放送作家、NSC(吉本総合芸能学院)10年連続人気1位であり、王者「令和ロマン」をはじめ、多くの教え子を2023年M-1決勝に輩出した・桝本壮志のコラム。
4月に入学、就職した若手が辞めはじめた。
芸人学校もエンタメ界でも、熱心でマジメに見える子ほど、ある日ポキリと心が折れて辞めていきます。
これは、仕事や課題に全力で向き合う性分がゆえ、成果が乏しいと「完璧にできない自分」を「才能がない自分」に複雑に変換してしまう。そして職場から足が遠のくのです。
なので、僕の授業では「仕事は雑にやらないと複雑になるよ」と伝えています。
今週はその辺りのツボをほぐしていきましょう。
サンプルばかり集め、シンプルになれない現代人
令和の若手芸人は、劇場に行かずともYouTubeにサンプル(見本)がたくさんあるので「笑いの勉強」はカンタン。
が、サンプルを詰め込みすぎて“頭でっかちな若手”が増えています。
彼らは考察・分析能力は高いけど、「やってみる」「恥をかいてみる」といった“実行にすこぶる弱い”。
美味しいものを食べるためには「皿」を空にしないといけないのに、どんどん別メニューを頼んで、ただ眺め、味を想像している。
“空にしないと新たな「うまみ」はやって来ない”というシンプルな発想を忘れはじめているんですね。
先日も、まだ劇場に立ってないのに、「もし緊張したらどうすればいいですか?」と聞いてきた生徒がいたので、こう返しました。
「そもそも君が思ってるほど、みんなは君に興味ないよ。いろいろ“ミスらない条件”を整えてから実行しようと思ってるやろ? でもな、ミスらない条件が完全に整うことは一生ない。日々は見切り発車の連続でいいんやで」
生徒の顔が少し晴れやかになったので、伝えてよかったと思いましたね。
なんでも座学にしてしまう「複雑LOVE社会」
仕事や組織を「複雑化」してしまうことは、私たちリーダーポジションにもあり得ます。
4年前、吉本NSC生の漫才が急につまらなくなりました。みんな判を押したように、同じフォーマットやフリオチになっていて個性がないのです。
理由は、学校側が「漫才の作りかた」なる座学を入れ、生徒らが金科玉条のごとく守ったから。
もちろん基礎を学ぶことはけっこうですが、クリエーターである芸人が「右ならえ」になり、無個性になってしまうのはよろしくない。
これは、何でもマニュアル化してしまい、実践よりも座学を増やしている会社も同じ。
マニュアルは必要ですが、マニュアル人間を増やしてしまうのは損失だし、あとから「個性がない」「もっと斬新なアイデアはないのか?」とつつくようなチームの複雑化を招くこともあります。
ちなみに僕は、同じフォーマット漫才になった生徒らにこう伝えました。
「大谷翔平やメッシが、ルールブックを読んでから競技を始めたと思う? まずホームランを打つ喜びやドリブルの楽しさがあって、やっていくうちにルールを覚えたはずやろ? 漫才も、まずは楽しさ、ウケる喜び。作りかたより、自分なりの“弾みかた”を味わってみたら?」
生徒らの漫才に個性が出はじめたのは言うまでもないでしょう。
リーダーは、マニュアルを教えつつ、自分なりにハミ出す、間違えていく楽しさを伝え、何でもマニュアル化していく「複雑LOVEな社会」と、時には距離を置くことも大切です。
デスクワーク、対話のコツも「雑」にあり
最後に、このコラムの初稿は20分で書きました。
デスクワークや資料作成もそうですが、丁寧にやろうとすれば一文字ずつ熟考し、引っかかる。
対話やLINEの返信も同じ。しっかり答えようとすれば時間を費やします。
なので僕は、まずは雑にバーッと書いてしまう。“細かい修正は雑にやったあと”と決めています。
よくSNSで、「雑にやったら雑用になる。心を込めてやると立派な仕事になる」といった言葉を目にしますが、果たしてそうでしょうか?
僕は「仕事は、雑にやるくらいのほうが複雑にならない。雑に始めたほうが効率はアップする」と感じています。
ではまた来週、別のテーマでお逢いしましょう。