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2024.10.14

スピード出世よりも「静かな出世」を! リーダーが考えるべき育成マネジメント

放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2023年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。

「お前は“静かな退職”についてどう思う?」

報道番組のベテラン演出家と夜の新橋にくり出したら、芋焼酎3杯で社会派トークをおっぱじめました。

彼は酒豪だし、泣き上戸だし、酔うと肩にカーディガンをかける化石テレビマンなので、静かな退席をしたいと思いました。

言わずもがな「静かな退職」は、必要最低限の仕事をこなしつつ会社は辞めないけど心の距離を置くこと。

僕的には、昔からあったビジネスパーソンの精神性に名前がついただけで、悪く言えば「給料泥棒」だけど「積極的な窓際族」とも言えると思っています。

そんな個人見解を彼に伝えるうちに、ふと気づきました。

いつも吉本NSCで伝えているのは「静かな退職」ならぬ「静かな出世」だったんだなと。

一体、どういうことか? 今週は、育成マネジメントに有用な思考のシェアです。

「目立つ」「見つかる」に潜むリスクヘッジ

SNS上に「成功者の自慢」があふれているせいか、芸人学校には「早く目立って、見つかって、成功したい」という考えの生徒がたくさん入ってきます。

一見、芸人にとって「目立つ」「見つかる」は良いことに思えますが、その先入観が危ういのです。

今はスマホ1台で誰もがテレビ局になれるので目立つことは容易。デジタルネイティブな彼らの得意分野です。

しかし、社会人になるということはコード(準拠すべき倫理)の内側に入るということ。

「悪目立ち」との境界線が引けないまま投稿して炎上。有望株だったのに業界を退場した教え子もいました。

また、若くして「見つかる」ことが幸福かどうかも一概には言えません。芸が未成熟なまま世間に見つかり、メディアに消費されていく若手も多く、そのスピードが加速しているからです。

皆さんの職場でも、SNSで不用意な発言や、うっかり社外秘情報を漏らしてしまった若手、飲み会の仕切りがうまいという理由で見出されたけど、現場能力はイマイチで見切られてしまった新人はいませんか?

すべては実力不足でなく情報不足。しっかり地に足をつけ、業界に順応していけば、別の世界線が生まれますよね。

最低限の仕事をしつつ“会社”とは心の距離を置くのが「静かな退職」なら、最低限の仕事をしつつ、まずは“上昇志向”を手放し、短期戦でなく長期戦で勝つ筋力・知力を身につけていく。それが「静かな出世」なんです。

では次のステップに参りましょう。

静かな出世=耐性をつくること

NSCは芸人の学校ですが、お笑いには「これをやれば面白くなる」といった魔法や虎の巻はないので、究極は教えることなど一つもありません。

なので僕は、「耐性=今後の環境変化に適応していく力」をつくることを育成の重心に置き、“心の「つまみ」が社会人にチューニングできていない人材”を徹底的に指導していきます。

例えば、コロナ期間でリモートに慣れ、「授業もタブレット参加でいいっしょ?」という若手が増えているので、こう言います。

「魚をさわらず漁師になった人、子どもにふれず保育士になった人がいると思う? 人間に会わず芸人になるなんてムリやで? だから授業に来い」

すると、出席率は格段に上がります。しかし、あくまで「静かな出世」なので、教室に来た生徒にはこう伝えます。

「僕の授業は何回ズル休みしてもええよ。だけど学校と芸人は辞めんなよ」と。

かれこれ10年、僕の授業には「必ず守るルール」が一つだけあり、いつもアシスタントがホワイトボードに書き記します。

それは「目を見て会話すること」。そう、まるで小学生。ちなみに以前はもう一つ、「トイレをきれいに使う」もありました。

子供のしつけのような決めごとですが、これがなかなかできない。目を見て話せないんです。なので、心を鬼にして叱り、こんな情報を添えます。

「知ってる? 大企業の面接官は、入室してイスに座るまでの8秒間で、採用か不採用か判断できるんやて。今後のオーデションも同じ。初対面、初めての会話で勝手にラベルを貼られるから、せめて相手の目を見て話すクセをつけようや」と。

注目を集める、目を引くことだけが出世の道か? 耐性をつけ、しかるべきタイミングでしかるべきパフォーマンスをするのもオツではないか? 皆さんは部下に何と伝えますか?

ではまた来週、別のテーマでお逢いしましょう。

桝本 壮志/Soushi Masumoto
1975年広島県生まれ。放送作家として多数の番組を担当。タレント養成所・吉本総合芸能学院(NSC)講師。王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2023年M-1決勝に輩出。

COMPOSITION=古澤誠一郎

TEXT=桝本壮志

PHOTOGRAPH=杉田裕一

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