ドイツ1部のアイントラハト・フランクフルトU-21(21歳以下のチーム)と日本代表のコーチを兼務し、選手たちを指導している長谷部誠。国やレベルの異なるふたつのチームで指導することの難しさや意義について語った。

森保一監督の強い要望で、日本代表コーチに就任
2018年ワールドカップ・ロシア大会以来、約6年ぶりに日の丸のジャージに袖を通したが、違和感はなかった。
長谷部誠はワールドカップのアジア最終予選で中国、バーレーンと対戦した2024年9月から日本代表コーチを務める。
ドイツ4部相当のリーグに在籍するアイントラハト・フランクフルトU-21(21歳以下のチーム)のアシスタントコーチとの兼務。契約期間は2026年ワールドカップ北中米大会までの予定で、国際試合の期間は常に日本代表に同行する。
「まだ代表に行かせていただいて数ヵ月なので、自分のなかで日本代表コーチという肩書を名乗るのが失礼なぐらいの働きしかしていない。レベルの高い選手を見られるのはもちろん、監督やコーチングスタッフ、テクニカルスタッフ、経験のある方々と普段から時間をともにして色々なコミュニケーションを取れるのは自分にとって大きいですね」
合流初日の練習では、長年苦楽をともにした長友佑都から「選手のハセ(長谷部)さんよりコーチの方がカッコいい。オーラが増している」とイジられながらも「ハセさんと一緒に後輩たちに経験を伝えていきたい」と歓迎された。
練習中はパス回しなど選手に交って汗を流すシーンも多い。コーチとしての入閣を強く要望したのは、他ならぬ森保一監督だった。
「彼の欧州での経験は、これから我々が前進していくための刺激にもなるし、より必要になる。世界と日本の価値観をミックスして、最大限に力を発揮できるようにやっていくなかで、彼の経験が大きく貢献してくれる」
メンバーの大半を占める欧州組のケア、現場と首脳陣の架け橋など多岐にわたる役割を期待している。
先人たちへのリスペクトを胸に
日本協会側から熱烈オファーを受けた形だが、指導者1年目の長谷部にとって、フランクフルトU-21と日本代表のふたつのチームを見られる意味は大きい。
「フランクフルトでは、20歳ぐらいのドイツ4部に相当するチームを見ている。そういう選手たちと、レベルの高い日本代表の選手たちへのアプローチは違う。代表で1言えば皆理解することを、フランクフルトでは3、4言わないと理解できなかったりする。指導者1年目にそういうレベルの違うチームに並行して携われるのは、本当にありがたい環境だと思います」
日本代表はワールドカップのアジア最終予選を5勝1分けの無敗で首位を走り、2025年3月20日のバーレーン戦に勝てば3試合を残して8大会連続の本大会出場が決まる。
欧州クラブで主力を張る選手が多く選ばれているチームは歴代最強と称されるが、長谷部は過去の日本代表と比較されることへの違和感を口にする。
「基本的に歴代最強というのは僕はあまり好きではない。日本サッカーをこれまでつくり上げて下さった先輩たちがいなかったら自分たちは海外でプレーするとか、海外で指導するとか、そういうチャレンジができていないと思う。それが常に頭にある。リスペクトの気持ちがあるので、そういうこと(歴代最強)は僕は思わない」
日本サッカーの歴史をつくった先人に配慮した発言は、いかにも長谷部らしい。このバランス感覚こそが長きにわたり日本代表の主将を務めた所以でもある。
そのうえでこう続けた。
「本当に高いレベルの選手たちと一緒にやれるのは、自分にとって凄くいい刺激になります」
フランクルトU-21と日本代表。戦術も、選手の質も、サッカー文化も異なるふたつの仕事場で試行錯誤を続けながら、理想の監督像を練りあげていく。
長谷部誠/Makoto Hasebe
1984年静岡県生まれ。藤枝東高校卒業後、浦和レッズに入団しプロデビュー。2008年にドイツ1部リーグのヴォルフスブルクに移籍。その後2013年にニュルンベルク、2014年からアイントラハト・フランクフルトでプレー。2024年に現役を引退した。著書『心を整える。』は150万部以上のベストセラー。