただ中で、さまざまなエンタメイベントが中止を余儀なくされていました。そんななか、私たちがサッカーというスポーツ以外に、エンタメとして皆さんに何か提供できないかと考え、社内スタッフを4~5名ずつのグループに分け、いろいろなアイデアを出し合いました。そこで、私が所属したグループから出てきたのが、スタジアムのブランディング化(テーマパーク)でした。

スタジアムへの入場時間を「開城時間」と表記し、グッズ売り場を「武器・防具屋」と称してグッズを着用(使用)することを「装備」と呼ぶなど、徹底的に“城”にこだわっています。ファン・サポーターを“雲”に見立て、雲が大きくなればなるほど、より高い位置に上っていくのだと考えています。ご来城者がいらっしゃる導線上には城門をつくり、スモークを炊くなどの演出もしているんですが、こんなことをしているのは、FC町田ゼルビアぐらいです(笑)。

2024年シーズンまでは、私とインターンの学生1名、グッズやチケット販売など、社内の様々な部署から立候補してくれたスタッフたち計6名で、週に1度、「天空の議会」と銘打ったミーティングを開き、さまざまなアイデアを持ち寄っていました。「天空=109」のゴロ合わせで、2022年10月9日に開催されたホームゲームを、「天空の記念日」に制定し、109個のイベントを実施したこともあります。それまで、Jリーグクラブで1試合での最多イベント数は、川崎フロンターレさんの50弱だったようなので、無謀にも、その倍(笑)。ボツになった案を含めると120以上のアイデアが出ましたが、今振り返っても、よくぞやったと感慨深いですね。

おかげさまで、FC町田ゼルビアのファン・サポーターだけでなく、他クラブのファンの方々からも、「町田はユニークなことをやっていて、おもしろい」と評価いただいているようです。

岡田敏郎/Toshiro Okada
1984年東京都生まれ。小学5年生からサッカーを始め、帝京大学でも体育局サッカー部に所属。卒業後、ザスパ草津(現・ザスパクサツ群馬)に加入し、試合運営や広報など多岐の業務に携わり、その後、FC東京、一般企業勤務を経て、2020年、FC町田ゼルビアに入社。試合運営と広報の2部署の責任者を務め、2025年より現職。

新規ファンと既存ファン、目的によってSNSを使い分ける

ーーSNS戦略にも力をいれていらっしゃいます。YouTubeの登録者はここ2年で2倍以上になり、インスタやXのフォロワーの伸び率もJリーグでトップクラスと、好調ですね。

岡田 クラブを知っていただくという意味では、今の時代、SNSはなくてはならない存在です。ファンやサポーターに正しい情報、そして、当クラブが伝えたいことを正確に伝えるのが大前提ですが、大きく分けると、新規のファンやサポーター、フォロワーを増やすことを目的にした内容と、既存のファン、サポーターが選手と一丸となって戦っているという気持ちになれるような、いわば熱量を高めるのが目的という、二軸で発信しています。どちらが目的かによって、言葉使いや表現方法も、微妙に変えています。

一例をあげると、新規獲得が目的の場合は、YouTubeのテロップに選手の名前を必ず入れるなど、わかりやすさを重視しています。一方、既存のファンがターゲットの場合は、“共闘”のような短くても共感していただける言葉を用い、映像中心にするといった具合です。基本的なことかもしれませんが、それをしっかりやり抜くかどうかが、大きな差になると思っています。基本的なことを当たり前にやり続けることが簡単なようで難しく、そこをメンバーとも意識して取り組んでいます。

幸いなことに、すばらしいメンバーに恵まれ、新しいアイデアがどんどん出ますし、それぞれが積極的にチャレンジしてくれています。とくに若いメンバーからは、私が思いもつかないような発想が出てくるので、驚かされます。なので、私は余計なことは言わず、みんなに自由にやってもらえるよう努めている感じです(笑)。「広報のひとりごと」として、SNS担当者が、別のクラブに移籍する選手の人間性を綴った投稿があったのですが、当クラブだけでなく、移籍先クラブのサポーターからも反響が大きかったんですよ。

もちろん、身内だけでの自己満足にならないよう、外部の企業に協力してもらい、SNSがフォロワーにどう受け止められ、数字としてどう表れているかなどを分析し、フィードバックすることも行っています。

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「主語はクラブ」を意識して、ファンやサポーターを増やす

――リーダーとして、岡田さんが最も大切にしていることは何ですか?

岡田 賛否両論あるとは思いますが、信頼関係が構築できている相手には、割と厳しいこともズバッと言っています。間違いだけ指摘しても、成長につながらないと思うので、なぜこんなことを言うのか、ことこまかに理由も伝えています。「岡田さんは話が長過ぎる」と、指摘もされますが(笑)。

また、どのスタッフに対しても、「主語はクラブだ」ということは、常に伝えています。アイデアを出す際も、「自分がやりたい」ではなく「クラブにとってベストか」を常に意識してほしいと。

――最後に今後の抱負について、お聞かせください。

岡田 我々が果たすべきは、ファンやサポーターを増やすことです。それには、サッカー以外のタッチポイントをつくることが必要不可欠。AbemaTVは、ゴルフ、釣りなど、幅広いコンテンツを展開しているので、ゴルフや釣り好きの選手と何かコラボができたらおもしろいと思いますし、サポーターの層としては薄い、20代後半から30代のシングル男性に訴えかけるようなコンテンツも考えています。そして、もちろん既存のファン・サポーターやこれまで長く応援していただいている方々にも、クラブをより好きに・誇れるクラブになるために、常に寄り添っていきたいと思っております。

私自身は、町田GIONスタジアムを、サッカー観戦に来る場所としてだけでなく、いろいろな楽しみ方ができる空間になっていると自負していますし、それをさらに発展させていければと思っていま。当クラブのファンやサポーターでない方々にも、ぜひ足を運んでいただきたい。そして、いっしょにJリーグ、日本のサッカー界を盛り上げていただけたら、嬉しいですね。

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TEXT=村上早苗

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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