PERSON

2024.11.18

部下や同僚へのイラ立ちを抑える方法を「芸人のリアクション芸」から学ぶ

放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2023年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。

後輩にお尻を蹴られた経験はありますか? 僕はあります。しかも2度。

吉本NSCからの帰り道。ケツに衝撃がはしり、恐る恐る振り返ると、へらへらと笑う生徒が立っていて、こう言われました。「どう? 面白いでしょ?」

面白いわけがなく恐怖。顔も青ざめたので面青いです。

芸人といえども「面白さの基準」はまちまち。過去1万人の教え子の中には、「講師のケツを蹴る=面白い」という、ぶっ飛んだセンスの生徒もいたので、しばしば驚きと恐怖、そしてイラ立ちを味わってきました。

みなさんも同僚にイライラしていませんか? いつも顔を合わせるメンツだからこそ、職場はイラ立ち祭りですよね。

そこで今週は、荒くれ者たちと共生してきた僕が実践している「部下や同僚へのイラ立ちを抑える方法」をシェアしていきます。

笑いもイラ立ちも「リアクション芸」です

芸人さんのスキルの一つに「リアクション芸」というものがあります。これは、あえて「大きな反応」をとることによって、笑いを増幅させるテクニックですが、僕は「イラ立ち」も同じリアクション芸だと考えています。 

最近話題のカスタマーハラスメントを例にしてみましょう。

接客態度がいまいちなコンビニ店員がいたとします。もしも問題のある人物なら、何百人と訪れる客はみんな怒りのリアクションをとる……と思うでしょう。

しかし実世界では、怒る人と怒らない人がいます。これは、「問題の人物かどうか?」の反応は人それぞれ違うから。

どんなに失礼な相手であろうと、気にしない、振り回されない人もいれば、「私が正さなければ!」というリアクション芸に出てしまい、カスハラ事案になる人もいる。

どちらがより平穏な暮らしかどうかは、言うまでもないですよね。

では、どうすれば「イラ立ち」に対するリアクション芸を磨けるのでしょう?

答えはシンプル。お笑いの逆をするのです。前述したように、芸人さんは、あえて「大きな反応」をとることで、笑いを増幅させています。

イラッとしたときも同じで、大きな反応をすると怒りは余計に大きくなります。なので、あえて「小さな反応」を心がけて、ムダに感情を増幅させないようにするんです。

ちなみに生徒にお尻を蹴られたとき、内心は恐怖とイラ立ちでいっぱいでしたが、僕はあえて何も言わず、微笑みながら会釈をしました。

無視をしたり、無言で立ち去ったりすると、職場という共同体では「その後が面倒」なので、こういった当たり障りのない小さな反応がおススメです。

日常は「どこまで見逃せますか選手権」

よく「人生はマラソン」だと言う方がいますが、僕は“どこまで見逃せますか選手権”だと思っています。

言い訳をする部下、理不尽な上司、手柄を奪う同期……。「働く」の同義語は「イラつく」じゃないか? と思えてくるほど、私たちの職場には無数のイライラトラップが埋まっていますよね?

しかし、「許せない」という感情を分解していくと、そのほとんどが、瞬時に湧きあがる「今は許せない」という“時限式の感情”です。

家に帰ってネトフリを見て、熱めの風呂でサッパリして、一晩寝たら、「ま、いっか」になることが大半なので、こんなふうに考えるとお得です。

「これは、許せないのではなく、今は許せないってことだな。よし、この処理は未来の自分に任せよう」と。

皆さんの中には、アンガーマネジメントを実践している方も多いでしょうし、怒りっぽい(ぽくなった)自分に悩んでいる人もいるでしょう。

しかし、そもそも社会は、何をしても誰かがイラ立つ、誰かが怒るようにデザインされているので、心が乱れるのは普通です。

大切なのは、「今日も私を、どこかの誰かがイラつかせるんだろう」を前提にして暮らしていくこと。

そして、その社会構造を承知したうえで、イラッとさせる人たちを“どこまでスルーできるか?”と思考する。

僕はこれを“どこまで見逃せますか選手権”と呼んで、ゲームのような感覚で日々プレイしているんです。

何か一つでも参考になることがあれば幸いです。

ではまた来週、別のテーマでお逢いしましょう。

桝本 壮志/Soushi Masumoto
1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2023年M-1決勝に輩出。

COMPOSITION=古澤誠一郎

TEXT=桝本壮志

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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