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2024.06.26

「ずばり、ジュガード」スタバ、Google…“インド出身CEO”が世界の大企業を席巻している理由【亀田製菓会長が分析】

「亀田の柿の種」「ハッピーターン」などでお馴染みの亀田製菓CEOはインド出身だった! ジュネジャ・レカ氏インタビュー第3回は、なぜ今、世界的企業のトップに続々とインド人が就任しているのか。その理由と、今の日本企業に必要なマインドを語る。#1#2

亀田製菓代表取締役会長CEOジュネジャ・レカ氏
亀田製菓代表取締役会長CEOである、インド出身のジュネジャ・レカ氏。

逆境でも絶対に諦めないインド人の強さ

シャネル、スターバックス、YouTube、そしてGoogleを傘下にもつアルファベットなど、現在世界の名だたる企業のトップはインド人だ。

1984年に来日して以降、食品素材メーカーの太陽化学、ロート製薬で副社長をつとめ、現在は亀田製菓代表取締役会長CEOであるジュネジャ・レカ氏は、ビジネス界におけるインド人の強さをこう分析する。

「ずばり、フレキシビリティーでしょう。インドにはJugaad(ジュガード)という言葉があります。これは『限られたリソースを使用して効率的なソリューションを即興で提供する』という意味です。つまりどんな逆境でもけっして諦めないということ。

例えばビジネスにおいて、人がいない、金がない、時間がない、という状況は多くあるでしょう。これは私たちインド人にとっては『できない理由』にはなりません。単なる課題だと捉えているのです。人がいないならどうすればいいか、金が、時間がないならどうすればいいか、常にフレキシブルに解決策を探る。インド人には逆境のなかでチャンスを掴むという気持ちがとても強いんです」

亀田製菓代表取締役会長CEOジュネジャ・レカ氏
「Jugaad(ジュガード)」の意味が記された社内向けの資料。

インドには14億もの人がいて、競争が厳しい社会だとはよく言われていることだろう。そのとおり、大学受験では0.1ポイントを争う熾烈な戦いになるという。その競争が切磋琢磨となり、課題を乗り越える力につながっているのだろうとジュネジャ氏。また研究職であろうとも、多くの人が大学や大学院、MBAスクールなどでマネジメントを学ぶため、研究者でありながらすでに経営者のマインドも持ち合わせるのだという。

「そしてインドは公用語が英語なので、教育を受けた多くの人は英語を使うことができます。これが他のアジア諸国に比べて大きなアドバンテージになっている。そして欧米に進出し生きること、ビジネスをすることでまた新しい課題と直面し、一皮も二皮もむけていく。そうやって洗練されていった人たちが、名だたる企業のトップとなっているのでしょう」

亀田製菓代表取締役会長CEOジュネジャ・レカ氏
ジュネジャ・レカ/Lekh Juneja
1952年インド・ハリヤナ州出身。1984年大阪大学工学部に研究生として入学。1989年太陽科学入社。2003年に代表取締役副社長に就任。2014年にロート製薬へ移り取締役副社長に。ロート製薬子会社の社長なども務め、2020年に亀田製菓へ副社長として入社。2022年代表取締役会長CEO就任。

器用で勤勉、でもガッツが無くなった日本人

Jugaad(ジュガード)、その言葉のなかには「課題に直面したら、まず自分ができることをする」という意味もあるとジュネジャ氏は理解している。

「研究者として入社した太陽化学の1年目、周りはインド人なんて見たこともない、という人たちばかりで(笑)、言ってしまえばアウェーな場だった。であればまず得意の研究をと1年目に論文を書き、それを話題にしてもらい新聞に載せてもらいました。そこから『あのインド人、けっこうできるのでは?』と思ってもらえて、副社長にまでなることができた。

私は口癖のように『私にやらせてください』と言って常に手を上げてきました。みんながやらない、やりたがらないことも、自分にできるならやる。魂を持って仕事をする。そうやって課題をクリアし、道を切り開いてきたつもりです」

まさに不屈の魂とチャレンジ精神。これこそが今の日本にもっとも足りないものなのかもしれない。

「私が来日した1984年当時、日本のGDPはインドとかけ離れて高く世界のトップ10企業の中には日本の会社が多く入っていました。長者番付にも日本人の名前が多くありましたね。今は……残念ながらそうではない。

けれど、日本のものづくりは、けっして変わっていません。今でも素晴らしいものをつくり続けている。日本人は変わらず器用で勤勉です。変わったのは、ガッツだけ。今、日本人は世界に出ていこうとせず、コンフォートゾーンに留まってしまっている状態です」

ジュネジャ氏が来日した1984年はまさにバブル期真っ只中。それは戦後焼け野原となった日本が、自分たちの存在意義をかけて働いた、ジュネジャ氏の言うところの「ガッツ」、その結果が導き出した好景気だった。しかしもはやそれは過去の話。現代の日本で企業が成長していくにはどうすればいいのだろう。

「海外に出ること。伝えること。人材、商品、すでに十分に素晴らしいリソースを持っている。それは世界もとっくに知っているんです。けれど多くの日本企業がそのリソースを国内に向けてのみ使用してきました。多くの日本の素晴らしい商品は、国外でヒットするポテンシャルを持っている。リスクをとって、もっと外に、どんどん出るべきです。

英語だって、カタコトでいいから、とにかく伝えるために、自分から話すこと。私だって日本語はまだまだ中途半端。でもいいんです、ネイティブじゃないんだから。だから気にせずベラベラ喋ります。けれど日本人は『完璧に話せないから』と、遠慮して話さない。もっと日本人もフレキシビリティーをもって、できない、なんて決めつけずに話して、動いてほしい」

亀田製菓代表取締役会長CEOジュネジャ・レカ氏
亀田製菓のポスターには、社員がモデルとして数々登場している。そのポスターを嬉しそうに見つめるジュネジャ氏。

苦しくてもプレッシャーをかけ続ける

40年日本で暮らし、日本に帰化もしているジュネジャ氏。亀田製菓を世界に知らしめることが、日本社会に貢献することだと、使命を感じている。そのなかで、若い社員たちに常に言っていることが2つあるという。

「ありきたりですが、指示待ちの人間にならないこと。新人には上司からたくさんの指示があるでしょう。それは指示ですから、きちんとやらなければいけない。けれどそれ以外に『自分に何ができるか』を考えることです。自分がどんな商品をつくりたいか、それをどう売りたいのか、ひいては自分はどんなキャリアを描いていきたいのか、常に未来を描き、自分から動いていく人が成功できるのです。

もうひとつは、深掘りすること。私は研究者でもありますが、Researchとは文字通り『再び調べる』ということ。何度も何度も調べて深掘りすれば、きっとイノベーションを起こせるはずです」

最後に、ジュネジャ氏はこう呟いた。

“Pressure makes diamonds.”

「圧力がかると、炭素はダイアモンドに変わります。同じ場所で同じ仕事を続けるのではなく、常に自分にプレッシャーをかけて新しいことに挑戦する。苦しいことですが、成長はそれでしかあり得ません。そうして磨かれていくのです。日本の皆さん、今すぐ、コンフォートゾーンから抜け出してください」

日本の伝統菓子の老舗メーカーである亀田製菓。その社員たちは今、ジュネジャ氏のもと、世界中を飛び回っている。海外に出るなど、考えもしなかったベテラン社員たちもまた、その変化に対応して成長を遂げているのだという。

「真っ黒い炭素のままでいたいですか? それともダイアモンドになりたいですか?」

そう微笑むジュネジャ氏の言葉から、今の日本に足りないものを見つけた気がした。

TEXT=安井桃子

PHOTOGRAPH=鮫島亜希子

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